Polluxー7ー
村へ突入すると――、村に残っていた女子供、それに老人は一瞬で凍りついた。戦えそうな男衆は全て追撃に回っているんだろう。
残っていた非戦闘員は、火消しに走り回って一息ついたところだったのか、村の中央に全て集まっているようだった。
急な襲撃に誰もが声を忘れる中、村中隅々まで響くように声を張り上げる俺。
「全員動くな! 騒げば即座に殺す!」
後に続くエレオノーレが抜き身の剣――、その切っ先で村の連中をなぞる。子供や若い女の何人かが悲鳴や泣き声を上げたが、概ね予想の範囲で混乱は納まっている。
初動に立ち遅れた敵は、隙を探そうとする。変なタイミングで飛び掛れば、最初に飛び掛る数人が死ぬからだ。損な役回りを好き好んでやるバカはいない。もしいたとしても、追撃部隊の方に志願しているだろう。
俺達がすべきことは、一斉にごちゃっと反撃される前に頂くものを頂いて、かつ、村を混乱させて中継基地としての機能を半減させることだ。
場の支配権を取り、次にここのリーダーを探そうとすると、俺よりも先にそこに行き着いたのかエレオノーレが憎々しげに声を荒げたのが聞こえてきた。
「よくも……!」
見れば、村長のババアに詰め寄ったエレオノーレがいる。
しかし、あのババアも伊達に長く生きてきたわけではないのか、怯む事無くエレオノーレに言い返してきた。
「なにをお言いだい! お、お前等みたいなのを! お前らを匿えば、うー、匿っていると判断されたら、この村がど、どっど、どうなると思ってるんだい!」
言い返されたエレオノーレが怯んだ。顔から闘志が引いている。拙い、と、思って即座に周囲に視線を巡らす。
エレオノーレの動揺に反応して不審な動きをした青年になりかけたような少年を、蹴転がし、転がっていく最中にその耳に指を引っ掛けて引き千切った。
「えぎゃぁあああ!」
全員の視線が、俺に集まった。のた打ち回っているクズを強く踏みつけエレオノーレに鋭く極め付ける。
「エル! バカは伝染るんだ。ゴミと話すな」
奪われかけた場の支配権を奪い返す。
多対一の場合、特に訓練されていない烏合の衆の相手なら、全員相手に勝てなくても、見せしめに血を流させ、実力差を分からせてやれば意外とすんなり事は収まる。
が、逆に言えば、支配権を奪えない限り、圧倒的少数のこちらが袋叩きにされて終わってしまうという事でもある。
この場を無事に切り抜けるには、絶対に舐められるわけにはいかなかった。
「おい、ババア。皆死んだ後で勝手に家捜しされるのと、賠償金を支払って俺たちに丁重にお引取り頂いて貰うのとどっちが得だと思ってるんだ? こっちは最大限譲歩してやってるんだ。とっとと決めろ」
足の下の頭を踵で踏みにじりながら、腰のナタを抜く。武装した兵隊相手には役に立たないが、こうした場では刃物は有利に働く。
「次、時間稼ぎと判断したら、手近なヤツをひとり殺す」
どうする? と、一番近くにいた女に刃先を向け、ババアに訊く俺。
しかし、村長のババアは苦渋の表情ですぐには動こうとしない。残念ながら、エレオノーレの甘い判断を俺にも期待したようだ。
ふう、と溜息を吐き――無造作に女の首筋にナタを振り下ろす。
峰打ちだが、火事を収めるのに火を始末しきった暗がりだったので、そう判断出来た人間はいないだろう。それに、女は悲鳴も上げずに失神し、ふらりと地面に倒れ伏したのも誤解を広げるには良かった。近付かれればバレるが、傍目には二人を無慈悲に殺傷したと思われているんだ、そんな危険な手合いに、わざわざ近付いてくるバカもいなかった。
遅れて、あ、と、エレオノーレの呟きが聞こえ……、村長の老婆がしわがれ声で早口に返事をした。
「わ、わくぁった」
最初からそうしておけ、と、ババアを睨み、甘さを敵に見せるな、と、エレオノーレに冷ややかな視線を向ける。
エレオノーレは返事をしなかったが、しかし、やるべき事は分かっていたようで、俺の背中についた。
エレオノーレに後方を警戒させつつ、どちらかといえば戦意を削ぐために――素手でも老人程度なら問題なく殺せる――刃物を村長に突きつけながら、最初に通されたのと同じように村長の家へと歩を向けた。
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