Polluxー5ー

 軽装歩兵がつかみで五十、農具や木剣で武装した村の男衆が八十といった所か。まだ事態はそれほど深刻なものでもないらしい。多分、面子だのなんだのに拘っているんだろう。

 しかし、いくら俺達とはいえ、多勢に無勢だ。まともに正面からぶつかり合えば負ける事に変わりは無い。

 そう、バカ正直に囲みを破ろうとしたら、な。

「それで、お前はどうするんだ?」

 小窓を静かに閉め、ニヤニヤと笑いながら、肩越しに振り返ってエレオノーレの顔を見る。

 肩が小刻みに震えていた。怒っているのか悲しんでいるのか、判断が難しい顔をしている。ギュッと――細身の剣を、指が白むほど強く握り締めている。

「……私が時間を稼ぐ。その隙にアーベルは――」

 面白くもなんとも無い台詞が出てこようとした口を、ぶん殴って黙らせた。

「な――!」

 土が剥き出しの床に転がったエレオノーレが、非難する目を向けてきた。得物が無いので切っ先は突きつけられない。その代わりに、言葉を尖らせて突き刺す。

「言った事に責任を取れ。お前が死んだらつまらんだろう。いいから、ぞ」

 言い終えるとすぐに作っておいた藁束を抱えて準備を始める。エレオノーレの反応は待たない。まあ、概ね予想は出来ているが……。

 しかし、向こうもバカじゃない。敵は同じラケルデモン人だ。こちらの動く気配を察したのか、村中に一斉に灯りが点った。

 夜が赤く燃え上がる。

「それでなにをするつもりだ?」

 ひとりだけ事態においていかれた感のあるエレオノーレが不安そうに俺の手元を覗き込んできたので、早口で命令する。

「いいから手伝え、俺の真似をしろ」

 出立の――、そして、戦闘の準備が完了したのはそれから程なくのことで、怒声での降伏勧告は準備を終えた直後に響いてきた。

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