Polluxー4ー
左手を庇いながらなので時間は掛かったものの、なんとか縄を結い、それで藁を括ったものが十五本となった時、ちょうどエレオノーレが戻ってきた。
「なにをしているんだ?」
「見て分からないか?」
左目を持ち上げて訪ねると、エレオノーレは口角を緩めてどこか優しく答えてきた。
「なんだかんだ言っても、アーベルだって優しいじゃないか?」
「ア?」
「乱雑に積まれていた藁を、村の皆が使いやすいように括ってくれていたのだろう?」
予想外な言葉に訊き返すと、随分と能天気な答えが返ってきて閉口してしまう。コイツは、心底おめでたいな。
解説してやる気も失せたので、虫でも払うように右手を振ってからまとめた藁の上に寝転がる俺。
ちょうどいい時間だったので、そのまま夕飯になったが――。
飯の間中、エレオノーレがこの村の人間がいかに良い人で、襲撃するなんてもっての外、いくらお礼を言っても言い足りないと、喜色満面に今日あったことを話していた。正直、うざったいが、遮ろうとしても藁をまとめた作業について指摘されるという悪循環だ。
飯を終えても続くその話を、灯りの松明を点け、うんざりしながら聞き流していると……不意に村の空気が変わった。微かに響く佩楯が擦れ合う音。囁き声、忍ばせたごく弱い足音。流れる夜風に、僅かに油の匂いが混じった。
俺からかなり遅れて、エレオノーレもそれに気付いたようで、バッと身を起こした。
「なにが……」
本当は分かっているくせに、そんな戸惑いの声を上げるエレオノーレ。俺は、その間抜け面に嘲るように言った。
「バーカ」
呆気にとられた顔が目の前にある。
ニヤリと笑って俺は続けた。
「闘争の始まりに決まってるだろ」
納屋の小窓を少しだけ開けて外の様子を窺う。
月は痩せ細り篝火もまだ焚かれていなかったが、元々夜中の襲撃を主にしている少年隊の行動方針のおかげか、周囲の状況把握に支障は無かった。
どうも、あの赤いマントの部隊はいないようだった。特徴的な三日月形の盾――ペルタを左腕に装着し、投擲用の短い槍をペルタの裏面に三本ストックさせた軽装歩兵。腰には、やや短めの
動きの癖から見るに、どうやらこの地区の部隊だけのようだな。動きが洗練されていない。それに、足運びや布陣の仕方が俺のいた地区とは異なっている。
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