Polluxー3ー

「お連れさんも怪我をしているようですし、今日はゆっくりしていて下さい」

 と、俺達をあばら家――むき出しの土間に、石を積んだ壁、木の屋根と本当に粗末な造りだ――に案内してきたよく日に焼けた俺と同年代ぐらいの男が言って、そのまますぐに立ち去ろうとした。

「いや、俺は平気だ。エレオノーレ、村の皆を手伝ってくるといい」

 エレオノーレは、びっくりした顔で俺をまじまじと見ている。

 案内してきた男も、どこか戸惑った調子で「い、いや、こっちは大丈夫で……」とか、なんとかモゴモゴと口を動かしていた。

 ふ、と、少しだけ口元を緩める俺。

「もうじき夏になる。大麦の収穫期に入るんだろう? 人手がいるんじゃないか?」

 そう尋ねると、確かに……と、男はしばらく悩み、それからエレオノーレを見た。エレオノーレは、俺の予想通りに大きく頷いて快諾した。

 納屋を出て行くエレオノーレに、すれ違いざまに耳打ちする。

「連中を見張って通報されたかどうか探れ。食事は一緒しても良いが、連中と同じ鍋からお前の手持ちの器に貰い、他の連中が口をつけてから食え」

 今度はやや眉を顰めながら驚いたエレオノーレは、唇を苦々しく歪めてから小声で分かったと言い残して男の背に続いて納屋から出て行った。

 二人の背中が遠のいてから、入り口の戸を閉め、壁に耳を当てる。

 建物の周囲に人が潜む音はしなかった。土間になっている床に耳を当てる。近付く足音は聞こえない。

 それからようやく納屋にあるものと手持ちの荷物を確認し――。作戦を考える。

 充分な量の藁と、木製の農機具。手持ちの刃物が少々。

 まあ、なんとかなるだろう。

 手始めに、納屋にあった藁を選別し、手ごろな長さの物を選んで葉鞘を取る。その後に、十本程度をまとめて木の棒で打ち柔らかくし、編んでいく。

 村の広さから考え、必要となる量を計算する。最低限十束あれば凌げるだろうが、多ければそれに越したことは無い。目標は十五本程度と勝手に決める。

 左腕を庇いながらなので作業は捗りはしないが、無理を押してというほどの重労働でもなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る