Wasatー12ー
「そこ、だよ」
まるで俺の頭の中を読んでいたようなタイミングで声を掛けてきたエレオノーレ。
内心、少なくない動揺があったが、それを誤魔化すために勤めて不機嫌そうに俺は返事をした。
「あん?」
「力で押さえつけたって、いつかやり返される。それをずっと続けていくの? そのためにこの国に残るの?」
意識していなかった胸の奥に、不意に冷たい手を差し込まれたような、そんな悪寒にも似た感覚が背筋を昇ってきた。
人はいつか死ぬ。
戦いの中、負けて死ぬ日がいつか来る事は分かっている。しかし、それがどういうものかは、まだ完全には理解出来ていないような気がした。
戦いの果てに地に伏し、抵抗出来なくなった時、自分目掛けて振り下ろされる刃。
恐怖が無い、とは言えない。ただ、精根尽き果てたその時には、楽になれる、とも思うんじゃないだろうか? 事実、あの夜の戦いで傷に恐怖は無かったし、怪我で朦朧としていたその後は、殺すのも殺されるのも同じことのような気がしていた。
……エレオノーレを殺せずに、逆に殺されたとしても、楽になれる、という気持ちが、全く無かったわけじゃなかった。
俺の迷いを敏感に察したのか、エレオノーレはそのまま畳み掛けてきた。
「誰も殺さない生き方もあるんじゃないの? 支配じゃなくて、支え合うことで、さ」
だが、それは違うような気がした。
生きるために他者を犠牲にするのは、必要悪の部分もある。というか、社会はそういう風にしかできていない。政治形態によって、搾取される側をどこに置くかが変わるだけだ。
ラケルデモンでは奴隷を最下層に置き、戦闘能力で序列を組んでいる。他国では、商才であったり、文芸の才能であったり、はたまた農学や、冶金術で序列を組み、その技術の優れた人間が他を支配する。
国とは、その特性によって利権を一部の人間が搾取する構造そのものを指している。突き詰めれば、殺し方が違うだけだ。ラケルデモンのように一息で殺して全部刈り取るか、ちょっとずつ金を奪って貧しくして緩慢に殺していくか、だ。
俺は、間違いなくラケルデモンの政治に己の特性が合致した模範的国民で……その点において決定的にエレオノーレとは別の人間だった。
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