Wasatー3ー
余力が全く残っていなかったので、すぐに食えるものを適当に腹につめ。落ちてきた場所からそう遠くない場所のリュコポーンをエレオノーレに適当に薙ぎ払わせ、露営することにした。
これまでのような場所を探すことは難しかったので、最低限警戒できる間合いを取って、エレオノーレと隣り合わせで横になる。
が、全く眠れなかった。目を閉じても、寝ると頭で決めても。一時間……いや、二時間はこうして仰向けになって転がっているのに。
眠気そのものはある。いや、眠気、というより、頭の芯が重いような痛いような、軽い眩暈に似た感覚だが。
なのに――、熱くて眠れない。怪我をした場所だけじゃない。病気の時のような、全身からの悪寒を伴う発熱だ。傷が熱を持つというのは知っていたが、まさかこれほどは……。
……? ッツ!
不意に、胃の奥を突き上げてくる衝動を感じ、草の即席のベッドから転がって離れる。エレオノーレが、完全に視界に入らなくなった場所で、喉に入れていた力を緩め――吐いた。
「ハァッツ! ウ……ウォエ、ゲ、ェ……バハァ!」
変な感覚だった。
吐く際にある、胃酸が喉や口を焼く感覚が無い。何度か繰り返し腹が痙攣し、その度に俺は水を吐いていた。
胃酸の気配がほとんど無いが、食い物の残りが無いところを見ると、消化出来てないわけではないと思う。
吐いた反動で、頭が痛い。気持ち悪い。腹の中が落ち着かない。内臓がのた打ち回ってるようだ。
水を……。
水袋を口にあて、漱ぐ。しかし水を飲むのは止めた。どうせまた吐くだけだ。もしかしなくても、水で胃酸が薄まったせいで吐いたのかもしれないしな。
どうせ寝れないのならと、近くにあった棒っきれを手に構えてみる。昔のエレオノーレを笑えない? いや、今は得物が無いんだから仕方ない。
右手だけで持った木の棒を肩まで振り上げ――、叩き付けるように斬り下ろす。
音が……鈍かった。
え? と、戸惑ったのは一瞬。
同じ動きをもう一度行う。
腕が、自分の物じゃない気がした。
元々、右手だけでも剣は振れた、それが、このざまはなんだ?
試しに今度は横に払ってみる。
遅い、鈍い、払い終えた後に次の動作が繋がっていない。
斬り上げる。
違う、踏み込みと腕の振りが合ってない。これでは到底骨まで斬れない。
「はっ……はは」
笑うしかない、そんな洒落にもなりはしないバカな言葉が頭に浮かび――、散々に叫び荒れ狂う胸の内に反し、こみ上げてくる乾いた笑いを明けゆく空へ放つ。
……怖かった。怪我の影響はある程度仕方ないと思っていた。しかし……。戦えなくなっているほどとは思っていなかった、のに……。
これが、俺か?
今の俺は、この程度なのか?
生れ落ちて十四年間、絶え間なく鍛えてきたその結末が?
寄って立つ唯一の物が……少なくとも今の、この瞬間には、力が無くなっていると分かった時、目の前の現実は、ばらばらに崩れていった。
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