Propusー13ー

 剣を振り下ろし一撃、そのまま横に薙ぎ二撃、捻って腰の回転で突いて三撃――。

 姿勢を低くした二人目が、三撃目を受け流した一人目を庇うように俺の目の前に躍り出て、左からは三人目と四人目が姿勢を低くして突きかかってきた。


 二撃が限界だな。

 致命傷を与えられた敵はいない。先頭のヤツは、いいとこ皮一枚、肩と足を切った程度だろう。しかし俺も、肩にかすり傷を貰ったので、敵の人数を考えればこちらの損害の方がでかい。

 二度目の攻防は、一度目の教訓を活かし、二度斬りつけてすぐに退いた。

 お互いに傷無し。

 三度目の攻防で一人確実に突き殺し、四度目の攻防では戦果無しで脇腹に浅い一撃を貰った。

 五度目は、腹の出血を左手で抑えながらなんとかいなした。

 一対一なら戦えない相手じゃないが、連携されている限り、勝ち目はない。

 あと三度は凌げないな。

 ――と、その時、前を走っていた女が足を止め、振り返って剣を構えた。

「止まるな! 真っ直ぐ走れ」

「先は崖だ! 道を間違えたんだ!」

 俺と戦わないという判断をしたあの日の冷静さはどこへやら、激情で剣を構えるバカ女。どん詰まりの場所へ出た責任を感じているのかもしれないが……。

 ダメだ! 今のコイツじゃ一撃で返り討ちにされる。

「それで良いんだ。来い――クソ! バカめ!」

 突っ込もうとしたバカの首に左腕を回して引き止める。

 足が、流れが、止まった。俺と女の両方の。それは……戦場で動きが止まることは、最大の隙だった。


 女が突きかかろうとした相手の斬撃。真一文字に振り下ろされた剣が、女の眼前すれすれを過ぎ――俺の左腕を深く引き裂いた。怪我を無視して女を強く胸に押し付ける。女の肩が震えてるのが分かった。

 半回転し、腕を切った相手を突き殺す、が、意図せず腕から力が抜け、剣は相手の腹に残ったまま、暗がりへと死体と共に消えていった。

 左腕を切り落とされるのは回避していたようだった。骨も無事だが――、浅くはない。動脈までイったか?

 痛いとかじゃなく、熱いと瞬間的に感じた。重症の時にこういう場合がある。良くない。痛みは後からジンジンと……いや、切れた傷口の表層同士が擦れ合うから痛むのであって、深い所は軽く痺れているような、感覚が消えかけているような、抜ける前の歯のような頼りない感触がするだけだった。

 自分で制御出来ない震えが指先に出ている。

 剣は、諦めるしかないか。命とどっちが優先かはっきりしてる。

 右手でバカの首を掴み直して引っ張り、抱きかかえて、闇にしか見えない崖に背面で飛び込んだ。

 追撃の石礫が、いくつか投げつけられたが、怪我を負うほどの威力は無かった。

 耳が風を切る。落ちていく速度が増す。

「うっ……。ひぃゃぁああぁあぁ!」

 女の悲鳴が、夜の淵に木霊していた。

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