Propusー12ー
追手をはっきりと認識したのは、次の日の夜の移動中の事だった。
闇の中の微かな色彩を目の端で捉えた瞬間、良く出来た話だと思った。
聞いた途端にこれとは、な。いや、当然といえば当然か。俺の死体が転がっていなかったから、半端な追手は逆効果だと為政者は判断したんだろう。それに、この女とも因縁浅からぬ連中のようだしな。
「おいでなすったぞ」
そっと耳打ちして、足を速める。
「なにがだ?」
俺ほどは気配を探れないのか、戸惑った調子の女が危機感のない声で訊き返してきた。
軽くウィンクして背後の闇を示してやると――。
今夜は雲の多く、しかも、満月からは随分と欠けた月明かりは朧げで、それを補おうとしているのか、松明の明かりが夜に点った。
おそらく、ひとつ前の野営の痕跡が見つかったんだろう。
目立つ赤い外套が遠くに翻るのが、明るくなった木々の隙間から見えた。
基本その壱、敵の力量を甘く見ず最悪を想定して動く。
どのみち多勢に無勢、囲まれたら終わりだ。森を抜けるまで走り続けるのは得策じゃない。星の位置からおおよその方角を割り出し、獣道を離れ、進むべき方向を人差し指で指し示した。
「先に行け、全力で走れ、あっちへ真っ直ぐだ」
女に指示を出し、腰の剣を抜き払って肩に担ぐ。人ひとりが横になれる間合いを空け、剣を振り回すのに充分な距離をとる。
「しかし……」
進行方向上の藪に戸惑ったのか、それとも、
「足手まといだって言ってるのが分からないのか!」
怒鳴りつけると、ようやく駆け出した。
「くっ!」
背後を警戒しながら、前を走る女の背中を追う。短くない距離があったのが幸いした。処刑部隊とはいえ戦うのは個人、足の速さにも少なくは無い差があるようだ。
しかも、道々には――特に野営地の近くには、木の枝をわざと危ないように棘状に地面に差しておいたりしているので、多少は足止めにもなったのだろう。
足の順に適度に集団が別れたのを見計らって、歩調を緩め、敢えて距離を詰めさせ先頭のヤツに斬りつける。
久しぶりの感触に、腹の底から笑いがこみ上げ、指の末端まで熱が漲ってきた。
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