夜の始まりー11ー

 反撃は、一拍の間も無く上から来た。

 リーダー格の男が、大上段から一直線に剣を振り下ろしてきている。

「カス相手に二人も殺られちゃってるのに、いい度胸だね〜。このクソガキ!」

 身体を捻りながら、剣の陰に身を隠し、刃先をなぞらせて受け流す。

 他の二人の気配を探るが、すぐに加勢してこない辺り、この青年隊も俺と同じようにリーダーのみの実力で成り立っている集団なんだろう。

「はぁン? 手前で餌も取れない飼い犬二匹が死んだのがどうしたのかなぁ? 五匹も取り巻き飼ってて、一瞬で半分殺られたお兄さんは」

 地面に軽く刺さった敵の剣に、自分の剣を重ねるように振り下ろして封じ、金的への爪先蹴りを放つ。

 押え付けている剣は無理に持ち上げられず、地面をえぐりながら引かれ――急所への爪先蹴りも、真後ろへの跳躍でかわされた。


 ふうん。さすがに口先だけじゃないな、コイツは。

 しかも多対一だ、押さえられて足を止めた瞬間に――。

 なんて考える間も無く、半端な間合いから半端な剣速の一撃が来た。避けた体勢のままで斬りかかってきたのだろう。正面からの斬撃で速度も無い。――が、それは迎え撃つ俺も同じ条件で、剣の切っ先近くで刃と刃がぶつかって弾かれあう。

 弾かれた反動を利用しつつ、軽く上体を捻って、手首を返し、やや後ろに右腕を引く。手首を腰の辺りまで下ろし、振り抜くのに充分な距離を取る。

 目の前の男は、弾かれた反動を利用し、初撃と同じように大きく上段に振り被っていた。

 掬い上げるような俺の一撃と、振り下ろした相手の一撃がまともにぶつかって、剣が十字に交差した。

 良くない。芯で捉え合ってる。最初片手で握っていた剣の柄に左手を添えた。強い圧力を感じる。鍔迫り合いで、足が止まった。

「らぁあぁぁああ!」

 駄目だ、拮抗してる。力を抜けない。

 引いて姿勢を崩すのも、押し切るのも、足元狙いの小細工も、仕掛けた瞬間にこっちに隙が出来る。

 成程、意図した膠着状態か。なら、次に来るのは――。左右からの挟撃と判断した瞬間、押え付けてくる剣圧が一瞬緩んだ。味方の一撃に巻き込まれるのを避けたんだろうが、判断が甘い。離れるタイミングが早過ぎる。

 俺はその隙を見逃さずに膝を折り、身を縮めるようにして後ろに下がった。

 顔を向けて左右を確認する間はない。視界の端の影を一瞬で判断する。

 近いのは左! 狙うは、その振り被られている剣の柄。

 左の敵が握っている両手を左肘で突き上げ得物を弾き飛ばし、右から来た斬撃を右に持った剣で受け、いなし、相手の刃の上を剣の腹で滑らせ、その速度を切っ先に乗せて右の敵の左腕から首筋まで切り上げる。

 白い肌に赤い線が引かれる。

 真っ赤な肉を視界の端に捉え、血が噴出すのと合わせたように右足を軽く引く。

 その右足を軸にして半回転。

 獲物を取り落とした、ひどくニュートラルな間抜け顔が目の前にある。それを認識した刹那、回転の遠心力でその首を刎ね飛ばした。

 一歩下がっていたリーダーにそのまま畳み掛けられるのを防ぐため、適当に横に飛んで距離を開け、改めて向き合う。


「あーぁ、可哀想に。これでひとりぼっちだねぇ。どぉうしたんだい? 泣いて謝るなら、オイタは見逃してやるよぉ?」

 満面の笑みで、死んでる四人のクソ野郎の分も込みで痛烈に当て擦ってやる。

 目の前にある苦渋に満ちた面。

 しかし、まだ闘争心は残っているらしく、殺気は変わりないようだった。まあ、降伏しても最初の対応がクソだったから殺すつもりだったし、これなら最後にもう少し遊べそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る