DIVE_36 仮想と現実の狭間に揺らぐ
亮司は言葉の意味を自然に理解して頷いた。おそらくは村雲亮司のデータを移植されているおかげだろう。
「
男に連れられて亮司は屋敷から出た。
黒尽くめの男は他にもいて外に集まっていた。彼らは何やら村雲の居場所について話し合っている。
「
「
そう聞かれても正確な場所は分からない。覚えているのはおそらく地下への螺旋階段を下りたこと。そしてこの場所からそう遠く離れていないこと。
考えろ。自分はあいつの記憶をまだ持っている。ならそこに答えがあるはずだと亮司は記憶を巡らせた。
かすかに浮かぶ景色。小川を超えた先。巨木のうろの中。地下への入り口。
「
不十分だがやるしかない。
村雲はあの時言った。「この私と同じ記憶を持ち、同じように考え、同じように行動しさえすればな」と。
ならば試してみる価値がある。その思惑を逆に利用させてもらおう。
あの男に、偽物の自分に成りきって考えてみる。感じてみる。
亮司は歩き始めた。森の中を何の機器もなしに。後ろから男たちがついてくる。
現実の自分に継ぎ接ぎされた仮想の自分。その狭間で揺らぎながら一歩ずつ進んでいく。
すると途中で小川が見えてきた。記憶と合致する。
亮司は振り返って頷いたあとに川を渡った。男たちもそれに続く。
おそらく研究所と屋敷を行き来していた村雲の記憶の足跡を頼りにそのまま進んでいると、目の前に巨木が現れた。回り込んでみると大きな樹洞が。
合図をしてそのうろの中に入っていく亮司。
奥に落ち葉に埋もれたハッチらしきものが見えた。そのことを外で待っていた男たちに告げると何やら準備をしてハッチのほうへ。
あの扉と同じように熱でくり抜いて突入するつもりだろう。
亮司の想像通り彼らは開かないハッチを強引にくり抜いて中へ侵入した。そのあとに亮司もついていく。
ハッチの下には梯子があって次に螺旋階段が続いていた。下まで下りていくと重厚な扉が目に入った。これはさすがに彼らのツールでもくり抜くことはできないだろう。
扉の横にモニターがあるので彼らはそこからクラッキングを試みる。
パスワードは三重で解析に手間取るが、最初のパスワードと次のパスワードは法則性を見いだしてからは早かった。
しかし最後のパスワードはそうもいかずに苦戦していた。彼らが言うには法則性のないパーソナルな数字の可能性が高いと。
「
亮司はモニターわきへ。解析機器の画面にパスワードを入力するラインがある。
この最後のパスワードを設定したのが村雲本人なら思い入れ深い何かと関連している可能性がある。
もしかしたらと思った。なぜか自分でも驚くほどに固執している商店街の復興。そこに昔あったという和菓子屋。電脳世界ではそこでミツルと出会った。
亮司は赴くままに頭の中の数字を一つずつ入力した。
カチッと音がして電子ロックが外れる。周りは驚いていた。
電脳商店街。みくらやと呼ばれた和菓子屋の跡地。特に意味のないと思っていたその座標コードに意味はあったのだ。
村雲という男がそんなヒントを与えるとは考えられなかったが、もしかしたらミツルに指示を出していた誰かが気づかせるように仕向けたのでは亮司は思った。
重厚な扉が開いて黒尽くめの男たちは順に突入していった。
その先には薄いスライド式の扉。これならツールを使ってくり抜くことができる。
程なくして奥の扉も円状にくりぬかれ、黒尽くめの男たちは一斉に突入した。
亮司は居ても立っても居られなくなり、奥の扉に開いた大穴から覗いた。
扉の向こうは研究・実験室だった。多くの機器と十数台のDIVEが置いてあり、広々としていた。
部屋の中央では白衣を着た数人の男女が後ろ手に縛られ、捕らえられていた。
部屋の最奥にはエイジと村雲がいた。二人ともリクライニングチェアに座り、ヘルメットのような機器で頭をすっぽり覆っていた。それは亮司が病院で見た検査機器にそっくりだった。
「
大型モニターの前にいる黒尽くめの男が操作したあとに何かを押した。次の瞬間、エイジと村雲の体が大きく波打った。
気になった亮司は扉の穴を潜り、エイジと村雲のもとまで走っていった。途中、黒尽くめの男に制止されたが、振り切った。
亮司の前で二人の頭をすっぽり覆っていた機器が外された。村雲は死んだ魚のような目をしており、エイジは眠っているかのように目を閉じていた。
「……
村雲の様子を確認した黒尽くめの男は言った。その言葉に亮司は反応した。
「
亮司は拙い英語で聞いた。黒尽くめの男は亮司の顔を見て驚いたが、
「……
すぐに平静を取り戻して答えた。
「
「
黒尽くめの男が否定した直後、エイジは目を覚ました。
「……ここはどこだ」
エイジはきょろきょろと辺りを見回した。ぐったりとした村雲。黒尽くめの男たち。目の前に立つ亮司。捕らえられた男女。
「……そうか。終わったんだな」
それらを見たエイジはこうなることが分かっていたかのように状況を全て理解した。
「
ほっとする亮司の後ろから一際渋い声が聞こえてきた。そこにいた者全員が一斉に振り向いた。
「……
「
亮司の問いに、男は答えた。
アンドリューは白髪で険しい顔つきをしており、村雲亮司と同じくらいの歳だった。
「
アンドリューの指示で黒尽くめの男たちは動き始めた。四人が白衣を着た男女数人を連れていき、解析班と思しき三人は大型モニター前に集合した。
さきほど亮司と会話した黒尽くめの男は人形のようになった村雲を担いだ。
「
アンドリューは亮司とエイジに向けて言った。
「……ほら、行くぞ」
亮司はエイジに手を差しだした。
「…………」
エイジは戸惑いを見せたが、やがてその手を取った。
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