DIVE_33 村雲亮司
「良川さん。村雲亮司はいったい何をやろうとしているんですか? 私は長い間、彼の指示に従い行動してきましたが、結局真意は理解できませんでした」
村雲亮司の真意。それは檜山が長きにわたって相当思い悩んだものだった。
「……彼は完全自律型AIの研究をしていますから、それに関係のあることかもしれません。あるいは……いえ、なんでもありません」
良川は途中で言葉を呑み込んだ。
「完全自律型AIの研究……。それがどう繋がるのか……」
額に手を当てて檜山は考え込む。良川も良川で何かを考えているようだった。
「真意も本当の目的も直接本人に聞けばいいじゃない」
二人が考え込む中、鈴森ははっきりと言った。
「……確かに。その通りだね」
檜山は納得して今考えていることを頭の片隅に置いた。
「とにかく亮司が今どこにいるのか、どこに向かっているのかを考えましょう。事件の鍵なんだから、鍵穴もすぐ近くにあるはずよ」
「そうは言っても、手がかりがないことにはどうしようも……」
良川が弱音を吐くと、
「あなた偉いんでしょ。どうにかならないの?」
鈴森は上から目線で返した。
「あちらの世界は庭と呼んでもいいくらいに詳しいですが、こちらの世界についてはからっきしで……」
良川は頭を垂れてさらに弱音を吐いた。その時、
「どこに向かっているのかなら分かるよ」
檜山が横から唐突に言った。
「……え?」
「……ん?」
二人は魂が抜けたかのようにポカンとした。
「もう一度言うよ。亮司君がどこに向かっているのかなら分かる」
檜山はもう一度言った。今度はさっきよりも丁寧にはっきりと。
聞き間違いでないことが分かった二人は我に返った。
「今朝、亮司君に噛ませたあのガム、実は発信機なんだ。念のために保険をかけておいたんだよ」
「……なんと。抜け目がないですね……」
良川は驚嘆の声を漏らした。
「でもちょっと待って。前に問い詰めた時、知らないって首を横に振ったわよね。……どういうことなの?」
あの時の返答に納得いかず鈴森はそう問うた。
「また怒られるかもしれないけど、嘘だよ。あの状態で話したら、勢いのまま窓から飛び降りそうだったからね」
「……なるほどね」
鈴森は怒らなかった。聞いていたら本当にそうしたかもしれないと思ったのだ。
「怒ってるかい?」
「いいえ。怒ってないわよ。もしも発信機の件が嘘だったなら怒るけど」
「大丈夫。それは絶対に嘘じゃないから」
檜山がそう返事をすると、鈴森はほっとした顔になった。
「その発信機の信号はどこで確認するんですか?」
「TRUE WORLD内で確認できます。なので、僕たちに社内のDIVEを貸してもらえませんか?」
檜山は質問に答えたあとでお願いをした。
「もちろんですとも。ではDIVEルームへ案内します」
良川は大きく頷いて快諾した。
檜山と鈴森は良川に案内されて社内のDIVEルームに行った。
「ここがDIVEルームです。空いてるものを使ってください」
良川がスライド式の扉をカードキーで開けると、ずらりと並んだDIVEが目に飛び込んできた。この部屋には全部で五十台あり、その内いくつかは使用中だ。
「いっぱいあるわねー。どれにしようかしら」
「どれも同じさ」
檜山は迷う鈴森に一声かけて、最寄りのDIVEに入った。
「それもそうね」
鈴森は選ぶのをやめて近くのDIVEに入った。
二人が無事にログインしたのを確認した良川は、
「おっと、私も私も」
思いだしたように慌ててDIVEに入った。
「ねえ、ヒーナ。どうやって信号を確認するの?」
「ちょっと待ってください」
ヒーナは目の前にウィンドウを出して操作を始めた。発信機の信号をキャッチしているのだろう。
「……分かりました。亮司は今、太平洋にいます。この速さからすると、船ではなく飛行機に乗っていますね。でも一般の旅客機とは比べものにならないくらい速い」
「飛行機? 海外ってこと?」
モリリンは二度首を傾げた。
「太平洋ということは、行き先は本社か……?」
二人の後ろで、ログインしてきた良川が呟いた。
「亮司の現在地は人型のアイコンで表示されていて、追跡できるようになっています。二人にもアイコンが見えるようにしますね」
ヒーナはモリリンと良川にアイコンが見えるようにした。
「当然ですが、海や空は簡略化されているので追跡ができません。陸地に入ってから追跡しましょう」
ヒーナのその言葉に二人は頷いた。
「目的地が分かり次第、すぐに動いてもらえるように本社に連絡を入れておきます」
良川はそう言ってアメリカの本社に連絡をした。
「頼りになります」
ヒーナは心強い味方に感謝の意を表して、太平洋側の空を見上げた。
「目的地までガムが体外に排出されずに済むといいのですが……」
その空に向かってヒーナは心配事を口にした。
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