DIVE_14 心が告げる
「……カードの機能を使って見せた、ということですか。どうしてそんなことを……」
ヒーナは持ち主の意図が汲みとれず、頭を悩ませる。とその時、
「亮司にもっとカードを使ってほしいんじゃねえの?」
モリリンがヒーナの手をどけて言った。
「仮にそうだとしても、理由が分かりません。もし私がカードの持ち主だったとしたら、誰にも教えず自分で使います」
ヒーナはモリリンの意見に自分の意見をぶつけた。
「じゃあ……恩返しとか? なんか昔話みたいだけど」
「それだと、亮司とその持ち主が顔見知りでないといけませんね。……亮司、何か心当たりはないのですか?」
ヒーナはモリリンから視線を亮司のほうへ戻した。
「うーん……」
亮司は過去の記憶を辿っていくが、該当するような出来事は全くもってない。カードの持ち主のことも全く出てこない。
亮司がヒーナ以上に頭を悩ませていると、
「またか……」
邪魔をするように頭痛がし始めた。我慢して続けるが痛みは増していき、やむなく思いだすのを中断した。
「どうしたのですか?」
「ああいや、なんでもない。心当たりは全然ない……けど、気になることは言ってた」
「気になること、とは?」
「カードを掲げて左右に振る前に、『こうやって使う方が君らしいはず』と言ったんだ」
亮司のその言葉を聞いたヒーナは怪訝な顔をした。
「君らしい……ということは、その持ち主は亮司のことを知っている?」
「そうかもしれないし、違うかもしれない」
「……本当にその持ち主とは面識がないのですか?」
「なんとなく懐かしい感じがして、本当は過去に会ったことがあるのかもしれないけど、全く覚えてないんだ」
「……そうですか。覚えていないのなら、どうしようもありませんね」
亮司とヒーナの間で会話が続く。そんな中、黙って聞いていたモリリンは、
「もう一度、そいつに会うことはできないのか?」と口を挟んだ。
「もう一度、か……。どうだろう。伝えたいことはもう全部伝えたって感じだったけど」
「会えるとしたら、亮司が出会ったその場所ですね。まだ聞いていませんでしたが、どこでカードの持ち主と出会ったのですか?」
非常に気になるという表情のヒーナ。
「んー、言葉じゃ説明し辛いから案内するよ」
亮司は話すより実際に見てもらったほうが良いと考え、二人に目的地の座標を教えてから一足先にテレポートした。
商店街空き地前に到着した亮司に続いてヒーナとモリリンも到着した。
亮司は空き地の奥へと目をやるが、そこに男の姿はなかった。
「ここがカードの持ち主と出会った場所だよ」
亮司が空き地を指さしながら言うと、
「へ? ただの空地じゃねえか」
「ここがみくらや……なのですか?」
それぞれポカンとした表情で返事をした。
「現実世界のこの場所に昔、みくらやって言う和菓子屋さんがあったらしいんだ」
「和菓子屋さん……。前に私が言ったみくらやと同じものでしょうか」
和菓子屋というワードにピンと来たヒーナ。亮司は頷いて「たぶんそれと同じものだと思う」と言った。
「なるほど。……ここだったんですね」
ヒーナは空き地に足を踏み入れ、辺りを見回した。
「私にこの和菓子屋さんの情報を提供してくれた方は常連客だったそうです。話す姿はとても嬉しそうで、とても悲しそうで……。きっとみなさんに愛されていたんですね」
感慨に浸って話すヒーナの後ろで亮司はふと思った。なぜカードの持ち主はこの場所を待ち合わせ場所に選んだのだろうか、と。
「……この場所に何か……」
大きな意味が隠されているのではないかと考えた亮司は空き地に入り、手がかりを探し始めた。
「何やってんだ?」
モリリンは空き地内を丹念に調べる亮司の後ろに立った。
「この場所にも何か意味があるのかなって」
亮司は振り向かずに返事をした。
あの時わざとカードを落としたのならば、今回も何か落としているかもしれない。亮司はそう思ったのだ。
だがしかし探せど探せど手がかりは見つからない。ゴミ一つ落ちていない、雑草一つ生えていない。念のために座標コードも取得したがよくある数字の羅列で意味はなさそうだった。
ヒーナとモリリンが見守る中、亮司は顔を上げた。
「何か見つかりました?」
「いや、何も……」
亮司は微かな期待を孕んだヒーナにそう答えた。
「そうですか。でも私もこの場所には何か意味があると思います。ですから今後も調査を続けてみませんか?」
ヒーナは二人にそう提案をした。
「うん。そうしてもらえると助かるよ。なんかすっきりしないし」
「俺はいいぜ。これ以上に面白いことなんてないだろうし」
亮司とモリリンは考えることなくすぐに賛成した。
「決定ですね。それともう一つ提案なんですが、調査中に時間の空いた時はそれぞれがこの場所に訪れるというのはどうでしょう? もしかしたらカードの持ち主が来ているかもしれません」
ヒーナがもう一つ提案をすると、
「分かった。持ち主は雰囲気が独特だから一目で分かると思う」
「面倒だけど、しょうがないな」
二人はためらいなく承諾した。
「少し忙しくなりますが、体調に気をつけながらやっていきましょう」
空き地から出たヒーナはくるんと半回転した。
「よし……絶対に見つけてやるぞ」
亮司は自身の胸に手を当て決心した。見つけてやる、とはカードの持ち主を見つけてやるという意味だけではなく、真実を見つけてやるという意味もあった。
たとえどんな結末が待っていたとしても、亮司はなぜか全てを知らねばならない気がしていた。心が、そう告げていた。
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