DIVE_6 後戻りはできない

 テレポート先は人通りの多い中央街だった。フレンドリストの機能でモリリンの大体の位置は分かっている。が、人があまりに多くてなかなか見つけられない。


「くそ、どこ行ったんだあいつ」

「おそらくですが、モリリンは服屋さんにいます」


 ヒーナはきょろきょろと辺りを見回す亮司にそう言った。


「根拠は?」

「モリリンは人混みが苦手で買い物が好きです。そして少し前に服がほしいと言っていました」

「なるほど。じゃあとりあえず付近の服屋を捜してみるか」

「はい。行きましょう」


 ヒーナは納得した亮司とともに付近の服屋へと向かった。




 一件目。


「すみません。少し前ここにホストみたいな男が来ませんでしたか? 金髪、紫色の瞳で肌は小麦色、かなり生意気そうな顔をしている奴です」


 亮司がレジの女性店員に聞くと彼女は目を大きくした。


「ああ! はい、さきほどいらっしゃいましたよ。この店に置いてある全ての品を一つずつ購入なさっていました」


 その回答に亮司とヒーナは顔を見合わせた。


「どうやらもう使ってるみたいだ」

「ですね……」




 二件目。


「あの、すみません。少し前ここにホストみたいな男が来ませんでしたか? 金髪、紫色の瞳で肌は小麦色、かなり生意気そうな顔をしている奴なんですけど」


 若い二人組の女性店員に向かって亮司がそう聞くと、


「もしかしてあの人かな」

「かもかも」


 二人組の女性店員は顔を見合わせてヒソヒソと言葉を交わした。そのあと、


「はい。たぶん、ですけどその方、さっきここで店のレディースだけ全部買っていきました」


 先輩と見られる女性店員の一人がそう言った。


「レディース……。その時、何か言っていませんでした?」

「確か帰る時に、これ以上は家の中が大変になるからほしい物だけにしておこうって」

「なるほど。それで、次どこへ行ったか分かりませんか?」

「それは……すみません。分かりません」

「いえ。わざわざありがとうございました。それでは」


 聞きだせるだけ聞きだした亮司はヒーナとともにその場をあとにした。店から出る際にはちゃんと、


「あ、ちなみに怪しい者じゃないですよ。俺たち彼の友人ですから」


 二人組の女性店員に向かって釘を刺しておいた。


 それから三件目、四件目は外れ。そして五件目。


「ここにはいらっしゃっておりません。……ですが、お見かけしましたよ」


 亮司がまた外れだと思った矢先、男性店員はモリリンを見たと言った。


「え、どこですか!」

「あちらのレディースコーナーのほうへ行かれましたよ」


 男性店員は右手をレディースコーナーのほうへ向けて丁寧に答えた。


「ありがとうございます! ヒーナ、行こう!」

「はい」


 高速でお礼を言った亮司はヒーナの手を掴み、レディースコーナーへと急いだ。


 二人がレディースコーナーに到着すると、遠くで楽しそうに服を選んでいるモリリンの後ろ姿があった。


 二人は声を出さず静かにモリリンの背後に忍び寄り、


「おい!」

「モリリン!」


 一斉に声を上げた。その瞬間モリリンは肩をビクッとさせて振り返った。


「や、やあ」


 モリリンは顔を強張らせて言葉を絞りだすと、その場からテレポートで逃げようとした。


「店内でテレポートはできませんよ」

「げ、そうだった」


 しかし店内ではテレポートすることができないため、それは不発に終わった。


「いい加減、観念なさい」

「……はいはい、悪かったよ。返せばいいんだろ返せば」


 モリリンは怒った顔のヒーナを横目に渋々とカードを亮司に返した。


「色々と言いたいことはあるけど、一旦公園に戻ろう」


 亮司は店の出口に向かった。ヒーナとモリリンはこくりと頷いてそれに続いた。


 店から出た三人はいつもの公園にテレポート。それぞれ疲れた様子で腰を下ろした。亮司はすかさず会話設定をグループに変更して二人にも設定を変更するよう促した。


「それでさ、なんでお前このカードを使ったんだよ」


 亮司はモリリンに今一番聞きたいことを聞いた。そうするとモリリンは神妙な面持ちになり、


「……結局、真面目に生きてる奴が馬鹿を見る世界なんだよ。ならいっそ俺も不真面目に生きてやろうと思ったんだ」と話した。

「お前は元々不真面目だろ。……だけど一理はあるな」


 亮司は突っ込みを入れつつも一部同意した。


「亮司……」

「あ、冗談だって」


 悲しそうに呟くヒーナの顔を見た亮司は慌てて発言を撤回した。


「それで、これからどうするんだよ? 俺は買いたい物買って満足したが」 

「お前なあ……使った以上、もう後戻りはできないんだぞ」


 亮司は開き直っているモリリンにため息まじりで答えた。


「でも跡はつかないんだろ? それにちょっと使ったくらいじゃ持ち主も怒らねえって」

「俺は跡がつかないと言ったけど、もしもついたらどうするんだ」

「え、嘘なのか?」


 きょとんとした顔で言葉を発するモリリン。


「俺が見てそう思っただけで、確実に跡がつかないとは限らないだろ」

「そういうことか。でもまあ、お前がそう思ったのならきっとそうだろうよ。なにせこの俺が信用してる野郎だからな」とモリリンは自信満々の顏で言葉を返した。

「……意味分からないし、あまり過信するなよ」


 開き直ったこいつには何を言っても無駄だと亮司は諦める。


「話は戻りますが、亮司、あなたはそのカードをこれからどうするつもりですか?」


 二人の会話が終わるとヒーナは脱線した話を戻して聞いた。


「うーん。とりあえず持ち主を捜そうと思う」

「交番は?」

「こんな危険物を交番に届けたら、それはそれで大変なことになるだろうし。第一もう使っちゃったから行けないな。お前もまだ捕まりたくないだろ?」


 亮司が聞くとモリリンは力強く何度も頷いた。


「それでもやはり交番に届けるのが最善の選択だと思います。使った分のお金は届ける前にこっそり補填しておけばモリリンも大丈夫でしょう」


 ヒーナは自分の主張を曲げずに通し、モリリンが安全に助かる策も提案した。


「補填かあー。買ったの期間限定のブランド品ばっかだからなあ……。基本的に返品不可だし補填できる額じゃねえよ」

「それでは売りましょう。少しは足しになるはずです」

「ヒーナは真面目だなあ。考えるのは持ち主に会ってからでいいんじゃねえか? それくらい気にしないって言われるかもしれねえし」

「…………」


 楽天的なモリリンに呆れて物も言えないヒーナ。そんなヒーナの肩を亮司はそっと叩いてから、


「もうこれ以上は」と首を横に振った。ヒーナは静かに頷いた。

「……そうですね。持ち主に会うまでは様子を見ましょう」

「お、ヒーナもやっと分かってくれたか。んじゃ一旦カードのことは置いといて、気分転換に街でも行こうぜ。明日は休みだしよ」


 説得を諦めたヒーナを尻目にモリリンは歯を見せながら言った。


「よし、じゃあ先に行ってるぜ」


 二人の返事を待たずしてモリリンは一足先に中心街へとテレポートした。


「……謎の前向き思考はいったいどこから来るのでしょうか……」


 ヒーナはモリリンの消えた場所を見ながらぽつりと呟いた。


「どこから来るか分かったとしても、結局どうすることもできないと思うよ」

「それもそうですね」


 亮司とヒーナはやれやれといった顔で同時にモリリンのあとを追った。


 テレポート先の中心街ではいつにも増して人が多かった。人混みの先では海外の交響楽団が演奏をしていた。どうやら催し物のようだ。


「音楽関係の催し物かな」

「そうみたいですね」


 遠くから聞こえてくる音楽を聞きながら亮司とヒーナは言葉を交わした。その直後、


「やっと来たな。さあ、今日はパーッとやろうぜ。当面の問題も解決したことだしな」


 モリリンが二人の目の前に現れた。


「保留にしただけだろ。勘違いするなよ」

「まあまあ、もう解決したも同然だろ。細かいことは気にするなって」


 機嫌の良いモリリンは呆れ顔の亮司に言葉を返した。


「やけにご機嫌ですね、モリリン」


 機嫌の良さに気づいたヒーナが言うと、


「そりゃなんだかんだで好きな物買いまくったからな。おかげで溜め込んでたストレスもだいぶ発散できたぜ」


 モリリンは爽やかな顔でそう答えたが、亮司は沈黙、ヒーナは「それは良かったですね」と苦笑していた。


「よし、じゃあこれから何する? 俺はなんでもいいけど、イベント参加だけは勘弁な。人混み苦手だし」

「それではゲームセンター巡りなんてどうでしょう。ありきたりですが時間は潰せます」

「適当にぶらぶらしながら雑談でいいんじゃない」


 モリリンの呼びかけに二人はそれぞれ意見を出した。


「んじゃ、適当にぶらぶら雑談しながらゲームセンター巡りにすっか」


 モリリンの強引な合わせ技に二人は、


「それでいいです」

「それでいいよ」


 反対するのも新しい意見を出すのも面倒なので即賛成した。


「じゃあ決定! さっそく出発するぞ!」



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