DIVE_7 ゲームセンターと謎の男
上機嫌なモリリンを先頭に三人は散歩兼ゲームセンター巡りに出発した。
この時代のゲームセンター事情は昔と違い、だいぶ変化していた。現実世界のゲームセンターは老人たちの憩いの場。この仮想世界のゲームセンターは若者たちが集い、楽しむ場。世界によって年齢層が固定されているのだ。
ある者はこのままだと世代間の交流がますます減っていくと嘆いたが、若者たちが老人側へ、老人たちが若者側へ、と互いに歩み寄る努力もしっかりおこなわれている。その一例が亮司と商店街の人々だと言えるだろう。
一件目のゲームセンターに到着した三人は各自お金をメダルに変えた。
「何やる? 俺はメダル落としやるけど」
一人で遊ぶ気満々の亮司は二人に一応聞いてみた。
「ミニゲームをやろうと思っていましたが、みんなで一つのゲームをするのも良いですね。メダル落としなら制限時間内にどれだけメダルをゲットできるか、と競ったりして」
「お、いいなそれ」
ヒーナの提案にモリリンが同意した。そうすると亮司は、
「じゃあ、今日はみんなでメダル落としをやるか」と言って空気を読んだ。
「決まったみたいですね。では行きましょうか」
ヒーナが仕切り役になり、二人を連れてメダル落とし台のもとへ向かった。
メダル落としは機器内に手持ちのメダルを投入し、プッシャーテーブルを利用して散らばったメダルを落とすというシンプルなゲームである。メダルを決まった場所に落とすとスロットが回り、ゾロ目になればメダルタワーが出現するようになっている。
メダル落とし台の前までやってきた三人はそれぞれ位置についた。四人まで遊べるのだが他に客はいないので一つは空席だ。
「制限時間は一時間でいいですね。……ではスタートです」
ヒーナは二人の準備が完了したのを確認して火蓋を切った。
「よし」
亮司は良いタイミングでメダルを次々投入していく。亮司の左側にはモリリンがいて向かい側にはヒーナがいた。
このゲームでは他者の妨害はできない。だが亮司とモリリンのような位置関係の場合は別である。隣同士ならプッシャーテーブルは共有になるため、上手くやればテーブル上のメダルを横取りできる。
亮司はそれを知っているせいか、先に仕掛けた。プッシャーテーブル上にメダルを上手い具合に投入し、大量のメダルを自陣側へと落とした。その際にジャラジャラとかなりの落下音がしたので集中していたモリリンは気づいた。
「おい! 何やってんだよ!」
「共有スペースだから、どちらが取ってもいいだろ? まあ早い者勝ちだよ」
亮司は驚いて声を上げるモリリンに余裕の笑みを返した。
「……くそ。次は覚えてろよ」
どうすることもできないと理解したモリリンは悪役のような捨て台詞を吐いて、再びメダルを投入し始めた。
一方でヒーナは一人でのんびりとしつつも着実にメダル数を増やしていた。
「お、来たぞ来たぞ!」
各々が言葉も交わさず集中してプレイしている中、モリリンが声を上げた。どうやらスロットで大当たりして陣地内にメダルタワー二つが出現したようだ。
亮司は悔しげに小さく舌打ち。だいぶメダルが集まってきたプッシャーテーブルに再び手を出した。
「あ、お前、またやりやがるつもりだな!」
モリリンが気づいて応戦するも、
「お前はメダルタワーを処理してろよ」
亮司は冷やかに返事して次々メダルを自陣に落としていく。できるだけ手持ちのメダルを使いたくない亮司はモリリンの投入したメダルを利用しながらさらにメダルを落としていった。
「……よし、俺の勝ちだな」
プッシャーテーブル上の落とせるメダルがほとんどなくなった時、亮司は静かに勝利宣言をした。
この小さな勝負、結果から言うと、亮司大勝利、モリリン大敗北だった。
亮司は元々あった大量のメダルを自陣に落とした上、投入されたモリリンのメダルまでも自陣に落として横取りした。メダルタワーがあるとは言え、モリリンは大損だ。
「あん、もう!」
負けたショックか、気の迷いか、モリリンは突然女口調で悔しそうに言葉を発した。それを聞いた亮司は怪訝な表情になり、
「何言ってんだよ。気持ち悪いな」と言った。
「くそ、また負けか。でもいいや。俺にはメダルタワーがあるしな」
するとモリリンは何事もなかったかのように本来の持ち場に戻った。
「……?」
今のはいったい何だったんだろう。亮司はふと思ったが、それよりも今はメダルを集めなければと自身も本来の持ち場に戻った。
「はい。一時間が経ちました。ゲーム終了です」
各々が熱心にメダルを落としている中、ヒーナがゲーム終了を告げた。
「やっと終わったか」
「もう終わりかよ!」
亮司とモリリンの反応は真逆だった。
「それでは各自獲得したメダル数を表示してください。いきますよ」
ヒーナが言った次の瞬間、三人は同時に獲得したメダル枚数を目の前に表示した。
モリリン三十二枚。亮司二百二十四枚。ヒーナ二百三十七枚。
「……え?」
勝利を確信していた亮司は思わず疑問の声を漏らした。
「ふふ、私の勝ちですね。勝因は言わなくとも分かるでしょう」
「……ちょっと構いすぎたな」
敗因はモリリンに構っていたことだと理解した亮司。
「それでは一旦外に出て休憩しましょうか。それが終わったら今度は別のゲームセンターに行きましょう」
そう言うとヒーナは出口のほうへ向かった。亮司とモリリンもあとについていく。
「あ、それと終日、一番成績の悪かった人は罰ゲームですからね」
出口へ向かう途中ヒーナは振り返って言った。
「罰ゲームあるんだ。でもまあ、誰がなるかはもう分かり切ってるけど」
「は? そんなの聞いてねえぞ!」
罰ゲームがあるとの発言にモリリンは驚いた。
「ちゃんと挽回のチャンスがありますし、モリリンは頑張ってくださいね」
二人に背を向けままヒーナは言った。その表情はすこぶる楽しそうだった。
「しょうがねえ。次からどんどん盛り返していくか」
罰ゲームなしは避けられないと判断し、モリリンは気合を入れた。
三人がゲームセンターから外に出ると、催し物に参加している人々の声があちらこちらから聞こえてきた。
「賑わってますね」
「今日は宝探しゲームか。景品は結構豪華みたいだね。高価な電化製品とかブランド物の皮革製品とか、宝石、家とかもあるよ」
イベント情報を調べた亮司は二人に向けて話した。その直後、
「なんだと! なあなあ、みんなでやろうぜ!」とモリリンが目を輝かせながら言った。
「うーん……私はいいですけど、亮司はどう思いますか?」
「別にいいよ。一応ゲームだし」
ヒーナの問いに、亮司は即答した。
「では、参加しましょう。前々回参加した私の記憶が確かならば、受付で渡されるヒントカードを元に、宝の埋まっている座標を割りだしていくもののはずです」
「じゃあ、そのヒントを解いたら一ポイントで、終了時に一番多くポイントを持ってた人が一位でいいんじゃない?」
「はい。それがいいですね」
亮司とヒーナの間で次々とゲームのルールが決まっていく。横で放置されているモリリンは不満そうな顔で、
「なんだよ。俺も混ぜろよー」と二人の間に割って入った。
「混ぜろって言われても、もう決まったから」
「ごめんなさい。もう決まってしまいました」
しかしすでにルールは決まっており、モリリンは子供のように頬を膨らませた。
モリリンはゲームのルールが自分抜きで決まったことに対して不満を抱いているというよりは、亮司とヒーナが仲良くしていることが気に食わないみたいだった。
「そうか。まあいいけどよ。じゃあさっさと受付に行こうぜ」
モリリンはふて腐れた口調で返事をし、受付へとテレポートしようとした。その時だった。
「すみません。ちょっといいですか」
サングラスをかけた黒服の男が亮司たちに声をかけてきた。見るからに怪しく三人は警戒した。次の瞬間、
「あ」
「え」
モリリンがログアウトしてその場から逃走した。
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