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和輝が拉致される前の世界での、父親たちの嘆きはさておかれ。
神帝王国王宮では、虚ろな笑い声漏らす和輝が自室の扉を開けていた。
「お帰り……って、どうしたのだぁっ!?」
「魂が抜けかかっているのですよ!?」
「と言うより、顔が死んで……」
「一体何があったの!?」
「本当に大丈夫!?」
響く驚愕に満ちた声に虚ろな瞳を動かす和輝だが、声の主へと視線を流しては虚空を見上げて首傾げ。
「ん?」
「何? どうしたの?」
「あたしたちの可愛さに見とれちゃった?」
ふと気づいたような表情を浮かべ視線を戻すも、響く煽るような声に首を振っては額を押さえて踵を返し。
「無視しないで!? 私たちの存在を認識して!?」
「そうだよ! 流石の私たちも傷つくよ!?」
扉を閉めようとする和輝だが、そんな和輝に抱き着き叫ぶ金と青の髪色以外違いのない2人の少女は和輝を拘束して引き倒す。
「何で追ってきてくれないんですか!!」
和輝が部屋の中央へと引き摺られ扉が閉まったその瞬間、泣き叫ぶような声が響くと同時に扉は瓦礫へとその身を変えて。
呆然とした空気漂う中現れる、悲しいやら虚しいやらで複雑だったというサナは和輝に近づくと、その頭を両手で抱えて目を見据え。
「和輝さん、私これでも乙女なんですよ!? 乙女には扱い方ってもんが……」
私の扱い酷すぎないかと抗議する中、ふと気づいたような表情を浮かべると周りを見渡し首傾げ。
沈黙降りる奇妙な空気漂う部屋を見渡し虚空を見上げ、平坦な声を響かせた。
「……どういう状況です、これ」
「こっちが知りたいわ」
だが、間髪置かずに返される和輝の冷徹な声に、冷たい風を感じたというサナは表情を強張らせて和輝を見つめ。
そんなサナを他所に拘束から抜け出す和輝は床に座ると顔を上げ、後方で佇む金髪と青髪の方へと親指を向けて問掛けた。
「で、こいつら誰?」
「サキとナナですよ?」
何言ってんの、この人。
そんな視線を突き刺しながらそう返すサナは、お前ら何かしたのかとサキとナナの方へと目を向けて。
「何言ってんだ、この雌豚」
首を振る2人を他所に言い放たれるその声に、動きを止めるサナは目に涙を浮かべて和輝を見据え。
「何言ってんだ、この雌豚は」
「え、えっと……?」
時間だけが過ぎていく中再び紡がれる冷徹な声に、震えた手を伸ばすサナは縋るような視線をサキとナナへと向けては逸らされる現実に顔を覆って涙を流す。
その様は、正に氷河期だったと体験者は後に語ることになるのだが。
頼む、早よ終わってくれ。
最早混沌とした部屋の中でそう願う、サキとナナがいたそうな。
時間は暫し巻戻り、本日の朝桜丘高校はといえば。
「天神……って、今日も休みか」
不審そうな顔で和輝の席へと視線を遣る、担任の教師がいた。
そんな教師の声に、一斉に和輝の席へと心配げな視線を送る生徒たちは顔を血の気が引いた顔を見合わせて。
「なぁ、さすがにおかしくないか?」
「うん、さすがにこんな休むとなると……」
静かにざわめき広がる中、誰もが近くにいる者たちと震えた声を響かせる。
だが、そう時間の経過を要することなく誰もが同時にふと気づいたような表情を浮かべると、まさかと呟き体を震わせ掠れた息を微かに吐いて。
「「……消されたか」」
同時にそう呟くも、教師と生徒全員はある顔が思い浮かんだそうな。
「あの2人、とうとう……」
「いつも、振り向いてすらもらえなかったもんな……」
「痴情の縺れで殺害か……」
言わずもがな、天桜望來と天安院月菜だった。
その場にいる者は全員涙を流して押し黙り、示し合わせることなく同時に黙祷しては時止めて。
「なぁ、みんな。せめて、あいつの冥福を祈ろうじゃないか……!」
「そう……だな」
「俺らはあいつが生きている間、何もできなかった……!」
「最後くらい、私たちでちゃんと見送ってあげないと……!」
「お前ら……自習にするのは、今日だけだからな……!」
徐に響いた声を契機に、遂に和輝は死者となった。
生憎、突っ込み担当は不在だったという。
一方、桜丘で自身が殺されたことを知らない和輝がいる王宮では。
「あーもう、分かったよ! これでいいんでしょう!?」
サキとナナは叫ぶような声を響かせて、本職が見ようものなら絶叫間違いなしの
一見
「「お帰りなさいませ、ご主人様」」
「確かにサキとナナだ……」
そんな服を纏い優雅に一礼する2人は一切の感情籠もらぬ声を響かせて、納得したと頷く和輝はしみじみと噛み締めるように言葉を紡ぎ。
「「ほんっと変なことしなけりゃ良かったよ!」」
沸き起こる失笑に頬を朱く染める2人は服を剥ぎ取るようにして脱ぐと勢い良く地に叩きつけ、よく響く叫び声を響かせた。
和輝に充てがわれた部屋で平和な空気が流れる一方、王の間では。
「さぁ、それでは会議の続きを始めましょうか!」
重く苦しい空気の中、場の空気と正反する表情を浮かべるマリナが弾むような声で宣言していた。
幼い少女が念願物を手に入れたが如く、長年追い続けた夢が間近に迫るが如く、幼く弾んだ希望に満ちた声を響かすマリナは虚空へと手を伸ばすと髪の束を引き出して、恐れ慄く貴族たちより視線を外し。
一寸の油断も許されぬ戦場が如く張り詰めた空気の中嗤う、フェリシアとマリナの様子に貴族たちは予感したという。
即ち、自らの死を。
何を言うこともなく手を打ち鳴らすフェリシアは、自身の側方に木版掲げる台座を現すとマリナと共に眼下を見据え。
「王国に蔓延る汚職を、摘発して参りましょうか♪」
「まずは、大公爵家のルノワール家、殺人命令罪、国家反逆罪、国王暗殺未遂罪、国家転覆罪、薬物取締法違反……」
誕生日を迎える幼子が如く明るい声を響かせて、証拠の写真を木版に貼り付けながら貴族たちの罪状を読み上げるマリナの手元への視線を移す。
全ての罪状の読み上げと証拠の貼り付けが終わり言葉が止まったその瞬間、禿げ太る初老の貴族が血の気の引いた手を挙げて。
「お、お待ちください!」
「あら、何でございましょう♪」
響く声に嬉しそうな声を響かせるマリナは発言者の方へと視線を送り、卒倒しかける
強引に薄く笑うと腕を組み、
「こ、この写真だけで本当に証拠と成すおつもりですか! 捏造も、可能ではございませんかな!!」
「そ、そうですな! 公の言う通りですぞ!!」
「陛下、いかがお考えですか!!」
その声を契機に響く同意の声と共に沸く場に舌打ち鳴らすマリナとフェリシアは昏い視線を突き刺すが、肩を震わす貴族たちは意を決したように拳を上げて。
「法に従い、正式な裁判を!」
「法の支配の厳守を!」
「散々特権を乱用してきたあなた方がそれを言いますか!」
響かす抗議にマリナは鼻を鳴らして腕を組み、底冷えのする声を張り上げ言い放つ。
「まぁまぁ、マリナ。お望み通り、ちゃんとした証拠を見せてあげようではありませんか♪」
「陛下が仰るのなら……」
被せるように謳うフェリシアの声に引き下がるマリナは息を吐き、抗議の声響かす階下の貴族たちより視線を外して虚空を見上げ。
「入室せよ!!」
獰猛な笑みを浮かべると同時に響かす太く鋭い声に、誰もが言葉を止め側方の扉へと目を向けて。
火葬場の門が如く不気味な音響かせ開く扉より現る、手錠嵌まり腰縄を結ばれ連行される死人が如く生気の抜けた顔をした数多くの人間に息を飲み。
驚愕に目を剥く貴族たちへと凄惨な笑みを向けるマリナとフェリシアは頷くと、マリナな階下へと目を向けて。
「さぁ、証言せよ。まずはロマネスティ家筆頭執事! 貴様からだ!!」
「は、はい……」
それは、何をすれども結果変わることなき判決の決まった裁判である。
糾弾するような声が轟く中貴族たちがそのことに気づいたのは、それぞれの使用人の陳述が終わってからであったというのだが。
「わ、私はこのような者など知りません!」
「そ、そうです! 3年前に免職にしたはずです!!」
「何かの間違いです!」
「服従魔法を使って喋らせた結果について、疑問があるとでも?」
空虚に木霊する抗議の声に被さる、嘲笑うような口調響かすマリナの声に押し黙り。
一瞬止まった時の中、目を見開き口を開く貴族に微笑むフェリシアは階下の者たちを見下ろして。
「以上を証拠として認め、女王フェリシア・アブソリュート・シュヴェーアト・アマデウスアミュレットが命ずる! 告発された者どもを有罪と認定し、爵位を剥奪の上取り潰せ!! 元当主は死刑、一族郎党は沙汰を待て!!!」
異論反論抗議口答えの一切を認めない。
そうとでも言いたげな鋭い口調で言葉を紡ぎかけた貴族たちの声を遮ると、吐き捨てるようにして言い放つ。
「罪人共を連行しろ!」
これが、王国史に残る大規模粛清の境地、世界史にまで記述がなされる弾劾事件であった。
そして、なぜ王国最高会議なぞ開いたのかを悟ったという貴族たちは、そう時間を置くことなく命を散らせ。
この日、王国における高位貴族は皆消え去った。
「では、私はあの人に権力を持って行ってあげますね♪」
全てが終わった後残るは、恋い焦がれるような表情を浮かべる少女2人だけだった。
併交世界 氷桜羽蓮夜 @HioubaneRenya
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