第参拾漆話 御館様の野望
「…………は?」
「本家を相手に
「待て」
「その手始めに鬼共を
「何を、言っているんだ」
性格に難はあるが、分別のある理知的な男だと思っていた。
だというのに、まさかこんな、
「ば、馬鹿げている。勝てるはずがないだろう。七つの本家にどれだけの戦力があると思っているんだ。分家筋の者も合わせれば異能使いは五百人以上いるんだぞ」
「その全てが戦える訳ではない。一度に相手にする数など知れている。それにな、奴らを殺しきれる戦力ならばあるのだ。少々制御が難しいがな」
今聞いた中にはろくな戦力もないように思えるが、果たしてどのような隠し玉があるというのか。
今いるこの地下室のような隠された場所に潜ませているとでも言うのだろうか。
この様子から勝てると確信して行動しているようだが……俺には井の中の
「勝手に争っていろ。俺には関係のない話だ。俺とソラを巻き込まないならどうでもいい」
「ほう、いいのか。本家がこの村に攻め入り我々の反逆を阻止したなら、奴等はガランを再び封印しようとするぞ。
「死……?」
死ぬ。ソラが。
「それは、どういう、なんなんだ……?」
「封印の際、結女は我が
いつぞや夢で見た光景を思い出す。
その前で異能を使い倒れた女。
あの夢は封印の時の光景だったということか。
だが何故そんなものを俺は夢で見たのか。現実に見た覚えもなく、今聞かされて初めて知った筈なのに。
この村に来てから奇妙な夢ばかり見ている。
これも何か理由があるのだろうか。
「もし我等が敗北しこの村を本家が占領したとしても、鬼共を全て駆逐していれば封印を施す事はなく、巫女は死なずに済むだろうさ。我等は既に大多数の鬼を駆逐した。残るはガランを含め二十に満たん。間もなく全ての鬼はこの村から消え去る。だがガランが残っていれば、ガランさえ残っていれば本家は封印を実行するだろう。どうする、これを聞いてもまだ関係がないと言い張るつもりか」
「それは……」
「本来は
お館様の言う事は確証あってのものなのだろう。
ガランは封印された伝承の鬼。人を食う化物。
今は記憶を失って大人しいが、いつか獣性を取り戻し、俺達を襲うかもしれない。
それを封印する為に、ソラが死ぬ。
それでも。
「それでも、ガランは渡せない」
「――ああ。そう言うと思っていたぞ。馬鹿者め」
御館様は俺の返事など当然予想していたのだろう。口の端を釣り上げ、俺を
「既に討伐の任を
話を全て聞く前に飛び出した。
入口に立っていた恋路や他の
神社へと全力で駆けていく。
御館様の言う通りだ。何故ガランを独りにしてしまったのか。
そして御館様も
急がなくてはならない。もう手遅れかもしれないが、それでも。
それに、それにだ。
あいつに言いたい事、聞きたい事がいくつもあるのだ。
もしあの時、ガランが俺を止めていなければ。そう考えずにはいられない。
もし俺があのまま骸骨武者を追い駆けていれば、奴を仕留められていたかもしれない。
もし追いついていたなら、明華が死なずにすんだかもしれない。
全ては終わってしまった事だ。分かっている。
それでももしかしたらを考えずにはいられない。
ようやく神社が見えてきた。辺りは静かなもので、
その事に
「ガラン!」
石階段を登りきりそこに見えたもの。それは異様な光景だった。
半壊した本殿と、地面に倒れ伏した無数の守人達。
崩れた本殿で相対するガランと鎧武者の如き様相の鬼共。
そして。
「蛇乃目、お前一体何をしている。何故繭里を捕まえているんだ」
鬼共を前に、何故蛇乃目は繭里を
「ああなんや、早かったなぁ」
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