幕間壱 歴史の授業

 はい、それじゃ皆さん、午後の授業を始めましょうか。

 午後からは歴史とそれに関係した地理の勉強をしましょう。


 皆さんがご存知の通り今のみかどえんじゅ様が御即位ごそくいされてから間も無くが経とうとしていますね。

 その二千年の間、私達の住むこの葦原あしはら幾度いくどとなく戦乱に見舞われてきました。


 特に千八百年代は他国からの侵攻や、天下を取らんとする大名達の合戦かっせんが続いた結果、今より五百年以上前の歴史的資料はほぼ消失、暗黒時代を迎えていました。


 そして今からおよそ百八十年前、槐帝かいていから目覚めて天下を泰平たいへいし、鎖国さこくを宣言。

 そこから蒸気機関の発展と普及ふきゅう、国からの電気機器の配給が進み文明開化が起こりました。

 都市部を中心に一気に近代化が進み、蒸気自動車などが……ってこの村には一台もありませんでしたね。


 発電機なら去年御館様が国に嘆願たんがんして貸与たいよされたものがありましたけど、あれについては先生もよく分かってないんです、ごめんなさい。

 蓄電池ちくでんちっていうものを充電できるらしいんですけど、ええと、今度説明できるよう勉強しておきますね。

 ええと、そういう訳で今日に至るまで鎖国政策は続いているという訳です!


 そして、今現在私達の住むこの国葦原は……ええと、はい、今黒板に書いたように、四つの島から成ります。

 まるで龍が寝そべっているように見えますよね。


 その頭に当たる部分が最北方領域、槐帝の住まう御所神居かむい

 何人なんぴとも入る事をゆるされてはいないので、先生も聞いた話でしか知らないんですけど、ここは季節がどれだけ巡ってもずっと雪が降っている寒い場所なんだそうです。


 そして胴に当たる部分が私達の住む神州しんしゅう

 各地に近代化された街が点在し、それらは神州をまるで背骨のように横断する鉄道、通称神州横断鉄道で繋がっています。

 これをもっと一般の人達も乗れれば便利なんでしょうけど、一回乗るのにもものすごいお金が掛かるんです。

 先生も一度乗ってみようと思ったんですけど、びっくりするぐらい高くって諦めてしまいました。


 最後に、尻尾の辺りが最南端の竜宮りゅうきゅう

 ここは海が綺麗なんですよぉ、青々と透き通ってるんです!

 神州とは大橋で結ばれていてこれが唯一の経路になっているんですが、あの船も破壊する海峡の荒波にも耐えられるよう設計されていて、まさに英知の結晶ですね。


 ……あ、龍の後ろ足に当たるこの島ですか?

 ここは以前大きな震災しんさいが起きた後、黒い水と消えない炎が全土を覆って人間の住めない場所になってしまっているんです。

 作物も育たず動物も死に絶えた、まさに死国しのくにですね。


 さて皆さん、日暮子村かくれごむらは何処だと思いますか?

 ……はい、そうですね、ちょうど神州の中央あたり、龍のお腹の辺りにあるんです。

 実は地理の本にも乗っていないので、皆さんで書き加えておいて下さいね。


 それじゃ、これらの情報を踏まえたうえで、教科書の……――――。

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