第22話 御籤の結果

 人、人、人。

 前後左右どこを見てもすぐ近くに人がいる。

 五人で移動することに全く適していない場所をなぜ選んでしまったのだろうか。

 選んだのは香花きょうかだったはずだ。少し文句を言いたくなってしまう。


 


 俺たちは二つ目のチェックスポットとして選んだ浅草に来ていた。動物園からは電車ですぐだったので距離的にはありがたかった。

 しかし、人の量はどうしても気になる。

 雷門から続く仲見世通りには多くの観光客がいて、動物園のようにゆったりと歩けない。


 一番前を歩く唐子とうこあんず。その後ろを歩く蕾來らいらと香花。それぞれの姉妹同士、人混みではぐれないように手をつないで両脇にずらりと店が立ち並ぶこの道を歩いていた。


 その途中、蕾來が横を見ながら止まった。


「香ちゃん、あの人形焼きおいしそ~。買いに行こ!」

「うん。いいよ。杏たちもいい?」

「……うん。いいよ……」

「やった~」


 目を輝かせながら蕾來は店に向かう。

 店から漂ってくる甘いにおいに食欲をそそられる。


「どれにしよっかな~」

「あんまり買いすぎないでよ?」

「は~い」


 人形焼きに目を向けたまま香花の忠告を軽く受け流す蕾來。

 

 結果、蕾來はめちゃくちゃ買った。


 香花は何度も多すぎだと言っていたが、蕾來に押し通されてしまっていた。

 蕾來は食べ物が絡むとめんどくさそうだと思わされる一幕だった。


 それにしても、いい匂いだな。俺も買おうかな。

 そう思って、財布を取り出そうとすると。


「はい。まっきーあげる~」


 蕾來が買ったばかりの人形焼きを一つ渡してきた。


「……いいのか?」

「いいよ~」

「……ありがとう」

「はい。唐子ちゃんと杏ちゃんも~」


 そう言って蕾來は、香花以外全員に人形焼きを配った。


「………………あり……と」

「……ありがとう」


「ライ姉、私のは?」

「香ちゃんはさっきうるさかったからあげませ~ん」


 からかうような口調で言う蕾來に対して、香花はイラっと来たのか少し眉間にしわを寄せる。


「じゃあいいよ。自分で買うし」

「わ~。ごめん、ちゃんとあげるよ~」

「ありがと~」


 今度は香花がからかうように言って、蕾來から人形焼きを受け取っていた。


 蕾來はその後も揚げ饅頭やら団子やらおいしそうなものを見つけては購入していき、昼食が溜まっているであろう胃袋に詰め込んでいった。

 



 

 食べ歩きをしながら進んでいくと前方に浅草寺が見えてきた。歴史ある建造物だけあって荘厳な佇まいをしている。


「あっ! おみくじ~。皆やろうよ~!」


 その前で両手に食べ物を抱えた蕾來が嬉々とした声を上げた。


「いいよ」

「……うん」

「俺もいいよ」

「やった~。じゃあそれぞれ買って、せ~ので見せあいっこしよ~!」


 というわけで蕾來の提案により五人それぞれにおみくじを買う。


 俺は正月以外、基本的に買わないんだけど。ちなみに正月は……なんだっけ?

毎年引くけどすぐ忘れちゃうんだよな。これ引く意味あるのか……?

 まあでも結果を見せあうのは意外と盛り上がるから、今日みたいに引くのは良いかもしれない。


「よし! じゃあせ~のでいくよ。……せ~の!」


 五人で円になって蕾來の掛け声とともに紙を一斉に出す。


 蕾來が大吉。香花と杏が吉。唐子と俺が凶……。


「やった~!」

「なんか普通……」

「普通が、一番、だよ……」

「「……………………」」


 もう一回引こうかな? 凶が出るとそんな気持ちになる。それに加えて、まるでおみくじの結果に呼応するように雲が太陽を隠してしまった。どんよりとした雰囲気に心もどんよりとしてしまう。こういうときのこそ太陽は出ていて欲しいのだが……。

 

「大丈夫だよ。凶ってことは後は良くなるだけだよ。きっと!」


 何も言わない凶組を見て香花が励ましてくる。


「そうそう。凶だからって絶対悪いことが起きるわけじゃないよ~」


 蕾來それフラグだから!


「それよりも香ちゃん、ちょっとこれ持ってて!」

「え? なんで?」

「ちょっとお腹の調子が……。トイレ行ってくる!」


 香花に両手の荷物を渡し、お腹を擦りながらそう言うと蕾來は駆けて行った。


 完全に食い過ぎだろ。

 

 大吉も当てにならないな。蕾來の後姿を見てそんな事を思うのだった。

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向かいの家の双双子 青赤河童 @seisekikappa

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