第21話 姉妹の土産②

 首を傾げたまま香花が聞いてくる。


「どういうこと、牧?」

「妹は反抗期だから言うこと聞いてくれないし、そもそも会話すら全然しないんだよ……。あと、姉は一人暮らししてるから今は会えない」

「そうなんだ……。でも仲悪いわけじゃないんでしょ? 私たちが勝手に会いに行くのはどう?」

「いや、それは余計煙たがられそうだからやめてくれ……」

「そっかぁ、残念だなぁ。二人とも会えないのか」


 香花きょうかは心底残念そうにしている。そんなに会いたかったのかな。だったらなんか申し訳ない。

 

 ……というか、なんでこんな話になってるんだ。


「それだったらさ、妹ちゃんに何かお土産買ってあげればいいじゃん!」

「ライ姉それいいかも」

「……いいかも、です」


 ああ、お土産買おうとしてたんだっけ。

 妹にお土産か。家族という大きな括りで考えてたけど、個人に絞ればいいのか。でも、妹かぁ。

 最近全然話さなくなったのに、いきなりお土産とか渡して迷惑がられたりしないかな。


「よ~し! プレゼント探し第二弾だ!」


 俺の不安をよそに、蕾來らいらはもうお土産を漁り始めた。

 それに香花とあんずも続いた。

 しかし、ここはさすがに唐子とうこは動かなかった。俺との距離は埋まらないな。話しかけてすらいないのだから当然なのだけれど。

 まだ、視線が怖い……。


「……私は外で待ってる」


 杏の肩を叩き唐子は伝える。


「ダメ。一緒に探すよ」


 しかし杏は唐子の伸ばした腕を掴んで離さなかった。

 その時、杏の目が唐子に引けを取らないくらい鋭くなっているのが長い前髪の隙間から見えてしまった。

 こわ……。双子なのだから当たり前なのかもしれないがその目はよく似ていた。

 杏は怒っているのだろうか。杏の言葉を聞いた時、唐子の体が少しビクッと跳ねた気がする。

 さすがに逆らえないと思ったのか、唐子は反抗することを諦めてそのまま杏に連れていかれた。


 唐子にもなんだか申し訳なくなってきた。


 ただ、俺は一言もお土産探しは頼んでいないのだが……。



 数分後、蕾來たちが持ってきたのは小さなパンダのぬいぐるみだった。


「ぬいぐるみだったらきっと喜んでくれるよ~」

「……そうかな」

「ライ姉の言う通りだよ。女の子だったらぬいぐるみは絶対嬉しいよ」

「……………………」

「……うん。……嬉しい、と、思う……」


 女子が言うのだからそうなのかな。正直よくわからないが。

 せっかく選んでくれたし、これにするか。


「……あの、ご両親のは、いいんですか……?」

「あぁ、まあ一応買うか……」


 もう迷うのもめんどくさいなと思い、手近にあったパンダのマグネットを掴む。

 蕾來もおじさんにマグネット買ってたしこれでいいだろう。


 そのままレジへと持っていき買い物を済ませる。


「終わったよ」

「オッケ~! じゃあ次行こ~」


 蕾來の元気な声を合図に歩き出す。


 不忍池しのばずのいけを横目に出口へと向かう途中、香花がパタパタと寄ってきた。

 そして。


「さっきは牧の家族のこと聞けて嬉しかったよ」


 耳元でそっと呟き、意地悪そうに目を細めて笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る