第27話 王国
「とうとう来たな、この時が」
「復讐をば果たさん!」
「打倒!バトルメタル!」
「今日も1日頑張るぞい」
「出陣じゃーー!」
「ヨイショーー!」*3匹
午前中のとある磯○水産、手に持つジョッキを"ガチん!"と合わせ戦いの狼煙を上げる。中身のビールを一気に飲み干すや否や機材を背負い磯○水産を後にした。
本日は待ちに待ったバトルメタルとの決戦当日。アルコールも入ったし最高のコンディションだ。演者もスタッフも客もボッコボコにしてやるぜ……
そして鼻息も荒く、憎しみの炎のオーラの纏った我々は決戦の舞台、ライブハウス"アポカリプス"に到着すると元気よく門を蹴っ飛ばしダイナミックエントリー。
「たのもーー!!!」
シーンと静まり返る会場。スタッフや既に入っている演者の動物はポカンとしてコチラを見てやがる。"コイツらが今日の餌か"と思いながらガン付けていると背後より強者のオーラを感じた。
「本当に来たのか、コイツら」
「バトルメタル!」
「……魚臭いな、言っておくが事件なんぞ起こしてくれるものなら即刻立ち去って貰う」
「偉そうに! 泡吹かせてやんよ! 死ね!」
それだけ言い残すとバトルメタルは他の演者の元に挨拶しに立ち去った。その背後を睨みつけてやった。
話変わって本日のラインナップ数も先日と同じく5バンド。
メロディックデスメタル "キャラクター"
パワーメタル "フリーイーグル"
ヴァイキングメタル "神風北欧隊"
バトルメタル率いる "セイントホース"
我らが魚介メタル ”キルエムオール”
時刻は14時になりリハーサルが始まった訳だが俺達の出番は4番手なので逆リハでは2番目だ。本日の大トリのセイントホースが準備を進める中、楽屋に戻り楽器の調整とウォーミングアップのシャドーボクシングをはじめる。そんな中、セイントホースのリハが始まると会場の方から演奏が少しばかり漏れてくるのを耳にした。
30分後、セイントホースの逆リハが終わった様で各々機材を持ち会場に入るとバトルメタル率いるセイントホースとすれ違いステージを入れ替わったが、その際バトルメタルは俺達に目すら合わせる事さえしなかった。気に食わんヤツだ。今に見てろ、一泡吹かせてやんぜ。
……
「それでは音出しお願いしまーす」
"カッカッカッカッ、ドゥーーーーーン!!!"
そしてカワ島のスティックのカウントから音出しが始まった。
うむ! 音のバランスは申し分なく互いの音もちゃんと聞こえている! 前回の時とは違い劇的に進化を遂げているようだ! 一曲目のヘルババアにて調子の良さを確信する。
あっという間にヘルババアのワンコーラスが終了しニ曲目の死皇帝の演奏する。そして死皇帝ワンコーラスが終了間際に会場奥の片隅にふと目を移すとバトルメタルが腕を組みこちらを見ていた。
余裕ブッかましやがって、本番はこんなもんじゃねぇからな……
持ち時間の30分後を使い切り無事逆リハが終了、機材を楽屋に戻すと「他バンドのリハなど見なくて良し!」との思いから会場を飛び出して再び"磯○水産に向かいアルコールを入れる事にした。
二時間後
「いい感じに仕上がって来たな、そろそろ時間か、それじゃ行くぞ!!」
「よいしょーー!」*3匹
再び会場に戻ると丁度全てのバンドが逆リハを終了した所であり、最後スタッフからの挨拶が終わるとライブハウスは開場し、それと同時に多くの観客がなだれ込んできた。
「バトルメタル様はいつの出番なの?」
「最後に決まっているじゃない!」
けっ! いわゆるバンギャってやつですか!? これだけ多くのファンが多くてさぞかしキャッキャッウフフですね! 今に見てろよ……
……
騒つく会場、開演時間を迎えた時、場は暗転し、ステージ上の垂れ幕が上がりった。
"カッカッカッカッ、ドゥーーーーーン!!!"
カウントの後、全てのパートがその轟音を作り出すと明転、1バンド目の"キャラクター"の牛の屈強な男達が登場した。
「ヴェアアアアアアアアア!! ディズゾングイズゴールド! ガルヴァー!!」
一般動物だったら、何言ってるか分からんそのデスボイス。俺達には免疫があるから何とか聞こえる! 多分最初の曲の紹介だ! 多分カルマーって曲だろう!
疾走するドラム! ゴリゴリなベース! ツインギターは凶悪なリフを刻みながらメロディアスで美しくハモる! そしてボーカル! 何言ってるか分からん!
「おお! いいね! いいね!」*4匹
メタラーとしての血が騒ぐぜ! ダー○・トランキュリティだったり、モー○ス・プリンシピアム・エストとかにバックグランドがあるだろう楽曲が駆け抜けていく! 会場は既にヒートアップしメロウィックサインは至る所で掲げられていた!
……
「ヴェアアアアアアアア!!!」
”デュデューーーーン!!!ジャン!!”
気が付くと”キャラクター”の最後の曲が終わっていた。あっという間の30分、会場は熱を帯びたまま冷めない。
「これは……今日、大変な事になるぞ!」
「そうだな。しかし恐れる事なかれ!」
「今マデノ練習ヲ思イ出シ!」
「最後に立つのは」
「我らキルエムオール!!」*4匹
間も無く2バンド目のフリーイーグルの鷹達がステージに現れる!
「うおおおおお〜〜〜〜〜〜!!!行くぞ〜〜〜〜!!」
”ジャジャーーーン!!”
始まった曲はジャーマンメタルの雄、ハ○ウィーンを彷彿させる。力強く所々のクサさにコミカルでキャッチーなフレーズが満載!
「元気が! 元気が溢れる!! やっぱりパワーメタルは元気が出るよな!」
そう! パワーメタルを聴くと元気が出る!
……
「アーライ!!」
フリーイーグルもあっという間にその出番を終了させた。オーディエンスは未だ「アーライ!!」と叫び続けている。
お次は3番手の”神風北欧隊”の猪軍団がご登場だ。その身にはヴァイキングのような装備を纏っている。やる気は十分!
「ボーボーボー!! 船出の時だーーー!!」
”ジャンジャンジャ〜〜ン!”
ボーカルのガラガラな声はヴァイキングその物! (ヴァイキングの声知らんが) そのバンド編成も面白い。基本的なパートは勿論だが、民俗的なパーカッション、バイオリン、ピアニカ! これこそ正に当時のヴァイキングの姿だ!(知らんけど) そしてよくビールが進むぜ!! コ○ピクラーニ!
……
「ガウガウ!!」
ん? ああ終わったか。酒のこと考えてたら終わってしまった。決して聴いてなかった訳では無いぞ! あまりに曲が酒に合ってしまい酒の事しか考えられなくなるのだ!
……そして、遂に時は来た。
俺達はステージ裏にて円陣を組む。
「よっしゃーーーー!!! 行くぞーーーー!!」
「ヨイショーーーー!!」*4匹
ステージに立ち、各々楽器を手にし、その時を待つ。
そして、SEが音を消した!
”ギャギャギャーーーーーーーン!!!”
「ブルアアアアアアアア!! キルエムオール!! 全員殺す!!」
"カッカッカッカッ、ズダダダダダダダ!!!"
一曲目の”ヘルババア”は好調なスタートダッシュを決めた! これは今後に期待が出来る!
……いや、しかし何だ、この掴みない様な違和感と不安は……
俺は凄まじいダウンピッキングと共に会場を見る。
……!! お、女!? ステージ前には女の動物が占領している!? お、俺達にも遂にモテ期が!! ……いや、だが何かおかしい…… 何故そんな目で俺達を見る!? まるで小学4年生の時、朝から気持ち悪かったのに我慢して帰りの会で盛大にゲロを放った俺を見ていた女子の目、あの目じゃないか!?
……ああ! こいつらはアイツの、、、バトルメタルのファンなのか!!! と言う事は、これがあの”地蔵”ってヤツですか!?
”地蔵” それは、お目当てのミュージシャンにしか目がない者共。フェスにおいては出番に備え、いい場所を確保しておき、その前に出てくるミュージシャンは基本スルー! と言う何とも、何とも言えない連中なのだ!! (今回はフェス地蔵が当てはまりますね)
畜生! アイツらも気が付き始めて動揺して来てるじゃねぇか! こんなに、こんなに俺達はアツいのに……
……ぜっんぜん、盛り上がんねぇ……
……
”パチパチパチ”
……我らキルエムオール完全敗北。
「何だよ、あんなの聞いてないよ」
「見たかよ、あの目」
「アレガ女ノ目……」
「ビッチ」
もうやる気出ない。ささっと片して帰ろう。ステージ裏に引っ込み放心状態でいると一際大きい歓声が沸く。
もうどうでも良くなってしまったけど、最後だ、見て帰るか……
本日最後の大トリ、”セイントホース”がステージに上がるとバトルメタルにスポットライトが当たる。
そしてアイツは弾き始めた。
”ギュイ〜〜〜〜〜〜ン!!!!”
一音だけだが、その神々しさに俺達は見惚れてしまった。
”ピロピロピロピロピロピロ!!!”
精密機械のようでありながら情熱的なフレーズ、圧巻だった……
"カッカッカッカッ、バーーーーン!!!"
そして演奏が始まる。
若い馬の女の子のキーボード、タンクトップの馬の男のベース、長髪の馬のドラム、短髪の馬のボーカル、そしてバトルメタル。
俺達はそこに王国を観た。
カワウソ ふろむ へる 〜キルエムオール〜 九十九 少年 @999boooy
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