4.エルフィラさん ②
エルフィラさんは中庭の椅子に1人で座っていて、2人が追いかけてきたことにびっくりしながらも空いている椅子を勧めてくれた。サリアは緊張しながらも話し出した。
「さっきは邪慳にしちゃってごめんなさい。ちょっとデリケートな話をしてい゛っ……」
大事なところで噛んだ。そのときミリアーネも同じくらい緊張していたが、フォローに入るのは忘れなかった。
「えっエルフィラさん、さっサリアはちょっと緊張してるんですけど、それはエルフィラさんの優雅な身のこなしに見とれているからです。そっそれにサリアはかねがねエルフィラさんとお話ししたいと言っていたので、そのせいもあるかもです」
と出鱈目なことを言う。エルフィラさんも笑いながらまあお上手、だとかなんとか、少し和やかな雰囲気になった。
しばらく天気や出身地といった当たり障りのない話題が続いたが、男爵令嬢を前に緊張の二人、話題が一向に発展しない。特にサリアは先ほどから「へえ」とか「はあ」とか肯定とも否定ともとれる相槌しか打たず保身に走っている。三人の話もいきおい途切れがち。早く核心の話題に入りたいが、お互い自分からは切り出したくない。(ミリアーネが切り出せ)(サリアがやってよ)の水面下での駆け引きが続いている。
話題が明日の訓練内容になるに及び、ミリアーネは意を決した。ここで一点突破!
「そういえば、明日の訓練内容で思い出したんですけど、さっきの夕食のとき、何か困ってませんでした?」
途中からなにひとつ「そういえば」になっていないことに気付いたが、一度開いた口は止まらなかった。
エルフィラさんはお気づきでしたか、と言って悲しい顔になった。そして少し逡巡したが、やがて話し始めた。貴族階級以外の人から避けられてしまうこと。でも貴族階級どうしで派閥を作ったりはしたくないこと。結局誰とも打ち解けられていないこと。
エルフィラさんが語り終わると、重い空気が3人を包んだ。
沈黙を破ったのはミリアーネだった。いたずらっぽく口を曲げて、
「じゃあ、今から私たちが友人になりますよ」
とたんにエルフィラさんが笑顔になった。
サリアは(ミリアーネのやつ、ちゃっかり私”たち”にしたな)と思いつつも、悪い気はしなかった。微笑みながら、よろしく、と言った。
エルフィラさんはもう満面の笑みで、小動物のように喜んでいる。ミリアーネはそれを見ながら笑った。
「エルフィラさん、リスみたいでかわいいですね」
「あ、友人同士になったのだから、お互い敬語・さん付けは止めましょう?」
サリアはびっくりして、
「えっ、男爵令嬢相手にタメ口でいいんです?後でとんでもない罰を受けるとか嫌ですよ」
と言ったが、本気で心配しているわけではなかった。この小動物から、そんな悪意が出てくることは無いと信じられたから。
◆
今日も食堂ではサリアとミリアーネが向かい合って夕食をとっている。しかし今日は、サリアの隣にはエルフィラがいる。
「ついにライバルヒロインは誰だ問題に決着をつけるときが来た!」
ミリアーネがパンをちぎりながら興奮している。エルフィラは興味津々、一方サリアは顔も上げずにパンにバターを塗っている。
ミリアーネはエルフィラに矢継ぎ早に質問を浴びせた。前世の記憶がある?謎の力が発現した?剣の腕前は?…………
すべての質問を終えると、ミリアーネは叫んだ。
「わかった!やっぱりライバルヒロインはユスティーヌさんで、エルフィラはモブキャラだ!前世の記憶・謎の力なし、剣の腕前人並み、容姿はちょっといいけど際立つほどじゃない、性格破綻してない、エルブラッドさんに密かに恋い焦がれていない等々々、なんの特徴も無い、モブキャラの要素しか無い!」
「ところどころ貶されているような……というかモブキャラってなあに?」
「説明してあげる!簡単に言ったら物語の主人公の引き立て役のこ」
サリアが堪りかねて割って入った。
「エルフィラ、それ聞いてると頭がおかしくなるから、早々に切り上げた方がいい。私はお先に」
そして食器を片付けに席を立った。
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