第6話
ジリジリと鬱陶しい音が鳴り響く。目を擦りながら目覚まし時計を止める。
寝不足だ。
昨日の夜は彩音との出来事を思い出し、布団で悶えていると気づけば0時を過ぎていた。急いで寝ようと電気を消すも、胸の高鳴りが邪魔をして寝付くまでにかなり時間がかかる。
そんなこんなで寝れたのは3時を回ったあたりだ。毎日8時間は寝てる太郎にとって睡眠4時間は初めての事で、重い目蓋と今にも眠りたい欲求に苛まれる。
それでも学校に行けば彩音に会えると思い、必死に目蓋を擦って起き上がり、学校の準備を始め支度する。
学校に着き、下駄箱で靴を履き替えていると中学生時代の元クラスメイトに絡まれる。
「おう! 太郎じゃねえか! どうだ、なれたか?」
高田一郎は相変わらず、気さくに話しかけてくる。高い背丈に爽やかな短髪で運動神経抜群の彼は女子からの人気も高く、男子からも良く慕われている。
「うん、慣れてきたよ。一郎はどう? サッカー続けてるの?」
「おうよ! また球拾いからやり直しだぜ! 世知辛いぜまったく! じゃがんばれよ!」
一郎は太郎の肩を叩き風のように去って行く。少し懐かしい気分に浸りながら教室に入ると、自然と彼女を探してしまう。
残念の事にまだ来ていないようだ。
彩音がクラスに入って来たのは予鈴ギリギリの時間だった。相変わらず整った顔立ちがクラスの注目を集める。
席の周りに挨拶を交わしながら鞄を机にかけて着席する。
そこから結局、彩音と話す機会は訪れなかった。
休み時間は周りの人達が囲って入る隙間も無い、昼も同じだ。わざわざそれを掻き分けて入る勇気は太郎には無い。途中から半ば諦めて、いつも通り過ごしていたほどだ。
もしかしたら彩音の方から話しかけてくれるんじゃ無いかという期待もあったが、そんな素振りは見せなかった。
やるせない気持ちでトボトボ家に帰るとポケットに入れていた携帯が振動する。
画面を見ると『新着、彩さん』と表示され、急いでタップすると、メッセージが表示される。
【昨日はありがとう御座いました。もし宜しければまたお出掛けしませんか?】
太郎は湧き上がる衝動をフリックに込め文字を紡ぐ。
【いえ、こちらこそです。今週の土曜日なんてどうですか?】
【楽しみにしています】
学校での消化不良はすっかり消え去り、土曜日のプランを練り始める。今後の為にバイト探しも考えると、忙しくなってきたが太郎の体は今にも飛び出しそうなほど軽やかだ。
◆◆◆
待ち望んだ土曜日がやって来る。
人気者の彩音と学校で話す機会は相変わらず無いが、この日の約束が太郎の心の寂しさを埋めてくれた事は間違い無いだろう。
待ち合わせの場所、例の商店街につくと一際目立つ女性がいる。
「彩さん!」
彩音がこちらに気づくと、ニコッと微笑み手を振る。
やっぱり学校で見る彼女より大人ぽく見えるのは学校ではしていない化粧がそう見せるのだろう。
「太郎君おはよう!」
「おはようございます、行きましょうか!」
「はい!」
太郎は彩音の手を握り商店街を歩き始める。
必死に考えたデートプランを思い出しながら歩いていると不思議な光景が目に映る。
隣にいるはずの彩音が何故か目の前から歩いてくる。
隣を確認しても確かに太郎の手を握っているのは彩音だ。頭はパニック状態になり足が止まる。
目の前に来た彩音がこちらに気づき、驚いた顔をして口を開く。
「お母さん何やってんの?」
僕の好きな学校で一番可愛い彩さんは、世界一可愛い彩さんだった。 NEET山田 @neetyamada
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