番外篇:ルリリの章
第一章
少女の悩み
「レーカ」
「どうしたのルリリ?」
「私はレーカに追いつきたい。どうしたらあんなに強くなれるの?」
ある日ふと飛び出した言葉。ルリリはレーカを真摯な目で見つめる。
ルリリが知りたいのはレーカの強さの秘訣。しかしレーカからすればコンプレックスや苦難の連続で、秘訣というものがあるのかと問われれば首を傾げざるを得ない。
「お願い、教えて。どうしたら強くなれる?」
「うーん、私も上手く行ったことのほうが少なかったから……言語化が難しいかも」
「そっか」
残念とばかりに顔を俯かせた。ルリリは両手をきゅっと握る。スカートにできた皺がルリリの心境を代弁していた。
「それならギンヤ先生に聞いてみたらどう?」
「やっぱり、そうだよね」
「今はこれくらいしか提案できなくてごめん。何かわかったら今度こそ話すわ!」
「……ありがとう。まずはギンヤ先生を頼ってみるよ」
「強くなる秘訣だって? そりゃあやっぱり、逆境を沢山経験することなんじゃないのか?」
「逆境、ですか?」
ルリリは早速ギンヤに質問をした。すると、ギンヤは強さの秘訣を端的に説明する。
「そうだ。ルリリに降りかかった苦難はいくつある? 片手だけで数えきれるんじゃないか?」
「それは」
ギンヤに内心を見透かされ、不満気なルリリ。しかしギンヤは細かな説明を付け足した。
「良く耳をかっぽじって聞けよ」
──ギンヤ曰く、逆境を乗り越えるために沢山の試行錯誤をする。故に次にとるべき行動の幅が広がるのだそうだ。
「昔、最適解を選べって教えてくれた奴がいたんだ。でも俺は最適解がすべてじゃないと思っている」
「はっ……!!」
最適解を選ぶにも選択肢の幅あってこそだとギンヤは言う。その言葉でようやく、ルリリは理解した。自身に足りていないのは「場数」であると。
「よし! お前に課題を出そう。次の森林大会がこのブルメの森で開催される。そこで優勝してみろ」
「ゆ、優勝!?」
「そうだ」
「分かりました、優勝してみせます!」
ギンヤは森林大会での優勝という課題をルリリに与えたのだった。
優勝すると強気に言ってみたは良いものの、挑戦者はどれも腕に自信のある者たちである。正直なところルリリの能力はトリッキー寄りだ。純粋な戦闘という意味では脚力といい膂力といい、身体能力を底上げしてくれるものでもない。ルリリの戦闘スタイルはむしろ卑怯者と罵られてもおかしくはないものだった。
光球を用いて視界をコントロールし死角からの一撃を狙う──これがルリリの得意技だ。
「はあ、どうやって戦おう」
ため息が重い。
不意を狙うことが可能なのは戦いにおいて一度限りが基本。そのためルリリは別の手で勝つことが求められていた。
「私は光球で環境をコントロールできる」
ふと口から飛び出した言葉。自分に出来ることを虚空に並べてみる。
「私は相手のペースを乱すことができる」
「私は相手の隙を作り出すことができる」
そこでルリリはふとギンヤの言葉を思い出した。話によればギンヤは鏡や分身を生み出すだけの能力だったはずである。
それならば彼はどのように戦ってきたのか。
「もう一度、聞きに行ってみよう」
ルリリの決断は一瞬だった。
***
「──また来たのか? どうしたよ、そんなに改まって」
ギンヤは目を丸くする。そんな中、ルリリは両拳を握りしめて口を開く。
「……先生。先生は自身の能力をどのように活用してましたか?」
「能力の活用、ねぇ……そうだな。俺もどちらかと言えばお前と同じく、不意打ちが得意だったんだ」
ギンヤは過去の戦いを記憶から掘り起こす。
魔蟲たちとの戦いではアトラスがアタッカーであったため、ギンヤは支援に徹することが多かった。
否。コーカスに押し負けてから
気がつけばその思いを吐露していた。
「じゃあ先生はどのようにして乗り越えたんですか?」
ルリリは質問を重ねる。ギンヤはこめかみの辺りを軽く押さえてため息をつく。
「俺には幼馴染がいたんだ。うん、まあ、そういうことだ」
「は?」
ぶっきらぼうな口調になりつつ、さらにギンヤは言葉を濁した。ルリリが間の抜けた反応になるのも無理のない話である。
「ええと、話が見えてこないのですが、どういった話ですか?」
「あー、要はだな。守りたい存在ができてやっと戦う決心がついたんだ。まずは心、次に実力。自ずと実力がついてくるさ」
「……とりあえずやってみます」
どこか納得がいかないながらもルリリは行動に移すことにした。
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