英雄の帰還
──青の閃光が迸る。
「あ、アトラス……」
「先生、大丈夫ですか」
「あぁ……そうか、レーカか」
全身を硬化させ、殺気を放つ。その青色はレーカの異能が花開いた時のように強い光だった。手をえ前でクロスさせて、手刀をつくる。
「ハイネ! 皆を……どうして!!」
「これが
「絶滅……?」
「そうだ。殻人族は遠い未来で、必ず滅ぶ……」
ハイネは予言した。遥か先の未来で、起こり得る出来事を。既にその道を、歩き始めているということを──。
「だから俺は元に正す役目がある! 殻人族がどんな形でも生き残るために」
ハイネは叫ぶ。そして己の武器を構えた。まるで甲虫の爪のように伸縮する鎖と、その先にある鋭く光る杭。ハイネは先端をレーカへ向けると、すぐに距離を詰める。
外骨格となり常に血流を加速させている状態のハイネにレーカは必死にしがみつく。
射出された杭を硬化させた腕で受け止めるが、両手をクロスさせても力量は互角。なんとか姿勢を前に傾けるレーカだったが、すぐに押し返されてしまった。レーカは姿勢を低くすると、背中をそらした。
杭が頭上を通過していき、その隙にハイネの懐へ潜り込む。すぐさま軌道を変え背後を杭が取ると、レーカは腹部を軸に身体を捻った。くるっと横へ飛び、杭の後を取る。杭に繋がる鎖を手刀で断ち切り、そのままハイネのもとへ接近──。
「やぁぁぁぁっ!!」
しかし、鋼のような肉体に弾かれてしまう。
生半可な攻撃ではダメージを与えることはできない。レーカは瞬時に理解すると、両手天高く突き上げる。
手先の延長線上を硬化させ、一気に振り下ろした。
土煙が舞う。
視界が塞がり、ハイネの位置が見出せなくなる。
「っ、ショウとミツハは先生たちを! プリモ! ルリリ! サポートお願い!!」
瞬間、レーカの背後から二つの影がすり抜けた。ルリリはまっすぐ前へ進み、ハイネのいるであろう位置に甲殻武装を投擲する。プリモは手甲から伸びた触手で斧を象り、そのまま頭上を狙う。
「突然現れて奇襲とは、酷いことするねぇ」
「アンタだけには言われたくないわよ! この卑怯者!!」
「うん、同意っ!」
プリモは怒りを爆発させた。勝てる勝負だけをしてきたハイネがそんな台詞を言う資格は無い。
プリモは五本の触手でそれぞれ刀、剣、槍、
──そして、血流量を増加させた。
「根源開放……ッ!」
瞬間的に大きく流れ込んだ血液が血管を押し広げ、表情が苦痛に歪む。そのまま勢い良く振り下ろした。
五種類の攻撃が同時にハイネを襲う。ハイネは両手をクロスさせ、攻撃を受け切ると、反撃の動作へと移る。
しかし、それよりも前に──次の攻撃が迫っていた。
「はぁぁぁぁっ!」
ルリリの光球を生成する能力。四つほど生み出された光の球はそれぞれハイネの手、脚を狙っていく。大きなダメージは与えられなかったが、ハイネは怯んでしまう。
「今だよ、レーカ!」
「今よ! レーカ!!」
疾風の如く大地を蹴り、跳躍。
空中から全体重を乗せた一撃を見舞った。ハイネの身体に傷がつき、後方へ吹き飛ばされる。木々の間を転がり、地面に倒れた。しかしハイネは余裕そうな表情で立ち上がる。
「まだまだだよ。この程度、樹液を舐めながらでも戦えるくらいさ……」
そう言って、懐から樹液の染み込んだ木片を、
──ガリィィィ!!
大きく噛み砕いた。そしてハイネは濁った目でレーカを強く睨む。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
甲殻武装からスパイクを射出。その数ざっと十本。両手の指の数ほどある杭はどれもレーカを見つめていた。
目を見開くレーカだったが、冷静さを取り戻して十の攻撃に対処する。両手の手刀で次々と迫り来る杭を斬り裂いていき、喉元を狙う攻撃に対しては背中を反らすことで回避。すぐに上体を起こして手刀で弾く。
「──ッ!?」
「段々と余裕が無くなってきているみたいね。次で決めるわ!」
レーカは両手を重ね合わせ、そして空へ掲げた。
「させるかァァァァァァ!!」
瞬間、ハイネの姿がブレる。瞬く間にレーカの眼前へ距離を詰め、顔を殴り飛ばす。
「んぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
嫌な音がした。
レーカは後方へ吹き飛ばされ、木の壁に叩きつけられる。壁はバキリと砕け散り、その奥に倒れ込んだ。
「「レーカ!?」」
プリモとルリリが駆け寄ろうとするが、その隙を見逃すハイネではない。すぐに視線をルリリへと移し、大振りの蹴りを叩き込んだ。
「っ──」
横に吹き飛ばされ、レーカとの間に大きな距離が空く。必死に手を伸ばそうとしてもレーカに触れることはできない。
次にハイネはプリモへターゲットを移した。
「ひッ……!」
予想以上の攻撃力と瞬発力。そして過度な負荷にも耐えられる強靭な肉体。殻人族が身体の柔軟性を得るために捨てた強靭さをハイネは持っている。
この瞬間、プリモの中にとてつもない恐怖が生まれたのだった。
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