閑話 川遊び(水着回ダヨ)
あの戦いの後、しばらくの休暇があった。
ちょうどその時期には、マディブの森の近くの川が冷たくて気持ちいいと言われている。
──水飛沫が舞う。
「おっしゃ! 俺一番〜」
「む、ギンヤのくせに生意気な」
「うるせぇ! 楽しみにしてんだ、仕方ねぇだろ!!」
気分上々のギンヤはこの後の結末など気にせず、騒ぎ立てる。その言葉に触発されたキマリは甲殻武装の鎌を取り出す。
「ううぇ!? ちょ、それ仕舞えよキマリ!? 鎌、カマーーーッ!?」
絶叫。
キマリはニヤリと笑みを浮かべ、鎌を見下ろす。すると好奇心に火がついたのか、刃先を水面と平行にして、一度薙いでみる。
波が鎌の反りと同じように広がるのを見て、キマリは甲殻武装を仕舞った。それから水飛沫とともに水面へ飛び込んだ。舞った水滴が黒の水着を濡らす。
「もう、うるさいわね……! ギンヤもいい加減覚えなさいよ。ほら、キマリもからかわない!」
翠色の水着を着たヒメカが声を張る。二人に注意をするが、キマリはフッと笑って、
「……それは困る。私の楽しみがなくなるから」
「楽しみってなんだよお前ぇぇぇ!?」
流石のヒメカも頭を押さえて項垂れた。
そして、その横で大きく跳躍する影。
──ザバァァァァン!
「うおぉぉ! 冷たいっ!」
「っ……!?」
大きな音を立てて飛び込むアトラス。水に濡れるアトラスの背中がチラリとヒメカの視界に入ってしまった。水を掬い上げ顔にかける。アトラスの様子はまさに冷たい水に驚きつつもはしゃぐ子供のそれであった。
さらにアトラスは両手を組んで水を掬うと、ヒメカのほうへ水鉄砲を発射。
「きゃっ! な、何するのよアトラス!?」
「ヒメカは入らないの?」
「は、入るに決まってるわ──」
慌てて水の中へ入ろうとするが、最後まで言い切る前に脚を滑らせてしまう。前へ倒れ込もうとする身体に反射が追いつかない。
「っ……!?」
「な、な、なっ!!」
結果としてアトラスに抱きつくという形で危険から免れた。しかし同時にこの態勢は、胸を押し付けているようにも見えなくはない。
「ヒメカのえっち」
「ッ!?」
みるみる顔が染まっていく。そして手で身体を覆い隠すように自分を抱きしめ、水の中でしゃがみ込んだ。
ブク、ブク……と、息を吐いた痕跡が見えるためキマリは吹き出してしまう。
「なによキマリ! ちょっと、意地悪じゃない!」
笑い声が聞こえてなのか急に立ち上がり、ビシりと人差し指を立てた。そして水をキマリへ飛ばす。
「ん、そっちがその気なら、応戦」
キマリも手を組んで水鉄砲をつくると、手の内にある水を一度に発射した。
「きゃあっ! どこ狙ってるのよ!?」
ヒメカが妙に艶かしい反応を見せる。ギリギリと歯を食いしばって、キマリを睨んだ。
それもそのはず、キマリはヒメカのある一点に集中させて、水を飛ばしていた。意地悪な笑みを浮かべてキマリは反撃を続ける。
その光景を見てアトラスとギンヤは、微妙な笑みを浮かべ合う。互いに同じ顔をしていたのか、大きく吹き出してしまった。
そんなこんなで、休暇のひとときも過ぎ去っていったのである。
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