少女達の選択

 ルリリが学校のほうへ向かったのを見送ると、プリモは自分の行動を開始する。学校の通りを横に逸れて、向かったのは商店街。真っ直ぐ進むと左側に服を扱う店の並びが見えてきた。


「いらっしゃいませ! 今日はどのような御用ですか?」

「ええと、この店にシンプルなシャツとズボンは置いているかしら? あれば、それぞれ三着ほど買いたいの」

「か、確認してきますね。少々お待ちください!!」


 店員は店の奥へ駆け足で向い、在庫を確認する。しばらくして黒いズボン三着と、別の色合いのシャツが三つ。それぞれグレイ、紺、ピンクのカラーだ。プリモはその内容を確認して、


「いいわね。よし、決めたわ。これ全部頂戴」


 一度にすべて購入することを決める。


「え……。そんなに一度に、ですか? お代は──」

「これでいい?」


 店員の素っ頓狂な声を遮ってプリモは代金として一つ、貴重な鉱石を差し出す。手のひらの上に乗るそれに唾をごくり、と嚥下する音が聞こえた。


「わかりました……。取引成立です! ありがとうございます!!」


 そしてプリモは役割を終える。だからプリモはルリリのもとへ向かう。道を横に折れ、来た道を戻る。飲食店や露店が並ぶ中を通り抜けるが、なんとも樹液が香ばしい。大通りまで出たところで学校の見える方角へ進む。道を行く影が沢山見える。その中でプリモはある声を耳にした。

 それは泣き声だ。


「うわぁぁぁぁん!! お母さんどこぉ…………!」

(はぁ、仕方ないわね)


 肩をストンと落として息を吐き出す。プリモは今も泣いている少年に声をかけた。


「どうしたの? しょーねんっ!」

「……? うえぇえぇぇんっ!!」


 プリモの顔を見て、さらに泣き叫ぶ少年。プリモは額のあたりを押さえて、そして優しく微笑んだ。


「お母さんとはぐれちゃったの?」

「……うん。ぐすっ」


 少年はゆっくりと頷く。よく見ると、少年の黒い殻に覆われた頬を涙の粒が伝っていた。プリモは己の予定よりも先に、この子供の母親を探し出すことに決めたのだった。



 ***



「む、プリモ……遅い」


 一方、ルリリはひたすら教室でプリモの合流を待ち続けていた。その表情は窺い知れず──否、若干頬が膨れているだろうか。教壇に上がって机の上に手をついているギンヤは退屈しのぎに声をかけた。ちなみにギンヤは授業中ではない。


「ルリリ、顔が膨れてるぞー」

「っ!? 先生! それを言うなら頬でしょ!?」


 ルリリ、激昂。


「あ、悪ぃ悪ぃ。それでレーカ……いや、今はレインだったな。レインはマディブに向かうんだな? それにルリリたちもついていくってことでいいんだよな?」

「はい」

「そうか」


 ギンヤは少し考え込む様子。顔をじっとルリリに向けて、口を開いた。


「それなら、手紙を書いておこう。プリモを待つついでに一緒に持っていくといい」

「それって、誰宛に?」

「…………少し待ってくれな」


 そう言うと視線を手元に落とし、木炭ペンを紙に走らせて手紙をすらすらと綴っていく。やがて書き終えるとギンヤは封筒にしまい込んで蝋で封をする。手紙の角をつまみ、ルリリへと手渡した。


「封をしておく。困った時に現地の奴らに見せろ」

「わ、わかりました」


 念押しされて、ルリリは胸の中央でぎゅっと抱き締めるように両手で受け取る。

 そんな時にやっと、息切れのような音が聞こえてきた。


「はぁ、はぁ、はぁ。ま、待たせたわね……!」

「……プリモ、遅い」

「本当にごめんなさい。これにはちょっとした 理由があるの」


 その理由とは、迷子の母親探しである。

 時間が思いの外かかってしまった。同時にルリリをかなりの間、待たせてしまったと思う。


「そう。なら、いいよ。それは仕方ないし」

「本当にごめんなさいね、ルリリ」

「二人とも」


 ギンヤが二人の視線を集めた。


「先にルリリには説明したが、プリモにも説明しておくぞ」

「はい?」

「プリモに手紙を託した。困ったらその中身を誰かに見せろ。いいな?」

「……分かりました。了解よ、先生」

「おう! 二人とも、レーカを──じゃなかった! レインを頼んだぞ」


 揃ってコクリと頷き返す。

 それから地底へと戻り、レインに衣服を渡す。


「これでどう?」


 レインにはグレイのシャツとズボンを渡し、ルリリにはピンクのシャツとズボンを。プリモの手元には紺色のシャツとズボンが残った。

 各自部屋にて汚れてもよい服装に着替え、再度集合する。

 荷物を纏め、着替えを持ち、土で汚れる準備は万全だ。


「よし、いくよ!」

「ええ、勿論!」

「うん、いこう……!」


 各々声を掛け合い、己を鼓舞する。

 そして彼らはレインを先頭に、土の中を進むことになるのであった。

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