七光り(後編)

 それからキマリも含めて英雄達の同窓会となった。キマリの娘というギンヤの衝撃発言からキマリへの質問が絶えない。


「私はルリリの親になったのは、あの子が私に似てたから」


 ルリリはキマリの娘である。しかしカマキリの名親ととカミキリの子であるために、本当の親子というわけではない。引き取った理由をキマリは語りだした。


「ある日、私は仕事で地底口から地底へ下ってた。その時に、幼いルリリが眠ってたの。周りに卵はなかったから、捨てられたんだと思う」


 キマリの仕事──地上と地底世界を往く者達の管理。その見回りの中で、ルリリを見つける。

 卵が周りにあるならば、母親によって産み落とされただけかもしれない。しかし、ルリリは一人ぼっちだった。キマリは幼い頃の悲しい記憶と重ねてしまい、ルリリを引き取ることとなったのだ。


「なるほど……」

「そうなのね、キマリ」


 アトラスとヒメカが少し暗い表情で頷くと、ギンヤも顔を下へ向けた。


「ん。でも、私も楽しい時間が増えた。だから大丈夫」


 キマリは口元を綻ばせて言う。ルリリを引き取ったおかげで幸せな時間というのも増えたようである。

 この同窓会は、空が薄らと明るくなるまで続いたのだった。



 ***



「レーカさん、あなたの両親は英雄よね。それなら何故反撃しないの?」

「え、えーっと」


 学校生活が始まって二日目。レーカはコロッセオで窮地に立たされていた。目の前にはルリリが甲殻武装を構えて剣先を突きつけている。

 ギンヤの指示で、一対一の模擬戦。レーカはルリリと模擬戦をすることになった。しかしレーカは甲殻武装を握ることなく、ひたすらに攻撃を躱す。


「……もしかして、甲殻武装が使えない?」


 ルリリの言葉にざわめきが走る。それからレーカを見てみれば、レーカは甲殻武装を引き抜く様子すら見せない。しかも左右共に脚跡の鎧クラストアーマーがなかった。


「本気にならないようなら、次はあなたの喉元を狙うから」


 レーカはやはり、甲殻武装を引き抜く素振りがない。苛立ちを覚えたルリリは剣をまっすぐにレーカの喉元へ。


「私には、これがあるッ!」

「……ッ!?」


 両腕を硬化させて、ルリリの剣を受け止める。ジリジリと擦れる嫌な音がするが、ルリリの振り下ろした剣を押し返す。押し返されて逆にルリリがよろけてしまうが、片脚を素早く後ろへ回して体勢を立て直した。バックステップで一度距離をとり、再び剣を構える。


「なに、それ……」

「これで、勝つよっ!!」


 レーカは手の先を更に硬化させ、手刀をつくった。そしてルリリの横薙ぎを下に潜り、斜め後ろに回る。ルリリは脚をレーカのいる方角へ突き出し、レーカの肩を蹴った。そこにわずかな距離が生まれ、ルリリは袈裟斬りにする。


「ぐっ……!」


 レーカは手刀のちょうど手首のあたりでルリリの刃を受け止め、ルリリの剣の軌道の外側へ身体を回転させた。


「なっ!」


 ルリリの背後まで移動したレーカはルリリの肩を手刀でトンと軽く叩いた後、優しく手を添える。


「そこまで! レーカの勝ちだ」


 ギンヤの号令に、ルリリは顔色を暗くしてしまう。そんなルリリを見て、勝利に固執していたのかレーカに嫉妬していたのか。そのどちらかだろう、とギンヤは思う。


(後でしっかりとケアをしなきゃな)


 ギンヤはやはりというべきか、広い常識で物事を考えながらこれからの計画を立てる。




「先生、どうされましたか?」

「あぁ、ルリリ。少し話があってな」


 ルリリは放課後、ギンヤに呼び出されていた。どこかの一室で早速ギンヤは伝えるべきことを話し始める。


「話ってのは昨日、アトラスからたまたま聞いたレーカの話だ」

「レーカさんの?」

「そうだ。レーカは生まれた時から、甲殻武装を持っていなかったみたいなんだ。だからあれは努力による勝利だと先に伝えておく」

「はぁ……」

「それでだ。ルリリ、お前は何をそんなにイラついているんだ?」


 ギンヤは真っ先に、ルリリの痛い部分を突いた。


「それは、私が……お母さんと同じじゃないから。英雄としてのお母さんは尊敬してるけど、まがい物の親子だから。恵まれたレーカは努力すらしてなかったんだと思って、悔しいかった。恨めしかった……」

「…………そうか。レーカはレーカなりに努力しているし、レーカにしかない悩み事もあるだろう。それなら、だ」


 一呼吸おいて、ギンヤはルリリを啓すような物言いをする。


「レーカの隣にいるといい。共通の悩みもあるだろうし、レーカにしかない悩みもある。逆にレーカが知らないルリリの悩みも当然あるだろう。だから、それらを学べばいい」

「……はい。わかりました、先生」


 ルリリは納得したような、納得しきれないような煮え切らない表情で頷いた。

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