親子の絆
「レーカ、おかえり」
「お父さん!」
帰宅して早々にレーカは床に崩れ落ちた。ぺたんと座り、力なく顔を俯かせる。
「……どうした、レーカ」
アトラスが駆け寄るが、レーカはアトラスの上着を掴んで、
「私、何もできなかった。私が眠らされている間に、みんなは」
「友達がどうかしたか?」
「多分、さらわれた……」
レーカは憶測という名の真実を口にした。床に涙の粒が零れ落ち、前髪が双眸を覆い隠す。肩を震わせながら、大粒の涙を流した。飲み物を盆に乗せて運んできたヒメカは二人の様子を見て、言葉を失ってしまう。
「レーカ、どうしたの!?」
「お母さん、お父さん…………私に、力を貸して」
「「っ!」」
レーカの強い頼み事にアトラスとヒメカは目を丸くする。二人は当然のように、首を縦にうなずかせた。しかし彼らを──レーカの友達を探し出す手段を二人は持ち合わせていない。
「レーカ、誰がさらったのか分かるか?」
「うん。多分、シロキ。それと……デナーガっていう夢の中であった敵がいたわ」
それを聞いてヒメカが苦い顔をする。それに加えて、シロキはアトラスにとって聞き覚えのある名前であった。だからアトラスは、かつて回った集落での出来事を思い出す。
森林大会が始まるまでアトラスが集落を巡っていた頃、異常なまでの過疎状態にある村を見た。その地にはほぼ間違いなくと言って良いほど、何者かによって食い散らかされた痕跡がある。つまり、誰かが同胞を食べた──そうであると考えられるだろう。
「ここは、どうしてこんなに」
アトラスが集落をあちらこちら回っても、生活の様子は窺い知れない。まず人影が見えなかった。住居の中に隠れているのだろうか。
しばらく探していると、一人の男が村の端で佇んでいるのを見かけた。
「やっぱり、レーカの言う通り……」
遠くなので表情は見えないが、顔はやや下を向いている。なにやらぼそぼそと口を動かしているようだが、突然後ろに
それは全ての元凶。サタンをたぶらかし、真実を捻じ曲げた
「──ッ!? あれは、ハイネ!!」
しかも佇んでいるほうの男にも見覚えがあった。レーカのクラスメイトだったと、アトラスは記憶している。男は耳元でハイネに何かを言われると、確実に顔を俯かせていた。
「あれはいったい、なんだったんだ……」
男が敵に与しているのは間違いない。しかし男もどこか辛そうであり、アトラスはその場から動くことができなかった。
そんな男の心境を表現するように、集落に生い茂る木々は鈍色の影を落としていた。
***
「俺はあの時、介入できなかった。あの灰色髪の男……あの子がシロキで間違いないな、レーカ?」
「うん。間違いない。なら、その村にいたのはシロキなんだと思うわ。それでお父さん、その村はどこにあるの?」
レーカはアトラスの問いに頷くと、その集落の在り処を尋ねる。
「あー、えっと。正直、この場所からはかなり遠いぞ。それでも、行くんだな?」
「うん、もちろん。みんなを助けに行くわ!」
「その意気だ。ヒメカも、来てくれるんだよな?」
視線を横へ回してヒメカに問う。ヒメカは特に言葉を発することなく、静かに頷き返した。
「それなら、支度をして明朝すぐに出発するぞ」
「わかった」
「ええ、了解よ」
──翌日、朝。
日はまだ昇っておらず、冷たい空気と鉛のように重たい空が肌をヒリヒリと刺激する。そんな中家を出発し、道を歩く三人の影があった。
言うまでもなく、レーカ達だ。
一歩、一歩と進んでいく最中。水分を含んだ空気が大地を包み込み、視界を悪くする。霞む蜃気楼の中、とある声が聞こえた。
「──ようやく来たわね。待ってたわよ」
「……プリモ?」
「私も協力してあげる。昨日、先生は戻って来ないし散々だったもの」
遠い目をしながらプリモは悪態つく。プリモとレーカの会話を耳にしたアトラスは一言尋ねる。
「レーカの友達かい?」
「ええ、そうよ! 私はライバルでもあるわ」
「……ありがとう。お願いだ。俺達に、レーカに協力してあげてくれ!!」
「了解よ、レーカのお父さん!」
アトラスが礼を述べると、なんとも不思議な呼び方で答えたプリモ。
彼らは目的地へ向けて、足を進めていく。
それからしてまもなく、レーカは本当のシロキと邂逅することになるのだった。
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