古き盟友

「二人とも、今日は久々に地底に行くぞ」


 とある休みの日。アトラスはレーカとヒメカにそう告げた。


「え? どうして」

「地底で父さんの……お前のおじいちゃんの盟友に会う」


 レーカの疑問にアトラスは理由を答えるが、どうにもおかしな言い回しにレーカは首を傾げる。


「盟友?」

「ああ、そうだよ。盟友だ」

「そう……。変なの」


 アトラスはレーカの淡白な反応を見て激震が走った。それは少年少女がともに通る、親にとっては険しい道のり──。


(まさか……反抗期ッ!?)


 アトラスはショックを受けて膝から崩れ落ちる。ヒメカはその様子を察してか、こめかみを左手で押さえた。


「ねぇ、お父さん。これから行くの?」

「ああ。今から行くぞ」


 三人は支度を整え、それから地上と地底を繋ぐゲートへ向かう。そして壁伝いに渦巻く階段を降りていった。しばらく階段を降りて、地底世界へたどり着く。


「こっちだ。ついて来て二人とも」

「ええ、もちろんよ」

「うん……」


 蟻の巣を繋げたような通路をくぐり抜けて、ある集落へと向かう。そこはアトラスの故郷から離れた場所にある、新しい集落だ。村の門をくぐり抜け、盟友の家をノックする。


「ん? 誰だー? っ!?」


 盟友は扉を開けてアトラスの姿に目を剥いた。


「お、お前……」

「お久しぶりです。エルファスさん」


 亡き父の盟友──エルファスは突然のアトラスの来訪に驚きつつも、再会を喜んだ。


「アトラスといつぞやの嬢ちゃんと……ほう、なるほどな。後ろの子はアトラス、お前の娘か?」


 地底世界のとある村。エルファスと久々に邂逅したアトラスは家族の二人を紹介する。


「そうです」

「そうか……。どうりでアトラスも大きな背中になってるわけだ」


 妙に納得した面持ちでエルファスは頷く。そしてエルファスは今日、アトラスの訪れた理由を尋ねることにした。


「それで今日は、何の用だ? ここにお前が来るのは今まで一度もなかったからな」

「ずっと昔の父さんの戦い方を知りたくて、それを聞きに来ました」


 アトラスは真剣な表情で質問する。過去のマルスの戦い方──アトラスは幼少期に土竜から助けられたことと、その他に戦いぶりを見たのは日食魔蟲との戦いで死ぬ間際の姿だけだ。

 なので、マルスの戦い方を知っているエルファスに尋ねることにしたのである。


「あいつの戦い方? 何故だ──とは聞かないでおこうか」


 エルファスの言葉は続く。


「ふむ。そうだな、あいつは元々、護りつつカウンターで相手を倒す戦い方だった。だが、お前の知っているあいつの戦いはアグレッシブだったと思う」

「確かに、そうだったと思います」

「じゃあ、何故だと思う?」

「…………」


 エルファスの問いにアトラスは答えることができなかった。その質問の答えになり得るものを見つけることができなかったのだ。


「もう、お前も持っているはずだぞ? アトラス、本当にないか?」


 アトラスは己の中で考える。

 マルスにあって、今の自分にもあるもの。


 それは──


「……護るべきものの存在、ですか?」

「そうだ。あいつはお前が生まれる前に戦い方を変えた。サタンの能力が勇者に相応しくないことがわかってから、あいつはサタンを護ろうとしたんだ。でも、サタンはその重圧に姿を消してしまった」


 アトラスはエルファスの話に耳を傾けながらサタンのことを思い出す。サタンと戦ったとき、サタンは嫉妬に塗れたような表情がつねだった。

 今この瞬間、妙に納得できたとアトラスは感じた。


「話を続けるが、それからマルスは戦い方を護る前に相手を倒す……そんな攻撃的な戦いに変えてしまったんだ。だからアトラス」

「なんでしょうか?」

「お前も戦い方を見直すべきなのかもしれないな。それを探すんだ」

「はい……」


 アトラスはゆっくりと頭を縦に振る。それから後ろで見守っている二人を見つめた。


「はい。ありがとうございます、エルファスさん」

「参考になってくれれば、俺としても嬉しく思う。今は確か、ハイネを追ってるんだったな? 頑張れよ!!」

「はい!」


 非常に実りのある話を聞けたアトラスはヒメカとレーカをつれて地上世界に帰るべく、エルファスに別れを告げる。それから同じ集落にあるマルスの墓へ向かう。

 静かに祈りを捧げ、すぐに場を離れた。


 ──そして、彼らは村を出発する。



 ***



 アトラスたちは天へと続く階段を登り、地上世界へと帰還した。


「やっと、帰ってきたぁー! はぁ」


 それから家に到着するとすぐに荷物を床に置く。


「アトラス、これからどうするの?」

「うーん、どうするべきなのかは分かった。でも」

「でも?」

「今俺が、戦い方を変えるべきなのかが分からないんだ」


 ヒメカの問いに、アトラスは思ったことを素直に吐露した。マルスはサタンを護るために地底から遠ざけ、己の戦い方を変化させたが、今のアトラスにそこまでしてこれからの自分を変える必要があるのか。

 そう考えると、首を傾げてしまう。


「そうなのね。それなら、必要な時に戦い方を考えたらいいんじゃないかしら?」

「ああ。そうだな」


 辺りはもう暗く、静まり返っておりアトラスのため息が音となり耳を震わせる。

 今夜は、そんなアトラスを悩ませる夜だった。

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