好敵手プリモ

 一通りプリモの紹介を終えたのち、レーカはプリモの席に駆け寄っていく。それからプリモに質問をする。


「プリモ。どうしてこっちに? 仲間の二人はどうしたの?」

「ああ、ショウとミツハのことね。それなら……まだ、マディブのほうで学校に通ってるわ」

「そうだったのね。なんだか残念な気もするわ」


 プリモの反応にレーカはそう返した。

 自分の仲間に目を向けて、少しだけ寂しい気分になるレーカ。ルリリ、ネフテュス、ロニ、そしてシロキ。それぞれが離れ離れになることを具体的にイメージするのは難しい。

 レーカはなんとなく、プリモを抱き締めた。そして、背中をポンポンと優しく叩く。


「な、なによ……。レーカ」


 プリモは頬を染めてレーカを睨む。その反応にレーカは声のトーンを落として答える。


「なんか、寂しそうだったから。気を悪くしたらごめんなさい」


 レーカは素直に謝った。すると突然、怖いくらいに表情をニッコリとさせる。


「プリモーーーっ!!」


 ──そして容赦なく、プリモに抱きついた。


「な、なな、なにしてるの!? ちょっと、レーカ!?」

「単純に私がこうしたいだけ〜! 問題ないわよね」

「問題大アリよ! びっくりしたじゃない!」


 プリモは反射的にレーカを突き放してしまう。その様子を見て、レーカの仲間たちはけらけらと微笑ましい視線を送っていた。



 ***



「今日はコロッセオのほうに行くぞ。これから対人戦の授業だ」


 ギンヤは教室の生徒たちを誘導して、コロッセオのほうへ向かう。それから生徒全員を二組ふたくみに分けて、ペアごとに距離を取ってもらう。


「まず、説明だが……これからペア同士で試合を行ってもらう。ただし、勝敗は甲殻武装の破壊……ではなく致命傷になり得る一撃を与えられる状況を作り出すことだ」


 ギンヤの言う「致命傷を与えられる状況」──すなわち、頭などを攻撃できる状況になってしまえば負けであったり、急所を攻撃できる状況を作り出すことが勝敗条件なのだ。

 ギンヤの説明に、レーカは納得したようにうんうんと頷く。

 同時にレーカは致命傷を与え得る状況を作り出すことが、クローゾとの戦いでも出来なかったことを思い出した。


(これは私にも、とても足りない力……!)


 レーカの瞳にやる気の炎が漲る。

 そしてレーカの目の前には、試合相手のプリモがいた。


「それでは各自、試合を開始してくれ」


 ギンヤの合図でレーカとプリモも戦いを始める。


「来なさい! 【プレモスフィーガ】!!」


 プリモが横腹から取り出した手甲を腕に装着。そして、腕から触手が伸びて斧の形を象った。


「お願い。【ヤタノムシヒメ】」


 レーカの手先が硬化する。同時に手先の延長線も硬化して、指先の先が鋭く光った。


「いくよ! プリモ!」

「ええ、かかって来なさい」


 プリモは一切動く様子を見せない。レーカが攻めてくるタイミングを窺っているのだ。レーカはプリモとの距離を詰めようと、動き始めた。

 一歩、二歩、三歩と脚を進めたところで一気に加速する。レーカは硬化させた手刀をプリモの斧目掛けて打ち込む。それをプリモは斧で受け止めて、


「やるわね、レーカ。でも、甘いわね!」


 ──それを右へなす。


「うわっ!」


 レーカの三つ編みが靡き、前にのめり込む。その瞬間、右から蹴りが飛んできた。前倒れの体勢で無防備な状態のレーカ。


「っ……!?」


 レーカは蹴りをもろに受けてしまい、横へ倒れ込んだ。地面を引き摺ってプリモとの間に距離が空くが、プリモは距離を詰める。プリモはレーカに馬乗りになる勢いで迫った。

 しかしレーカは手を地面につけて、飛び上がって追撃を回避。プリモの勢いが止まったところを真っすぐ蹴り飛ばした。

 そのまま真っ直ぐ接近し、手刀で甲殻武装を狙う。プリモは体勢の不完全なまま、斧で手刀を受け止めた。


「チィ……ッ!!」


 苦戦するプリモの苛立ちが口元に現れる。するとプリモの手甲から更なる触手が伸びた。それは両刃の剣を象る。

 その剣を力の限り、レーカへ振るう。しかしレーカはバックステップで躱し、一回転。身体を翻した勢いそのままに、手形をプリモの首元へ突きつけた。


 ──しん、と静寂が二人を支配する。


「私の負けよ。やっぱり強いわね、レーカは……」


 首元に手刀を突きつけられたプリモは、遂に降参したのだった。

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