銀と橙の競演
「いくよっ! 私の新たな力!! 【ヤタノムシヒメ】」
レーカが手先を横へ薙ぎ払えば、その延長線上一帯が切り裂かれる。斬撃の勢いのままクローゾを障壁ごと弾き飛ばした。空間ごと斬る、というような荒業にクローゾはニヤリと嗤う。
「なんの、此れしきッ!!」
クローゾはレーカの前方に障壁を生み出して槌を振り回すと、レーカ目掛けて障壁が押し寄せた。しかしレーカは手のひらを前で広げてそれを防ぐ。手の装甲が際限ない壁となりクローゾを阻んだ。
「っ……!? なに?」
クローゾが驚愕に目を剥くが、槌を振るう手は止まることを知らない。次第にレーカは押されていく。そして、クローゾはとびきり大きく槌を打ち込んだ。
「ぐっ! 私の真髄はまだまだ、これからよ!」
レーカは距離をとりつつも、手を薙ぎ払っては手のひらを突き出す。一進一退の攻防戦がしばらく続く。レーカとクローゾの戦いはある意味、停滞していた。
「こうなったら! 【フォーミュラ・バースト】!」
血流を爆発的に加速させる。黄緑色のオーラを纏い、突進。クローゾとの距離を一瞬で詰める。レーカは障壁ごとクローゾの身体を切り裂こうと手刀を袈裟懸けに振り下ろす。
「いっけぇぇぇぇぇええ!!」
「っ……!! 【根源開放】!」
瞬間、クローゾの
気がつけば、後ろへ回られていた。クローゾに掌打を打ち込まれ、レーカはむせかえる。まるで身体の中の臓器が身体の外側へ飛び出してしまうような、重たい一撃。
「か──っ!! げほっ、かはっ」
口の中が
一度距離を空けて、両手で拳を握った。そして両手を重ねて合わせ、大剣を握るような形をつくる。その延長線が一振りの巨大な
「はぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
「ぐ……!」
何枚もの障壁を前面に展開して、クローゾは斬撃を受け止める。障壁の砕ける音が聞こえるが、その前に槌で障壁ごとレーカを弾き返した。
「うわ……っと! 危ないところだったわ」
レーカは重心を上手く移動させて着地する。しかし、腕を鈍い痛みが襲った。クローゾの槌による衝撃が少しずつ蓄積されていたのだ。
それはクローゾも同様である。
「っ……!? なんだと」
クローゾの槌には亀裂が走り、乾いた音とともに砕け散っていた。互いに満身創痍だが、両者一歩も引く様子がない。辺りが静寂に包まれる。
「毒に染めろ、【デスアナフィーラ】!」
暗い色の毒針がレーカへ向けて降り注ぐ。咄嗟に【ヤタノムシヒメ】の能力で防ぐが、毒を含んだ土煙が舞う。口元を押さえて毒素を吸わないようにするが、既に頭がぼんやりとする。まだ痺れていない分、マシだと言えるだろうか。
「さあお終いですよ、名もなき英雄殿」
甲殻武装の針先を突き付けられて、レーカの動きが止まる。
──この静寂を破ったのは、突如として現れたキースだった。
***
「キース、邪魔しやがって。まだやれるぞ」
クローゾの言葉で距離を置き、キースはクローゾの横に並ぶ。
「いやいや、むしろ感謝してほしいくらいですよ。クローゾもギリギリだったじゃないですか」
キースは軽口で返すが、クローゾはまだ戦える様子だ。しかし甲殻武装の破損した痛みと、レーカの攻撃を受け止めたことによる腕の負傷が残る。それに対してレーカはかなり危険な状況だ。クローゾとの長い攻防で腕を痛めた上、キースの毒を吸ってしまったのだから。
「ッ……」
レーカ一人だけでは劣勢だ。しかし、この場にはもう一人いる。
「私を忘れてもらっちゃ困るわね!! もともとは私の試合でもあるんだから」
声の主は、後ろで戦いを見ていたプリモだ。
「プリモ……」
「さっきはありがとう、レーカ。私も一緒に戦うわ」
「うん!」
レーカの瞳に再び闘志が沸き起こり、脚に力を入れた。膝を伸ばし、腰を支える。拳を力強く握ることで己を鼓舞した。
「いくよ、プリモ!! 【フォーミュラ・バースト】」
「ええ、もちろんよ! 私は私自身を開放するッ!!」
二人は揃って血流を加速させる。そして地面を蹴った。レーカはクローゾを、プリモはキースを標的に接近。クローゾはレーカと一進一退の攻防を再び繰り広げ、キースはプリモと高速戦闘を繰り広げている。プリモのオレンジ色の髪が後ろへ靡き、戦いの軌跡が光り輝く。
「ふんっ!」
「はぁっ!」
クローゾの振るった槌をレーカは手で受け止める。そして衝撃を横へ流した。レーカの銀髪が翻り、双眸が赤く光る。レーカは強い笑みを浮かべながらクローゾと対峙していた。
「はぁっ!」
レーカの手先が障壁に触れる。手を触れさせたまま、レーカは左へと薙ぎ払う。障壁が砕け、横波のような衝撃がクローゾを襲った。
一方でプリモはキースの針のような斬撃を躱しつつ、横へ回って手甲の爪先で地面に叩きつける。軋むような痛みにキースの顔は歪む。
「交代よレーカ。次は私がやるわ!」
「ええ、わかったわ」
キースから離れ、クローゾのもとへ全力疾走。障壁を展開するよりも先にクローゾの腹にアッパーを食らわした。
そしてレーカはキースのもとへ歩いていく。
「くっ、こんなところで……! まさか、能力が進化したとでも言うのか!」
「そんなこと、私が聞きたいくらいよ。でもルリリの……みんなのおかげで私は今、ここにいる!」
レーカは両手で剣を握るように、腕を構えた。そして天高く突き上げる。
「これで、終わりよ──!!」
際限のない
──土煙が舞う。
辺りには誰の影も見えず、レーカはクローゾを警戒してかその場を大きく離れたのだった。
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