蜜蜂VS型破り
「さあさあ次の対戦カードは、接戦の末に勝利を手にしたド派手な能力の持ち主! ミツハ選手ぅぅぅ! 相対するのは、初戦で圧倒的な力を見せつけた英雄の令嬢! レーカ選手ッ!!」
「「「ウワァァァァァアアア!!」」」
ニセコルリの上手い選手紹介に大歓声があがる。しばらくして選手が入場し、ステージ上に立つ。ミツハ手元に甲殻武装を引き寄せて、レーカは手先を硬化させる。まだ血流を速めることはせず、ただピリピリと緊張感を募らせていた。
「それでは! 二回戦第二試合、始めぇぇぇぇぇ!!」
「いくよっ! 【フォーミュラ・バースト】!」
開戦の合図。レーカは早速手首に数本の腕輪模様をつくり、血流を加速させる。黄緑色のオーラを纏い身体能力を向上させていた。一度手を握って開いて、感触を確かめる。
レーカは手刀そのままに、ミツハとの距離を詰める。そして斬撃をミツハの甲殻武装目掛けて放つ。
「させないわよぉ~!! 花開け、【アピスグローリー】!」
柄でレーカを受け止めて、槍の先端が裂けた。五枚の花弁の中央から、光の奔流が放たれる。槍の角度を変えて、レーカを穿つ──。
思いのほかあっさりとした状況に沈黙が場を支配する。
「……こんな大きな攻撃、警戒しないわけないよねっ!」
「っ!? はぁ、
レーカはしっかり攻撃を躱していた。制服に焦げた跡は一つも見つからず、ケロッとした様子で佇んでいる。
レーカは虫一倍、警戒心の強い少女だった。初めからお互い能力が分かっている以上、常にミツハの攻撃を予測しながら動いているのだ。ミツハは若干の苛立ちとともに元の姿へ甲殻武装を戻す。
何度目か分からない打ち合いが続く。ミツハもそれなら肉弾戦、とレーカと同じ土俵で戦っている。レーカの手刀を槍で上手く捌き、手首ごと回転させつつ柄の端でレーカの腹部を突く。ミツハの格闘技術もかなり高水準なものであった。特に手先を器用に扱うことで、レーカの攻撃をピンポイントで受け止めている。
「はぁっ!」
「単調な攻撃ですね~。もっと思考の裏を狙わないと私には勝てませんよ?」
「うん、もちろんっ‼」
手刀による連続攻撃だったものが突如、脚も加わった変幻自在の攻撃へと変貌。脛から先が硬化して、ミツハの胴目掛けて蹴り上げる。
ミツハは一瞬の出来事に思わず距離を置いた。蹴りの勢いそのまま、レーカは空中で一回転。今度は手刀による一撃。
「っ!?」
ミツハは己の甲殻武装で受け止めて、手首を捻る。重心がずらされたレーカは横に転んでしまった。手先の硬化が解け、元の柔肌へと戻る。レーカの頭上から甲殻武装を変化させて、ミツハはいつでも光線を放てる状況をつくった。
「降参することをおすすめするわぁ~」
「……っ、まだ」
「……は?」
「まだ、終わってない!!」
瞬間、手先をもう一度硬化させ手刀でミツハの甲殻武装を弾き飛ばす。
それからミツハに馬乗りになり、手刀の先をミツハの顔面へ突き付けた。
「これで逆転したよ」
「はぁ、降参~! 私の負けっ!!」
「し、試合終了! なんと、勝利したのは……レーカ選手だぁぁぁぁぁぁ!!」
実況席から響くニセコルリの声で試合は幕を閉じる。
しかし、勝利したレーカはどこか満身創痍だ。
「はぁ、はぁ……っ。疲れ、た…………」
浅い呼吸を繰り返して、そのままレーカは意識を手放してしまった。
***
「こ、ここは……」
「っ! レーカ、大丈夫?」
「あれ? ルリリ? ルリリは観客席にいたはずじゃ……」
「レーカは倒れたんだよ。戦いのすぐ後に」
ルリリはレーカが倒れてからの出来事を話した。そしてレーカ達が今いる場所が、備え付けられた医務室であることを知る。レーカは俯いたまま、口を微かに動かした。
「っ、私、いかなきゃ」
「駄目だよレーカ、じっとしてなきゃ!」
部屋の扉のほうで両手を広げて、ルリリは行く道を塞ぐ。ルリリの顔色も何故か悪い。
「駄目。駄目なの。だって、レーカの身体は──」
ルリリの口から告げられた言葉は、レーカの意志を簡単に打ち砕くことのできるものだった。
「ここの先生が言ってた。レーカの身体はもう既に、ボロボロなんだよ。だから今ここで無理をしちゃいけないの!」
「っ、え…………」
今先ほどレーカの意識を奪った、身体に起こる異変。これは原因が全くと言っていいほど不明であり、可能性があるとすれば原因はレーカの父親。
かつて災厄から世界を救った英雄、アトラスにあるのかもしれない。
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