第二ラウンド
「これにて、一回戦は終了でぇぇぇぇす! 勝ち残った方も、敗退してしまった方も、皆さんお疲れ様でしたぁぁぁぁぁあ!!」
コルリは一回戦を締めくくると、次の二回戦について説明を始めた。
「ここからは私、コルリに代わりまして私のもう一つの顔──」
「……ニセコルリが実況させてもらうぜ!」
コルリの別の顔──というよりも本性。何一つ猫を被っていない口調だ。少し声が掠れるくらい、無理に叫ぶような声だった。
「さてさてさーて、対戦カードが再びシャッフルされました! 二回戦第一試合の対戦カードの発表です!!」
ニセコルリが読み上げる。
「まずは、同郷の仲間を支える苦労人! その髪の毛は抜け落ちてしまうのかぁーーー!? ショウ選手ぅぅう!!」
「対するは一回戦で敗退したカステル選手の同郷、そしてライバル! アルケス選手!!」
(俺の紹介はどうなってんだよ!? なんというか、毒舌なのか……?)
ショウは驚きつつも苦笑。名前を呼ばれた者たちがステージ上で対峙した。それぞれ甲殻武装を手にかけて、姿勢を構える。
「それでは、二回戦第一試合! 始めっ!!」
ニセコルリの合図でショウは弓を引く。まずは圧縮した重たい空気弾をアルケスへ発射する。しかし、その攻撃は大きな破裂音とともに弾かれた。
──否。弾かれたというよりも、まるで空気に押し返されたようだ。土煙が舞い、ステージが観客席から視認できなくなる。
「ッ……!?」
「おおっと! 一体、何が起こったんだぁぁぁぁぁ!? 早々に決着してしまったのか!?」
一瞬、何が起こったのか分からない。アルケスは腕を横へ振り払っただけのように見えたが、手の先には薄い翅のようなものが握られている。よく目を凝らすと、それは先端がギザギザした扇だった。土煙がはれて、ショウは驚愕を口にする。
「扇で振り払ったとでも、言うのか……!?」
「その通り。それにしても俺は運が良いみたいだ。この試合、勝たせてもらうよ」
アルケスは落ち着いた口調で返す。
それと先程の『運が良い』という一言。お互いの能力特性が似ていることと、自分に有利であることを指している。
だからアルケスの瞳には目前の勝利しか映っていない。
「ふっ、そうはいかないぜ。生憎、俺にも負けられない理由があるんでね!」
ショウも獰猛に笑い、歯を剥き出しにする。
そしてショウは──
「はぁぁぁぁぁあ!!」
近接戦を選んだ。
弓を近接武器として扱い、弓の関板のあたりを一種の刃として用いる。そうすることで、戦いをアルケスと同じ条件にした。
ショウは互いの間合いをほぼ同一にすることで、空気弾も弾き飛ばせなくする。
それが狙いだった。
「この距離なら、扇を払うのも意味がないだろ! このまま押し切るッ!!」
ショウは弓を大剣のような取り回しで上段から斬り下ろす。斬撃を扇の先で受け止めて、もう一つの扇を反対の手に取った。
「だろうと思ったよ、ふっ!」
アルケスは扇でショウの背面に傷を入れる。薄く切り裂かれ、ぱっくりと血が滲んだ。身にまとう衣服にも亀裂と黄緑色のシミができている。
「っ……どうすれば」
「君はいくつか誤算をしているね。特に俺の能力を」
「なに?」
「俺の能力は扇に空気が纏うんじゃない。扇の先に無が生まれるんだ」
正確には、真空──空気の存在しない空間が生まれる。だから、今までの攻防も空気弾が真空内に吸い込まれて弾けただけのことだ。
「くっ……それな、らッ!!」
瞬間、全身の血液を沸騰させるかのように加速させる。黄緑色のオーラが身を覆い、ショウの運動機能が強化された。
「いくぜ」
「……そうか、かかってきなよ!」
そう言うと同時にアルケスは両手に持った扇を中央で構え、姿勢をやや高くする。
そして地を蹴った。
数瞬のうちに距離が埋められて、反射的に身を屈めるショウ。しかし、それは上手い躱し方とは言えない。
「いてっ!」
「そろそろ、降参してくれるとありがたいんだけど」
「俺、の……負け、だ」
扇の面の部分で軽くぽんと叩き、負けを認めさせる。
「勝負あったぁぁぁぁぁぁ! 熱い! 熱すぎるぅぅぅ! 二回戦第一試合の勝者は、アルケス選手ぅぅぅぅう!!」
「「「ウワァァァァァアアア!!」」」
ショウは二回戦敗退という形で森林大会を終えたのだった。
***
敗北を期した後、ショウは悔し涙を流していた。
「ショウ、具合はどう?」
プリモの言葉も今だけは聞いていられる気がしない。ショウは自分への苛立ちが積もるばかりだった。
「いいや、全然よくねぇよ。くそっ……手も足も、何も出来なかったんだぞ。その点、お前はいいよな。びっくり箱みたいなすごい甲殻武装を持っててさ!」
「……私、ショウの分も頑張るから!!」
唐突なプリモの宣言にショウは目を丸くする。「人の心を察してくれないのか」とショウは思う。しかし、同時にプリモという人物もショウは理解している。
「ははっ……ありがとな、プリモ」
ふと、プリモに感謝の言葉が漏れた。少し照れくさくて、視線を逸らしてしまう。そんなショウの様子にプリモは言葉を返す。
「どういたしまして! ふふっ、さっすが私~!!」
「最後ので台無しだっつのッ!!」
まさにその通りである。
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