華麗なる蜜蜂

「次の対戦カードはオニグイ一族のロベルグ選手対……マディブの若き星、ミツハ選手の試合だぁぁぁぁぁ!!」


 実況席で選手たちの名前を叫ぶコルリ。その横ではこっそりとファルの顔がある。ファルの表情は眉が下がり、目が細まっていた。視線の先はプリモたちが座っている観客席。ファルはいつもどおりの彼らの様子にあきれていた。


(これは、あとでレギウスに報告だな)


 心のメモ帳にするべきことをプラスワンして、これから始まる試合に心を躍らせる。

 やがて選手が入場。しかし選手の二人は正反対の様子だ。ロベルグは堂々とした足踏みで、自信満々のようである。対して、ミツハはどこか疲れた様子だった。


「ではでは~第一回戦第五試合、開始ぃぃぃぃい!」

「頼んだ、【コトダマオニ】!」

「来て頂戴、【アピスグローリー】!」


 お互いステージに立ち、開始の合図が鳴る。その瞬間、対峙する二人は甲殻武装を取り出した。ロベルグはグニャグニャと湾曲した妖しい刀を、ミツハは針のように細い槍。ミツハは姿勢を低くして槍を前方に構えるが、ロベルグは姿勢を構えることなく口を開く。


「おい、女。疲れた表情をしているな? 先に言っておく。お前は棄権したほうがいい」

「何故ですかねぇ~? 私は今まで努力してここにいるんです。そんなことを言われたら、思わず力が入りすぎちゃうかもしれませんよ?」


 ミツハは普段よりも声のトーンを下げて言う。先ほどの言葉に少々苛立っているようだ。


「なら、仕方あるまい。全力でいく!」

「私も、全力でぇ~ッ!!」


 ミツハは叫びとともに地を蹴り、加速しながら刺突を狙う。しかしロベルグに難なく躱されてしまい、横から蹴りを入れられてしまった。


「ぐぬぅ……っ!」

「吹き飛べッ」


 ロベルグは自ら発した空を切り裂く斬撃を見舞う。ミツハは態勢が崩れることに加えてロベルグの追撃が迫る状況に己の能力を解き放つ。


「能力よ、開花して~! 【アピスグローリー】~っ!!」


 瞬間、槍の先端が裂けて、五枚の花弁のように花開く。花弁は太陽光を吸収してすぐさま高温となり、熱線をロベルグへ向けて放射した。


「いっちゃぇぇぇぇええ!!」

「奪い取れ!」


 ロベルグは咄嗟に刀の側面で熱線を受ける。刀身は熱をよく吸収して、保持者の身を守る。しかし、熱線を吸収しきるのも難しかった。

 だから、ロベルグは自身を移動させる。刀の能力で熱を吸いながら真横へ走り、そのまま回り込んで距離を詰める。ミツハの甲殻武装を破壊するべく刀を袈裟懸けに振り下ろす。


「っ……!?」

「くっ……」


 舞台はしんと静まり返る。ロベルグの刀は焼け焦げており、今にも砕け散ってしまいそうだ。ミツハの槍は花弁の一枚に刃が当たり、中ほどまで斬り込まれている。

 まだ、決着はついていない。


 ──パリンッ!!


 砕けたのはどちらなのか。勝者の名前を実況席でコルリが叫んだ。


「俺の、負けだ……」

「こちらこそ、いい試合でしたよ」

「勝者、ミツハ選手ぅぅぅぅぅぅッ!」

「「「ウワァァァァァアアア!!」」」


 客席がどよめき、歓声をあげる。ギリギリの接戦のおかげで拍手喝采の嵐だった。



 ***



「ミツハ! お疲れ様っ」

「うん! 私、勝ったよぉ」


 プリモは相変わらずのはしゃぎ様で、客席に帰ってきたミツハを労う。その数歩後ろではショウが疲れた様子だった。ショウにいち早く気が付いたミツハはため息と一緒に尋ねる。


「どうしたの、ショウ」

「もう、こんなの。あ、あんまりだ……」

「んんん!?」


 だいたいの原因を察して、ミツハはプリモを睨む。しかし、全く理解していない様子で、首を傾げて「んー?」などと子供じみた仕草を見せる。


「ああ、ミツハは理解してくれるのか……俺の心労を。お前とは友達になれそうだな」

「もう友達のはずなのに、本当に大丈夫~? 幻覚でも見たのかしら?」

「あいつはさっきから子供も目を見開くほどの醜態ばかり晒してんだよ! 一緒にいる俺の身にもなってくれよぉぉぉ」


 プリモの晒した醜態の数々──売店で飲み物を買う際のおねだりや選手の応援でなぜか旗を振っていたりと、度肝を抜く行動ばかりなのだ。ショウも「子供か!」と言ってやりたかったが、十回目以降はもう数えていない。

 そんなこんなで試合は回数を重ねていき、遂に二回戦が幕を開けることとなる。

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