ネスの戦い

 次の対戦カードが発表された。第三戦は特に内輪で戦う者はいなかったが、問題はその次の戦いである。

 ネフテュス対ショウ。

 それぞれレーカとプリモの仲間同士の対決だったのだ。


「さてさて次はーーー? ブルメ出身のネフテュス選手対、マディブ出身のショウ選手の対決だぁあああああ!!」


 コルリが実況をする中、ステージでお互い向き合う。まだ甲殻武装は引き抜いていないが、勝利は渡さないという意思が火花を散らすようだ。


「お前、あの時のレーカの近くにいた奴か!」

「お前こそ、ペコペコ謝りまくってた奴だろ?」


 まずは軽口から。


「それでは第四試合、開始ィィイイイ!!」


 そしてコルリの合図とともに、一斉に得物を引き抜いた。


「来てくれ、【テトラポセイドス】」

「頼んだぜ、【アトモスホッパー】!」


 ショウの甲殻武装は弓。しかし、矢にあたるパーツがどこにも見当たらない。ついでに言えば、銃口のような隙間が見えている。

 先に動いたのはネフテュス。四つの矛先をそれぞれショウへ向けて、一歩だけ前に出て、相手の出方を窺う。ショウは一歩も動くことはなく、弓を前へ放つ。


「うがぁ……っ!?」


 ネフテュスの腹部に何かが直撃した。しかし何も見えない。何も見えないという事実がネフテュスに一瞬の隙をつくってしまう。そこをさらに追撃される。


「げほっ……! なんだ、これは」

「しゃーねぇから教えてやるよ。俺の能力は空気弾を飛ばす、だ。くれぐれもあっさり負けてくれるなよ?」

「そうっ、だな……っ!!」


 ネフテュスは甲殻武装の環から高温の蒸気を噴出させた。


「そして俺は、俺自身を開放するッ!」


 瞬間、全身を巡る血液が沸騰するように沸き上がり、ドクドクと音を立てる。同時に黄緑色のオーラを纏っていた。脚を曲げ腰を低く落とした姿勢で矛を片手で短く持つ。


「いくぞ」

「ああ。かかって来い!」


 ショウもニヤリと歯を剝きだして笑い、ネフテュスが攻撃を仕掛けるタイミングを見計らう。脚を蹴ると同時に距離を縮め、手首を捻る。矛先はショウの弓の湾曲した部分にぶつかって軋む。ショウの押し返す力も中々のもので、受け止めたままショウは血流を加速させた。


「こっちもいくぞ、【根源開放】!!」


 ショウも黄緑色のオーラを纏い、指数関数的に力が増していく。その様子にネフテュスは焦燥の色が浮かべる。

 一瞬、何かに恐れて手元を見た。ショウの甲殻武装が押し返せないのだ。そして予想通り空気弾がネフテュスに命中する。


「くっ……!?」


 甲殻武装で弾くことに成功するも、さらなる追撃、衝撃にネフテュスの身体は後方へ吹き飛ばされた。

 ネフテュスは鉤爪の如く、脚で地を引き摺らせて体勢を保つ。それから矛に取り付けられた環から蒸気を噴出させる。蒸気の勢いと共に地を蹴ってショウとの距離を詰めた。


「はぁぁっ!!」

「くっ……」


 ショウは突進を受け止めつつ、身体を捻って相手をいなす。姿勢を崩したネフテュスはそのまま前に転げた。


「降参したらどう?」

「そんなもん……負けて、たまるかよ!!」


 ネフテュスは吠える。

 自分の戦闘スタイルから見て、更に距離を取ることになるショウの戦闘スタイルは天敵そのものだ。どうすれば勝てるか、そのことだけを必死に考える。

 地面が蒸気で霞む。そして気がつく。


「……っ!」


 ネフテュスの顔が先程までとは明らかに変化する。今のネフテュスは勝利を取りにいく獰猛な表情をしていた。

 ネフテュスは全身の力を抜きつつ、甲殻武装から蒸気を視界を覆うほどに振り撒く。全身を包む蒸気と加速させた血流で、相手に覚らせることなく接近する。矛をショウの甲殻武装に打ち込んで、弓に罅が入った。


「っ!?」


 ネフテュスの不可視の一撃を反射的に受け流す。辛うじて、罅が入るだけで済んだといえば聞こえは良い。しかし、未だどちらか一方が優位に立つことは無かった。

 ショウは後方に移動しながらネフテュスへ空気弾を放つ。それを器用に矛先で弾き、ネフテュスは相手の甲殻武装目掛けて思い切り【テトラポセイドス】を振り下ろす。


「…………ッ!!」


 ネフテュスの眼が見開かれる。そこには、霧の中から素手を伸ばしたショウの姿があった。ショウは手をネフテュスの首元へ伸ばし、掴み上げる。


「残念、今回は俺の勝ちだな」


 空気弾の渇いた音が響く。

 ネフテュスの甲殻武装は柄の中央付近で破損し、痛みに意識を落とす。悔しさで涙が零れ落ちる暇も無く、ネフテュスの身体は地面に崩れ落ちた。


 ***


 戦いの後、レーカたちの元へ戻ったネフテュスは陰りのある笑顔を見せた。レーカはネフテュスに駆け寄るが、「一人にしてくれ」とネフテュスは伝えてその場を離れる。


「ネフテュス、どうしたらいいんだろう……」

「レーカ」


 ルリリはクエスチョンマークを浮かべるレーカの肩に手を乗せ、ネフテュスに同情した。ショウにあと一歩届かなかったネフテュスに、ルリリも労いの言葉をかけてあげたかった。しかし今はネフテュスのプライドを優先させるほかない。


「今はそっとしておいてあげよ」

「うん……」


 とうのネフテュスは、柱の陰で密かに嗚咽していたのだった。

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