異形の武装

 レーカの手首に血流が巡り手先が硬化。しかし異常な様子は窺えない。

 通常の【根源開放】よりも速く、レーカはカステルとの距離を詰める。そして手刀による一撃をカステルの【ルナウデルツ】へ見舞う。


「ここでレーカ選手、反撃に開始ぃぃぃーっ!? しかも我々の知らない技を使ってだーーーっ!!」


 手首の輪っかが硬化の負担を軽減しつつ、抵抗が血流を更に加速させる。まさにレーカならではの型を破る技フォーミュラ・バーストだ。見る者たちを驚かせ歓声を沸かせる。そして強き者たちはその力を見定めに入っていた。


「はぁぁぁっ!」


 手刀から拳をつくり、打撃がカステルの腹部へ直撃する。


「うっ! げほっ!」


 よろめき、吐き戻して、後ろへ倒れ込む。しかし、カステルはもう一度立ち上がる。

 両側に伸びる鎌の刃、その片方を地面に突き立てた。レーカの動きにあわせて逆さに薙ぎ払う。


「……っ!」

「…………ッ!!」


 レーカの拳は鎌の側面を捉え、カステルの鎌はレーカの頬に軽く触れた。

 頬に血が滲む。

 でも、そこまでだった。レーカの拳がカステルの武器を打ち砕いたのだ。最初の試合を勝ち取ったのはレーカだった。



 ***



「さっきのなんだ……アレは!?」

「っ!?」


 同じ大会のライバルとしてネフテュスとシロキは驚愕に言葉を失う。レーカの固有強化オリジナル、【フォーミュラ・バースト】は過去の常識を破って通常の【根源開放】よりも数倍に身体能力をはね上げる。

 まさに型破りの業。

 相手のカステルに一撃を見舞ったとき、その瞬間を視認できた者は恐らくほとんどいない。


 レーカの戦いぶりを眺めていたプリモは品定めのような、それでいて心が踊るような感覚に見舞われた。眼球のピントを一点に定めてずっと見続けているくらいに言葉を失っている。

 戦いのあと次の組み合わせが発表されたが、プリモはその間も目を輝かせていたのだった。


「私も、勝つわ! いいわね、ショウ! ミツハ!」

「おう!」

「えぇ!」


 彼らは互いに頷き合う。そしてプリモは扉のほうへ走っていく。




「次に一回戦、第二試合〜!! 対戦のカードはぁぁぁぁっ! マディブ出身、異形の如き甲殻武装を扱う少女〜! プリモ選手ッ!! 対するのは、タランの森で生まれ育った戦いの鬼! リノロス選手っ!!」


 実況のコルリが会場を沸かせつつ、選手の説明を行う。それから二人の選手が登場し、互いに得物を手で握る。

 プリモの甲殻武装は鈍色の斧。刃の部分は縦に長く、刃の形状を見なければ斧であると分からないようなものだった。そして何やら手甲のようなものを身につけている。

 一方、リノロスの得物は鎌──ではなく、鎌のように湾曲した曲刀だ。黒色の刀身がオレンジ色に光る。

 両者向き合って、火蓋の切られる音を待つ。


「それでは──始めっ!」


 コルリの掛け声で、第二試合は幕を開ける。




 戦いは始まった。しかしリノロスは一向に動き出す様子はない。ただ無言を貫いて、相手の出方を待っている。


「それなら!」


 しびれを切らしたプリモは自分の呼吸に合わせて距離を詰めた。同時に斧の刃を逆向きにして振り上げる。


「っ!? 速い……が、避けられないことはないな」

「なんとリノロス選手、華麗な動きでプリモ選手の猛攻を躱していくーー!」


 首から上を後ろへ反らしてプリモの斬撃を回避。重心を横へ移動させ、リノロスは横薙ぎに曲刀を振り払う。


「ええっ!?」


 反撃に驚いた様子で攻撃を受けてしまった。土煙が舞い、リノロスは煙の中を一点に見つめる。


「へっへー! こんな攻撃でやられるわけがないわよ!」


 プリモの甲殻武装は斧ではなかった。今も手にあるそれ──手甲が甲殻武装の正体だった。

 手甲から触手のような腕が伸び、リノロスの斬撃を腕ごと絡め取っている。


「おおっとー! 今度はプリモ選手、甲殻武装は斧ではなかったのかぁーーーっ!?」

「な、ニィ……ッ!?」


 手甲から伸びた触手は禍々しく、まさに異形と呼ぶにふさわしい。リノロスは掴み取られたまま、左右に揺さぶられる。プリモはリノロスを肩関節までホールドした状態で空中に静止させた。

 いわゆる、十字架磔の状態で。


「……降参だ」

「勝者、プリモ選手ぅぅうぅうう!!」


 会場が沸く。歓声とともに驚嘆の声もちらほらと聞こえた。リノロスをよく知っている者たちの声だ。

 プリモのびっくり箱のような能力に出場者の面々は警戒心を極限まで高めたのだった。



 ***



 プリモの勝利で第二試合は幕を下ろす。戻ってくるプリモの姿にミツハとショウは駆け寄ると、それぞれ言葉を口にした。


「プリモ、お疲れ様〜」

「お前ほんとに驚かすの好きだなぁ……流石に相手に同情するぞ」

「へへへ……それほどでも、ないよ?」


 プリモは仲間の二人の言葉に頭をかきながら照れる。


「俺は今、労ったか!? 労ってないよな!? 照れるな!」

「驚かすのは楽しいし、そりゃ照れるよ!」

「……はぁ」


 口々に言い合うプリモとショウを見て、ミツハは何故か深いため息をついた。このやり取りだけはうるさくて、未だに慣れないのだ。

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