第二章

型破りのチカラ

 タランの森からずっと離れた雑木林の奥地、ツーリャ村。その地には、特異な戦い方と特殊な甲殻武装を持つ者たちがいた。


「カステル、気分はどうだ?」

「はい。とても絶好調です」

「若くしてそこまでの動きができるのはとてもすごいことだ。誇っていい」

「……ありがとうございます」


 カステルはツーリャ村の中でも特に若い。しかし、年不相応の戦況を俯瞰できる眼を持っていた。今も甲殻武装の鎌を巧みに扱い、素早く木を伐採している。ある時は逆さに回して振り回したりすることもあった。

 生活に必要な薪を用意すると同時にカステルは訓練に勤しんでいたのだ。



「明日にはこの村を出るのだろう?」


 父親の問いにカステルは首を縦に振る。そして自分の甲殻武装に目を落とす。


「この【ルナウデルツ】と共に、どこまで戦えるのか気になるから俺は……行ってきます!」

「ああ、行ってきなさい」


 視線を父親へ向けながらカステルはニカッと笑うと、明日のために早く床に就いたのだった。




 場所は変わり、ここはマディブの森。

 今はレギウスとファルが森を管理しているが、その地には新たに数人の強者が存在していた。


「おいレギウス」

「うん? どうしたんだファル?」

「あいつら、本当に大丈夫か? 確かに筋は良いが……問題を起こしそうで不安になる」


 レギウスが視線を移せば今もその三人はガヤガヤと揉めている。

 おやつの樹液がどうだとか、次の一戦で勝ったらおやつをもらうだの。食に関しての異様な執着と勢いで互いに切磋琢磨して、戦いにおいても強くなってはいるが、やはり性格に難があるとファルは思った。


「次に勝ったら負けた方が勝った方におやつ献上ね!」

「ああ、乗った!」

「負けても文句言わないでよー?」


 一人はクワガタが祖先だが、異形のような甲殻武装を持つ少女。二人目はバッタの少年、ショウ。三人目はおっとりとしたミツバチの少女、ミツハ。

 戦いの末に負けたのは言い出しっぺのクワガタの少女、プリモ。

 ぎゃあぎゃあ泣き叫び勝利したミツハの脚にしがみつきながら、駄々を捏ねている。そのあまりにも見苦しい姿にファルは再びため息をついた。


(あいつら、実力は確かなんだけどなぁ……。はぁ、なんとも締まらねぇ)


 レギウスは隣に座りながら、苦笑いすることしかできなかったのである。


 ──この強者たちとレーカが出くわすのは、もう少し後のことだった。



 ***



 大会前夜、森林大会参加者や来賓を含めた晩餐会が催されることとなる。その会場にてレーカはルリリやネフテュスたちと行動を共にしていた。果実酒の入った器を片手にあちらこちらへ挨拶に回る。

 その中でレーカに話しかける者が一人いた。


「あなたが英雄の娘? 名前はなに?」

「ええ、私がアトラスの娘だけれど……。私はレーカ、よろしくね」

「私はプリモ。こちらこそよろしく頼むわ! レーカ!!」


 声の主はオレンジ色の髪に紺色の瞳。ツインテールが特徴的な少女、プリモ。突然にレーカの手をとり、ブンブンと握手をする。思わずレーカは困惑してしまい、苦笑いを浮かべた。


 ──ストンッ!


「痛っ!? ちょっと、何するのショウ!?」

「相手が明らかに困惑してんだろうが……! もう、本当にコイツがすみません! 後でキツく言っておきますので!」


 チョップをかました少年──ショウがプリムと一緒に頭を下げる。そしてショウはテーブルに並ぶ沢山の料理を指さした。


「ほら行くぞプリモ! まだご飯はたくさんあるッ!!」

「うん! そうね!」

(えぇぇぇえ……!! そこっ!?)


 プリモを連れてショウは食欲の向くままにテーブルへ向かう。その常識外れな行動にレーカは更に混乱した。苦笑いを浮かべてレーカは他の場所を巡る。

 見知った仲間と会話に花を咲かせ、初対面の相手にご挨拶。晩餐会で困惑することはあったが、いざこざが起こることはなく、平和に幕を閉じた。



 ***



 そして大会当日。レーカ、ネフテュス、シロキの三人は大会に出場するべく受付でエントリーを済ました。


「大会で当たったらお手柔らかに頼むぜ、レーカ」

「ネフテュス。多分、秘策で圧倒しちゃうかもよ?」

「それだけは勘弁」


 ネフテュスは即答。レーカの強さを知っているからこそ余計に恐ろしいと思うのだった。それぞれが己の闘争心を胸に秘めて、呼ばれるのを待つ。


「さあ、始まって参りましたぁー!! 森林大会ッ! 司会実況はこのコルリが務めさせて頂きます! 勝敗条件は至ってシンプル。甲殻武装の破損または戦意の喪失です! 選手の皆さんはしばらくお待ちください!!」


 会場へのアナウンスが響く。そしてトーナメントの組み合わせが発表される。レーカは最初の最初、第一試合だった。ゲートを潜り、レーカとその対戦相手──カステルが対面する。


「それでは用意!」


 互いに戦闘態勢をとり、はじまりの合図が鳴り響いた。


「──始め!」


「はぁぁぁっ!」


 レーカは手刀をつくり、猛接近。それをカステルは地面に突き立てていた鎌を引き抜いて、勢いそのままにレーカを弾く。後方へ飛ばされたレーカは手を地につけて立ち止まる。


「おおっ! カステル選手ー! レーカ選手の手刀を逆さに弾き返したぁーーー!?」


 実況も盛り上がる最中、レーカの表情に獰猛さが垣間見えた。


「これは私も秘策を使わないと追いつけなさそうね」


 レーカは両手に拳をつくり、肘を後ろへ引く。そして叫んだ。


「いくわ! 【フォーミュラ・バースト】!!」


 レーカの両手首に数本の腕輪模様が浮かぶ。見るからに模様の部分は硬くなっており、硬化している部分が交互になっている。

 レーカは血流を加速させた。黄緑色のオーラを纏い、身体能力が爆発的に向上している。


「ここからは手加減無用だけど、いいわよね?」

「ああ、かかって……来い!!」

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