番外編:聖夜祭
「ねぇねぇ、レーカ! これ見てよ」
「ん? なにこれ?」
ルリリが見せたのは深緑とともに赤と白の飾りで彩られたタランの街並み。真昼間からたくさんの住民が飾り付けを行い、ホタルの街灯が木の葉に取り付けられている。
「今日は聖夜祭なんだって」
「聖夜祭? ……って、なんだっけ?」
ルリリは聖夜祭を知っているようで、簡単に説明するとレーカは目を輝かせた。
「すごいわ! そんな綺麗な祭りがあるのね!」
「そこのお嬢さん方。良かったらこれを買っていかないかい?」
露店を出していた男が二人に話しかける。男は手に商品を持ち、ヒラヒラとその商品を揺らす。
木の枝や弦で編まれた円環。そこに街並みと同様の飾りがついている。よく見るとその飾りは三角形の帽子に見えなくもない。
「これは?」
「リースだよ。聖夜祭はこの世界を開いたとされる神様が降臨された日なんだ。今はもう眉唾物みたいな扱いだけどね」
「へぇー、すごいわね。ならこれを一つちょうだい。お代はこれでお願いするわ!」
「あいよ。って、これは……?」
「首飾りよ」
その首飾りはたまたまレーカが持っていたもの。中心の青白い石に麻の糸がぐるっと巻きついており、その隙間から光の欠片が零れ落ちるようだ。しかし宝石ほど高価なものではない。
(誰だったんだろう、あのおじいさん……)
聖夜祭の準備をする中、街を歩いていたレーカが真っ白い服装の老人から受け取ったものだったのだ。
「お代は確かに! じゃあこれを持って行ってくれ、俺の自信作だ」
「はーい。どうもありがとうおじさん!」
男は蔦の籠にリースを入れて、レーカへ手渡す。レーカはそれを受け取ると横に下ろした三つ編みを揺らしながらニィ、と笑う。
走り去って行ったレーカを見ながら男は呟いた。
「俺はおじさんじゃなくて、お兄さん……だけどな。まあ、いいか」
昼を通り越して、日は沈み始める。
「うわぁぁ……! すごい! なにこれ!」
「……んっ!」
レーカは大はしゃぎ。ルリリも口数は少ないが「ん」のトーンがいつもより高かった。
「これはすごいな! お前もそう思うだろ?」
「ああ……。絶景だ」
続いてネフテュスとシロキも集まる。そしてキョロキョロ辺りを見回しながらロニがやってきた。
「これが、聖夜祭……! うぅ、人が多いですね」
祭りの活気は人混みに酔ってしまうほど。既にロニは、顔色が若干暗くなっている。
ホタルの街灯も、赤と白の飾りも全てが幻想的で、聖夜を楽しむ人々を日常から切り離す。
「ルリリ! あっちに行ってみよ! ほら、皆も!!」
街をまっすぐに突き進み、大樹の高台へ登る。街並みを見下ろす形にはなったが、この光景もすばらしい。
「うぅー、寒っ!」
「ん、雪……?」
「雪だな」
夜の寒さに加えて雪が降り始める。葉の上に雪が積もり、結んだ飾りは滑って落ちた。さらには風が吹き、脚が冷える。皆、目を瞑ってしまうほどに風は強く吹く。
その中でレーカだけは見た。
風と雪が集まり、首飾りをくれたおじいさんを象るのを。
(そっか、あのおじいさんが──)
レーカの口元は自然とはにかんでいたのだった。
ちなみにレーカが購入したリースは夜が明けるまで来賓館のドアに飾られたという。
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