殻魔族(後編)

「ここだな……。よし、それじゃあ二人ともお願い!」

「ええ、任されたわ! お願い……【ローザスヴァイン】!!」

「おう、任せとけ! 【ベクトシルヴァ】!」


 まず、ヒメカが『穴』の内側を固めるようにして、蔦を伸ばす。十分な蔦の長さ、十分な蔦の密度になると、ここからはギンヤの出番だ。

 ギンヤはその蔦の虚像を少しだけ、ずれた位置に生み出して、より崩れにくく頑丈にする。


「よし、入るよ!」

『わかった!』


 アトラスの合図で、ヒメカ、キマリ、ギンヤ、ラミニ、ルミニ、ヨーロ、ケタルスの七人も続く。

 これが地底へと続く道。高いところから落下するように自然と重力に従い、地底までほぼまっすぐに進む。時々道がうねったりなどはあるが、ひたすらに下へ落ちる。


「おおっ! 何か地面みたいのが見えてきたぞ!」


 そう呟いたのはギンヤだ。ギンヤは普段のように怯えることもなく、むしろ興奮に胸を踊らせていた。ギンヤのイメージからは想像もつかないような、獰猛な眼光。

 そして一行は目的地、地底世界へ辿り着いた。


「よっと!」


 上手く落下の速度を抑えて、綺麗に着地するアトラス。地底出身のちびっ子四人も上手く着地してみせるが、地上から初めてここに来た者の場合、そう上手くはいかない。


「いたた……!」

「……痛い」


 ヒメカは尻もちをついてしまい、キマリは脚をそのまま着地させてしまった。


「え!? ギンヤ……何で飛んでるの!?」


 そう、ギンヤだけは着地すらせずにただ空中を浮遊している。それも同じ位置に留まっているという通常の昆虫はできない動きを。


「いや、だって……ほら。俺の祖先はトンボらしくて、蛹の時期がないんだってさ。だからすぐに空を飛べるようになるんだよ。しかも……同じ位置をずっとな!」

「そうだったのか! 言われてみれば、翅も透明だし……なんで気がつかなかったんだろう」


 アトラスは妙に納得して、ギンヤのイメージを改めた。ギンヤはやはりというべきか、少し怯えるところがあるので何かとそのイメージが残りやすい。

 しかし今のギンヤの様子は、普段のギンヤのような怯えすら見えない──イメージが覆るほどの姿だった。


「よし! それじゃあ案内するよ! お兄ちゃん!!」


 ラミニが突然、そのようなことを言う。まるでアトラスの村にマルスがいないと言っているような、そんなニュアンスが込められているようだ。


「え? 父さんは村のところにいるんじゃないの?」

「それがね……うーん、やっぱりマルスさんから直接聞いて!」


 そうして、アトラスの手を引っ張って、ラミニは地底世界を走り出す。



 ***



「くっ……! やはり数が多いっ!! 熱を纏え、【アグニール】!!」


 マルスは動き出してしまったこの状況に焦りながら敵を薙ぎ払っていく。しかしマルスはでは、村一番の戦士。焦っているとはいえ、敵に一撃一撃を確実に与えていた。

 熱を纏う甲殻武装の能力チカラで、刃が触れたところから次々と相手を焼き斬っている。


「なんでこんなにも数が多いんだ!? あの村にそこまでの規模はなかったはずだ!」

「なあ、マルス。お前の息子は今、どこにいるんだ……?」


 戦いながら、背中を合わせながら。マルスに声をかけたのはエルファスという殻人族。マルスと旧知の仲であり、戦友でもある。


「だぁーーーっ!? なんで今このタイミングで俺の息子の話が出てくるんだよ!?」

「あいつならもう、年齢的に大人の姿となっていると思ったんだがな……! 連れ戻すことはできないのか?」

「アトラスはまだ大人になんてなってねーぞ!! あと何年かかると思ってんだ!?」

「お、お前……!」


 エルファスは戦う手は止めずに、ただただマルスの言葉に自分の耳を疑った。


「っ!? こいつら、やっぱり数が多いな……っ! マルス! とりあえずこいつらを片付けてからだっ!! その後で話を聞くからな!」

「……っ!? ああ、わかった!」


 そう言うと、二人はより速く、より正確に敵を一人一人屠っていく。

 マルスたちが立ち向かう敵とは、殻人族に似て非なる存在もの。殻人族のように人の姿をしているが、身体はで腕の付け根には前と後ろ、二本の腕が左右にある。

 彼らは地底の民と友好を結んでいたが、突然に反旗を翻したのだ。


 ──だからこそ、地底の民は彼らを殻魔族と呼んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る