求める光(後編)
『なっ!』
四人は驚愕する。急に二人のギレファルへ分身したのだ。能力がそうさせるものなのか、疑ってしまうのも無理はないだろう。
「はっ! これでお前らの有利性は半減した! まあもとより有利なんてものはないけどなぁ!!」
二人のギレファルはそれぞれ甲殻武装の名前を呼ぶ。
「アタシに力を貸せ! 【ラムダブレイカー・ダイスケイ】!」
「アタシに力を貸せ! 【ラムダブレイカー・ボルブドゥル】!」
同じく二つに増えた【ラムダブレイカー】は──それぞれの名前が異なっていた。
「お前らはもう終わりだァ!」
二人のギレファルは同時に灰色の風を纏って、アトラスとギンヤに攻撃を仕掛ける。
《カレン……すまない。儂に代わってはくれぬか?》
「え、ええと。それは……ううん、代償があったとしても、背に腹はかえられないですよね。セツ……」
《っ!? 恩に着るぞ。カレンッ!!》
カチャリと、何か鍵のようなものが外れたような気がした。そして、カレンの人格は影に潜み『氷雪魔蟲』ユシャクの人格が表へ出る。
***
『おらぁぁぁ!』
「ぐっ……!」「うっ!」
刀と槍で受け止めたアトラスとギンヤはあることに気がついて、本能的に距離をとった。
『ほぅ……。良く気がついたな。だからといって、お前らの死は確定なんだよぉ!』
『破壊魔蟲』の名前の通り、【アトラスパーク】と【ベクトシルヴァ】の──【ラムダブレイカー】に触れた部分から亀裂が走り、バラバラと崩壊を始めていく。
「これが、ギレファルの能力……!」
「そうみたいだな……! 本当に厄介な
アトラスは【アトラスパーク】を手放すと、それはすぐさま破裂した。
「ギンヤ……驚いてないで、すぐにそれを遠くへ投げて!」
「あ、ああ!」
ギンヤの【ベクトシルヴァ】をギレファルへ投げると、その槍はギレファルのもとに到達する前に──爆発する。
「なんだよこれぇ! ジリ貧じゃねぇか!!」
「だから俺も、色々考えてるんだよ……」
ギンヤが喚いて、アトラスはため息をつく。
実際にジリ貧であるからこそ、アトラスの思考は狭まるばかり。
(俺は絶対に
「それなら、儂も力を貸そう!」
「っ……誰!?」
そこにいたのは、『タランの巫女』ではなく、もっと別の存在。『氷雪魔蟲』ユシャクだ。手に扇状の甲殻武装、【ブルーメグレイシア】を持ち、漂う雰囲気は極寒地獄。
冷気を身に纏い、足元を凍結させる。一歩一歩、歩くたびに足跡が霜のように凍りつく。そして、ギンヤのもとへ。
「ふむ、ギンヤといったか?」
「あ、ああ。そうだけど」
困惑しながら、ギンヤは答える。
「ちと甲殻武装を貸してくれぬか? あいにく、時間がないのでな」
言われるがままに、【ベクトシルヴァ】を差し出すと、そのまま柄を握った。そして、
「んぅ ……っ! つ、冷たっ! お、おい、どういうつもりだよ!?」
「……少し黙っておれ。お主の強化がもう時期終わる」
「きょ、強化……?」
そしてギンヤの【ベクトシルヴァ】の穂先から氷の刃が生える。今の【ベクトシルヴァ】の見た目は、さながらハルバードだ。
「くっ、ここまでか……! 身体を返すぞ、カレン」
《はい! わかりました!》
人格が元に戻る。そして、ギンヤはカレンの顔を見て口を開いた。
「そういうことだったのか……。ありがとな、カレン!」
ギンヤは大きな背中を見せて、ギレファルのほうへ飛び出した。
***
──ふと、アトラスは思い出す。
アトラスの攻撃が『幻影魔蟲』コーカスに入ったとき、何かが弾けるような感覚があったことを。
そしてそれは、怒りに飲み込まれていなかったとき──ヒメカを助けようとして、戦っていたときに生じた感覚であると。
(俺は……レギウスを救うんだ!)
そして、後ろにいるキマリと──今はもう、悪夢に捕らわれていないヒメカへ声をかけた。
「キマリ! ヒメカ! お願い、力を貸して! キマリはあのときの……刃を鋭くすることはできる?」
「ん、任せて」
「ヒメカも、蔦を伸ばしてギレファルの動きを制限することは?」
「ええ、任せて! 今度こそ、絶対に動きを止めてみせるわ!」
それぞれ、自分の甲殻武装を手に持ち、前で構える。
『本当の戦いはここからだっ!!』
アトラスと、その仲間たちは一斉に二人のギレファル目掛けて接近した。
「お願い! 【ローザスヴァイン】……!」
ヒメカは前方へ放射状に蔦を伸ばす。
「ん、アトラスの武器をつよくして! 【ディバインヘル】!」
キマリはアトラスの甲殻武装と自分自身の甲殻武装をより鋭い刃へ変化させる。
アトラスも【ディバインヘル】の能力を受けて、その力──鋭さが強まった。
「頼むぞ、【ベクトシルヴァ】!!」
ギンヤはアトラス、ヒメカ、キマリの虚像を生み出して、同時に伸びている蔦を複製する。
そしてその全てがギレファルのもとへ接近。
「はぁっ!」
「なんだよ! だから無駄だといくら言えばわかるんだよぉ!!」
すべての蔦をギレファルは二つの【ラムダブレイカー】で横凪ぎに斬り払い、文字通り破壊する。
その隙間を縫うように、アトラスとキマリは接近してキマリを前にして一列に並んで進む。
──そして、根源を開放する。
「いくぞキマリ! 【根源開放】ッ!!」
「ん! 【根源開放】……!」
二人を黄緑色の
血流を加速させ、心臓の音がドクドクと脈打っていて、少し怖いくらいだ。
『なんだ……? 何をする気だ?』
アトラスとキマリは
「──さあね! 攻撃を自分で判断して考えるんだな!」
「ん! いく!」
突然キマリが速度をあげて、一瞬で距離をつめる。
キマリの鎌──【ディバインヘル】による一撃は【ラムダブレイカー・ダイスケイ】と【ラムダブレイカー・ボルブドゥル】の両方にぶつかった。しかし、【ラムダブレイカー】の刃の凹凸に引っかかってしまい、亀裂が入って割れる。
しかしその斜め後ろから、ギンヤが現れた。ハルバードのように【ベクトシルヴァ】を扱い、真上から二つの【ラムダブレイカー】をまとめて叩き折る。
『ぬぐぅ……っ!』
甲殻武装が折れた痛みに、ギレファルの顔が歪む。そして、キマリとギンヤはアトラスの名前を叫んだ。
「いって! アトラス!」
「いってくれ! アトラス!」
「うん! 俺は……レギウスを──!」
キマリの後ろから、空高く飛んだアトラスは横凪ぎに【アトラスパーク】を振り払う。
──そして、何かが弾けるような感覚。
「な、なんだ! これはぁぁぁ! うっ、ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アトラスもギレファルの呪縛を断ち切ることができたと、そんな気がした。ため息をつきながら、血液の流れを元の速さに戻す。
「は、はぁ……。何だかとても疲れたわ……!」
「ん、同意」
「ほんとうにそうだよなぁ……。俺も疲れたし!」
「あの……大丈夫でしたか?」
顔に疲労の色が浮かんでいるギンヤも、二人に同意して、ふらふらとレギウスのもとへ歩いていく。
今のレギウスの肉体は、二つだ。だから警戒を怠ってはならない。
「あれ……? 俺は? どうなったんだ……?」
「その様子はレギウスなの?」
「ああ、助かったよ……アトラス」
レギウスはそう答える。しかし、答えたのは【ラムダブレイカー・ダイスケイ】を握っていたほうの身体だった。
「もう一人のほうはどうなの……?」
ヒメカが思わず、そう呟く。【ラムダブレイカー・ボルブドゥル】を握っていたほうの身体はぴくりとも動かない。『幻影魔蟲』コーカスのときのように、何かが消滅したような感覚は一応あった。
「って! なんだこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『ぷっ、はははははははは!!』
四人が笑い、レギウスの叫びが洞窟内を木霊する。その格好は今更ながら──女物の服装だった。
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