列強篇
第一章
開幕! 森林大会!!
日は高く昇り、絶好の決闘日和。コロッセオの中央から観客席まで声が届く。
「さあ、始まって参りましたぁー!! 森林大会ッ! 司会実況はこのコルリが務めさせて頂きます!」
実況者の女性──コルリが大きな声で告げた。テンションを上げに上げて、会場を沸かせている。これから始まるのは森林や集落の垣根を越えたトーナメント。
「森林大会」と呼ばれる殻人族の一大イベントだ。
「記念するべき最初の一回戦はぁぁぁぁ!? 特殊な戦い方をするといわれるツーリャ村の戦士カステル選手対、英雄アトラスの娘、レーカ選手だぁぁぁぁッ!!」
レーカはコロッセオの片側ゲートから前に出た。対するカステルという選手も反対側から登場する。
「それでは用意!」
審判の合図にお互い戦闘体勢をとり、開始の合図を待つ。レーカは手首から先を硬化させ、カステルはピッケル型の鎌を出現させて、片方の刃を自分の真横に突き立てた。
「──始め!!」
そしてレーカとカステルは激突を始める。レーカが接近して手刀を振るい、それをカステルは一瞬の間にレーカの身体ごと弾き飛ばす。
(えぇ……なんで!?)
視界にカステルの強い笑みが映る。
自分が予測できなかった動き──それは、反対側の刃で逆さに鎌を振るう。カステルの戦い方はとてつもなく、変則的なものだった。
「おおっ! カステル選手ー! レーカ選手の手刀を逆さに弾き返したぁーーー!?」
コルリの実況がまた会場を沸かせ、カステルの戦いぶりに歓声が鳴り響く。
「くっ! まだまだ──ッ!」
レーカは今、タランの森で戦っていた。そしてその理由は数ヶ月前に遡る。
***
レーカがハイネたちに連れ去られ、アトラスが助けに来る。そしてハイネたちは逃走し、暫くの間その行動はなりを潜めた。
レーカは地上世界での日常というものに慣れ、その地での常識というものを掴み始めた頃。
「第三学年からは、遠征があるからな! 皆には遠征に備えて戦闘力を磨いてもらう!!」
なぜ戦闘力なのかと言われれば移動に危険がつきまとうためであるが、それに加えてもう一つ理由がある。
「今年の遠征はタランの森に各地の学生が集まってもらうんだが……例年、武術大会があるんだそうだ。腕に自信のある奴らがこぞって出場するみたいだぞー!」
「武術、大会……ッ!」
レーカの瞳が一際輝く。ふんすと鼻息を荒くして、両手に拳をつくった。
「おお、レーカ。何やら気合いが入ってるなー!」
「はい。最近相手の動きを読むのが楽しくて……」
レーカは少し照れながら言う。レーカには甲殻武装という武器を持たない。代わりに硬化させる能力があるが、生身であることに変わりはなかった。
その対策として相手の動きを予測することをアトラスに勧められたが、レーカはその予測に楽しさを覚えてしまったのだ。
「ははは……行動読めるのはすごいが、普段からやらないようにな?」
「はーい」
担任のギンヤから見ても、レーカの成長は眼を見張るものがある。身長などの身体的特徴もそうだが、一番は思考速度だ。とにかく考えてからの決断が早い。
思い切りが良いと言えば聞こえはいいが、悪く言えば頑固。「これだ!」と決めたものがレーカのすべてとなってしまう。レーカという生徒に対してのギンヤの印象は、このようなものであった。
「まあとにかく、授業を始めるぞ。コロッセオに移動しろー」
そしてこれから身体能力の底上げと戦闘スキルのさらなる磨きが、ギンヤの手によって行われるのである。
「これから教えるのは【根源開放】という甲殻武装に頼らない身体の強化方法だ」
レーカの喉がごくりと鳴った。アトラスたちが普段から使っているあの戦闘手段が使えると分かり、ワクワクしているのだ。
「この方法は特に甲殻武装を取り出すこともなく、そのままの状態で使えるからな……まず原理を教える」
生徒たち全員に原理──血流の加速。そして、それがエネルギー代謝・身体能力の向上へ繋がるということを説明する。
「それじゃあやってみてくれ!」
生徒たちは皆、唖然の表情。
ギンヤはたった一度の説明だけで、皆に血流加速の練習を強いたのだ。当然、理解が追いつくとは言えない。
「先生、どうして詳しい説明が無いんですか?」
ルリリが質問した。その質問にギンヤは難しい顔をしながら答える。
「それはな、この強化方法はとても……個人の感覚に左右されるんだ。だから自分のイメージが全てじゃないんだよ」
「なるほど、わかった……!」
「今回はまあ許すが、タメ口なのは何とかしてくれよな……ルリリ」
ルリリの物言いにギンヤは呆れ顔で咎めた。
そして生徒たちは納得した様子を見せると、【根源開放】という技術を見よう見まねで練習し始めた。
レーカが身体強化の習得に行き詰まるのは、まもなくのことである。
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