綺麗な華舞う居場所
ギンヤと合流して、アトラスが向かうのはタランの森との中間地点。血流を加速させることで、移動時間を大幅に短縮させる。
「いそげアトラス! レーカが危ないぞ!!」
「ああわかってる! 俺だって焦ってるんだよ……ッ!!」
ギンヤはアトラスの内心を想像してか、表情を曇らせる。目的地周辺まで、残り半刻程だ。
「いや!! 痛いっ! くぅ……っ、うぅ」
「ふん、そんなものは知らん。今のが辛いのなら、すぐに硬化をやめろ。そうすれば一瞬で殺してやる」
レーカはクローゾの槌に打ちのめされていた。大振りの衝撃がレーカの硬化を突き破って全身を痺れさせる。その度に大きな悲鳴をあげ、どれだけ辛いのか想像できた。皮膚に蚯蚓脹れのような亀裂が入り、それがズキリと痛む。
「まあ待てよクローゾ。そういうときは硬化できない場所を狙うんだ。つまり眼球を狙え」
「ほう……?」
障壁をレーカの眼前に展開し、それを打ちつけようと槌を振り下ろす。
(うぅっ──!! 助けて、お父さん!)
眼をつむり衝撃に備えたが、その衝撃はやって来なかった。恐る恐る眼を開けると、槌が衝撃を弾く寸前でクローゾの腕が止まっている。クローゾの背後から腕と首元を両手で掴み上げる影があった。レーカからしたら逆光で、涙で歪んだ視界に姿がぼんやりと映る。
「む……?」
「お前らの企みはそこまでだ! はぁッ!!」
影はクローゾを掴み上げたまま、半円を描くかの如く投げ飛ばした。手を伸ばすその様子にレーカの眼が見開かれる。
「大丈夫か、レーカ? 痛いところはない……いや、沢山痛かっただろうな」
「ああぁ……お、お父さんっ!! こ、怖かったよぉぉ……」
レーカは尻餅をついたまま影の正体──アトラスの手を握った。そして顔を手に近づけて嗚咽する。
「待ってろ、今助けてやるからさ!」
「うん……」
「おいおい、待てよアトラス! って、派手にやったな……」
ギンヤも遅れて現れると、クローゾが槌、ハイネがスパイク状の甲殻武装。そしてキースは短剣型の甲殻武装を出現させた。
キースに至っては両サイドから甲殻武装を出現させて、逆手に握っている。
「いくよ。【デスアナフィーラ】!!」
瞬間、甲殻武装の先から紫色に染まっていき、刃全体に行き渡った。それは間違いなく毒であり、アトラスもギンヤもすぐに危険なものであると理解する。
「ギンヤ、レーカを連れて移動してくれ!」
「ああ、わかった。アトラスは……まあ、頑張れよ!」
アトラスは強く頷き返すと、視線を三つの敵へ向けた。甲殻武装──【アトラスパーク】を引き抜き、血流の加速と全身へ蒼雷を纏わせる。
「──今度は容赦しないからな? 【重開放】!!」
瞬間、アトラスの纏うオーラが黄緑からぼんやりと白色へ変化。一呼吸の間もなく、キースとの距離を詰めた。
「えぇ!? そんなマジかよ!」
その一振りでキースの甲殻武装に亀裂が走り、弾き飛ばされる。そしてキースが反対の手に握るものも弾いてしまう。
「なんだよ、このっ……バケモノ!!」
「化け物で結構だよ。レーカにお前らがしたことは絶対に許せないからな」
アトラスの発した言葉を隙と見たのか、クローゾはアトラスを覆うように障壁を張る。クローゾはその障壁ごと、槌で弾き飛ばそうとした。
「ハァッ!」
アトラスが全力で障壁を斬ると、障壁に裂け目が生じる。その隙間から脱出し、クローゾの背後から甲殻武装を狙う。しかしクローゾは、後ろを振り向く動作とともに槌を振り回し、アトラスの攻撃を阻む。
アトラスは下へ潜り込み、クローゾの【エアルプレス】を斬り上げた。
「くっ……!」
「あとはハイネ、お前だけだ!」
「ふっ、それはどうだろうね。君も知ってると思うけど、俺はとても逃げ脚が早いんだ。クローゾ、キース! ここから去るぞ」
「く、分かった。一旦撤退だ……!」
「あー、わかったよ! 次会ったらタダじゃ置かないからな?」
クローゾは納得した様子を見せ、キースは捨て台詞とともに、アトラスの前から逃走する。キースのお陰なのか、その時の素早さはアトラスが追いつけるかどうか不安になる程のものだった。
「お父さん、どうなっちゃったんだろう……」
レーカはギンヤに連れられ、離れたところからアトラスを心配する。木の柱がざっくり折れる音や、母屋が崩れるような音。それらがレーカをより、不安にさせる。
一際、大きな破砕音が響く。
「っ!? お、お父さん!!」
レーカは戻ろうとするが、ギンヤがその手を掴み離さない。レーカは目に涙を溜めて、唇を噛み締めている。
それから一人、誰かの影が土煙の中に映った。
「おーい、レーカ〜」
「お父さん!」
アトラスだ。
ハイネのアジトから無事に帰還を果たし、アトラスはレーカに大きく手を振る。レーカは脚を擦らせながら走り、アトラスに飛びついた。
自分自身が助かったこととアトラスが助けてくれたこと。その両方にレーカは涙する。アトラスにはその様子がもう、どうしようもないくらいに可愛く見えてしまい口元が綻ぶ。
「ああ、俺も大丈夫だから。レーカが無事で、良かった……」
アトラスは強く抱き締め返し、アトラスの姿勢ががたんと崩れた。レーカに寄りかかるような体勢になってしまう。
「お、お父さん!?」
「あー、ごめんなレーカ。ちょっとお父さんも、疲れたみたいだ」
その様子を遠くから見ていたギンヤはため息をついて、なにやら呟く。
「まったく。最後、ちっとも締まらねぇな……」
幸いなことに、その呟きはアトラスにもレーカにも届かなかった。
***
そして月日が流れ、レーカは……。
「うーん、もう少し髪を横で纏めようかな」
人間換算しておおよそ、高校生。レーカの身長はある程度まで伸び、水面を鏡にして髪を結う。長い髪を後ろで三つ編みにし、それを横へ持ってくる。
艶のある銀髪とくせっ毛と三つ編み。それが全て揃ったレーカをアトラスは大絶賛した。
ここでも親バカ健在である。
「レーカ〜、ご飯できたわよー!」
「は、はーい!」
制服の上着を身にまとい、最後のチェック。そしてリビングの食卓へついた。
「「「それじゃあ、いただきます!」」」
森に季節があるのかと言われれば微妙なところだが、アトラスたちの家は綺麗な花が咲き乱れ、水辺に彩りを浮かべていた。
ここがレーカの居場所なのである。
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