再来の魔人(後編)
教室に残されてしまったルリリは重苦しい気分になった。ルリリは以前、ギンヤに諭されてレーカを横で見ていたが、そのうちにレーカの人を惹きつける力に驚かされる。
だから知らないうちに自分もレーカの仲間となっていることに気がつく。もちろんネスもロニも、恐らくシロキも同じ考えだとルリリは思った。
「ん、私はどうしたら……」
頭が真っ白になる。周りを見回しても何があるのかわからないぐらいにルリリは混乱していた。
(レーカ、困ったときはとにかく動く! きっと、後悔する)
(お母さん……!)
母であるキマリが伝えたいつかの言葉が頭を過ぎる。
キマリはアトラスのことを好いていた。キスという行動に移したこともあったが、最終的にはヒメカに負けた。しかしキマリ曰く、悲しくても後悔はなかったらしい。その時の気分は清々しいほど晴れきっていたのだという。
何故か今、その記憶がルリリの頭を過ぎった。
「それなら私は、前に……出る! 私が、動かなきゃ!」
視界が開ける。真っ白だった視界は彩りを取り戻して、同じく頭を抱えているネフテュスの姿が見えた。自分と同じ気持ちなのだと、ルリリは思う。
「……ネス。私たちも、いくよ」
「…………ああ、もちろんだ」
ルリリとネフテュスは共にクローゾとレーカたちが戦っている場所へ向かった。
(待ってて、レーカ!!)
***
「ずいぶん待たせちゃったみたいだね。私は、お前と戦って勝つ!」
「あー。俺はその付き添い兼、保護者のギンヤだ。よろしくな」
レーカとギンヤの二人はクローゾのもとへ姿を現した。レーカは非常に冷たい声で挨拶代わりの宣言をする。
「ふん、英雄の娘と英雄本人か。面白くなってきたな!」
クローゾは片手に槌を持ったまま反対の手で拳を握り、肘を固めて前へ出す。自然と槌の手は後ろへと下がり、戦闘の準備は万端のようであった。
「先生、いっくよ!!」
「ああ、こっちも準備万端だ」
レーカは手刀をつくり硬化させる。ギンヤは己の甲殻武装、【ベクトシルヴァ】を出現させていた。早速能力を発動させ、レーカを三つに分身させてクローゾの翻弄を狙う。
レーカの分身含めてクローゾから距離をとりつつも、決して動きを止めることなく動き回る。
「【根源開放】……!!」
ギンヤは分身することなく一直線に接近し、クローゾが障壁を張る前に懐へ滑り込む。ギンヤも当然槍を振り回すことはできないため、そのまま穂先で刺突する。
「ぐぅ……っ!?」
「今だ、レーカ!」
「うん!」
レーカとその分身は三方向から、クローゾ目掛けて走り出す。
二つはダミーで一つは本物。今のクローゾはよろけた姿勢であり、おまけにレーカの真偽の判断はできない。だから取るべき動きは一つのみだ。
「ぬぅん!!」
障壁をドーム状に、全身を護るように展開する。その障壁をハンマーで叩き割り、障壁がドーム状のまま拡大する。ギンヤもレーカも障壁に押され、不安定な態勢で弾かれてしまった。
「っ、いたた……」
「大丈夫か、レーカ?」
「はい……」
ギンヤに差し出された手を握り、レーカは立ち上がる。レーカは何かを考えて再び手刀をつくり、同時に脚のつま先を硬化させた。
「ふ……!」
息を吐き出し、もう一度吸って吐く。膝を曲げ、硬化させたつま先で地を蹴った。そしてクローゾとの距離を詰め、手刀による刺突を見舞う。それを障壁で防御して、槌を下から振り上げる。
「ぐっ……!」
必死に脚を地面に押し付けて、摩擦に耐えながら衝撃を真っ向から受け止めた。レーカの口元に笑みが浮かぶ。
「先生、今!!」
「ああ、わかってる……よッ!」
ギンヤは自分の分身を生み出して、槍を一斉に投げつける。真っ直ぐに進む刃の先が次々にクローゾへ炸裂し、一部弾かれる。ギンヤの本体が投げた本命の槍も、斜めに掠っただけに終わってしまう。
「な、にぃ……!?」
よく見ると、クローゾの背中に何か鎧のようなものが覆い尽くしていた。
──それは退化した背中の翅が鎧としての役割を担っていたからだ。表側からぶつかったものは皮膚の表面を裂いただけで、血を滲ませる程度に終わる。
「くっ、どうすれば……!」
「レーカぁぁっ!!」
「レーカ、大丈夫か?」
ギンヤは自分の取るべき行動に迷う。そんなピンチの時に駆けつけたのは、なんとルリリとネフテュスだった。
二人ともひどく焦った表情で、余程レーカを心配したのだろう。その様子にレーカは笑顔で答える。
「うん。私は……大丈夫だよ!」
レーカは今一度呼吸を整えて、手刀をつくり直す。
「レーカ、お前は一旦下がってくれ。少し、本気を出す」
ギンヤの本気を出すという宣言。クローゾは「ほう?」と言わんばかりの表情となる。ギンヤはクローゾを怒りの眼で睨みつけて叫んだ。
「行くぜ……【幻氷開放】!!」
瞬間、圧倒的なまでの冷気がギンヤを中心にして渦を巻く。
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