再来の魔人(前編)

「おい、見事に失敗してるじゃねぇか。キース!!」

「ああ、ごめんごめん。思いの外、警戒が強かったみたいだよ……」


 キースは彼らの拠点へと帰還して、薄暗い部屋の中でハイネを含め合流を果たす。そこでクローゾはキースを怒鳴り、失敗を責め立てた。キースも平静を装った受け答えをするが、内心あまり穏やかでもない。完璧な状態での奇襲を避けられたことが、許せなかったのだ。


「まあ待てよクローゾ。君にはもう一度、あそこで騒ぎを起こしてもらう。準備はいいかな?」


 ハイネの言葉にクローゾは歯をむき出して嗤う。それからすぐにクローゾは立ち上がると、甲殻武装を取り出して槌の先を地面に着けて、左手で支えるように持った。

 つまり、気合い十分なのである。


「俺たちの生まれ持った優生思想のために、あの娘には倒れてもらはなくてはね……」


 ハイネは静かに嗤う。



 ***



 キースがたったの一日で姿を消して、夕方。ギンヤは自宅で心配を口にした。


「やはり、キースが怪しいな。一体、何の目的でレーカを……」


 目的など、レーカの立場が邪魔だからに決まっている。とギンヤは思う。だとしたらキースは何故、教師の偽装という遠回りな手段をとったのか。それも謎だ。ギンヤはその点がどうにも引っかかっていた。


「一度、アトラスと話し合う必要があるな」

「ギンヤ、また会いに行かれるんですか?」

「ああ、カレン。またそのうち、あっちに行くかもしれん」


 ギンヤの番いパートナーとなったカレンは久々に会いに行こうと内心で考える。それよりも早く、ギンヤが言った。


「カレン、久々にお前も来ないか?」

「はい! 私も行きます」


 カレンははにかみながら頷き返す。ギンヤたちは二度目の同窓会とレーカについての報告をアトラスにすることとなる。




 数日経って夜。アトラス、ヒメカ、キマリ、ギンヤ、そしてカレンはテントウの店に集まっていた。アトラスとヒメカはこの店に来るのが久々のことで、懐かしそうな目をしている。ギンヤはカレンを連れているためニコニコしていたが、その様子にキマリは舌打ち。ジト目になっていた。


「さて。来てもらって早速なんだが、アトラスに聞いてほしいことがある」

「どうしたの、改まって」

「いや、これはお前の娘に関することだからな」

「なるほど、わかった」


 アトラスの態度が百八十度変わり、姿勢を正す。席に座り、アトラスはギンヤに尋ねた。


「実は、前に一日だけ教員になって姿を消した奴がいたんだ。そいつが来た日が……丁度レーカが狙われた日なんだよ」

「──っ!? それは本当? 名前は!?」

「キースという奴だった。背の低い金髪、なんというか……レギウスに似た体躯だった。恐らくだが──」

「ギンヤ、そのキースって奴がレーカに毒を放ったと考えてるのか?」


 ギンヤは無言で頷く。ギンヤはその可能性以外考えられず、ほぼ確信に近い。


「ただ、姿を消したから今の居場所はわからない……」

「確かに、どうすれば……」


 問題は一向に解決せず。そのためかアトラスたちは暗い表情で帰路に着いたのだった。




 次の日の朝。レーカは一人で登校すると、またもやギンヤに呼び出される。内容は言うまでもなく、注意喚起のことだ。


「レーカ、昨日アトラスと話をした」

「? お父さんと?」

「ああ。犯人が誰だとか、もう関係ない。レーカは人一倍注意をしろ。いいな?」

「わ、わかりました」


 ギンヤはいつにも増して、迫力のある声色で伝える。レーカは驚いて思わず、変な反応をしてしまった。


「さあ、授業を始めるぞ。席に戻れ!」

「はい!」


 自分の席へ着き、視線をギンヤへ向ける。それからギンヤの授業が始まった。


「今日はまず、原生種について知ってもらおうと思う」


 授業内容は『原生種』。現在まで生き残っている昆虫のことだ。彼らは殻人族へ進化することなく、そのままの形そのままの姿で生き長らえている。

 だから骨格も異なり、骨にあたる部分が外側に鎧として存在していた。


「昆虫が殻人族へ至ったことを進化と呼ぶが、この進化は祖先の昆虫によって形態が異なると思わないか?」


 数人が頷いているが、理解できていない者のほうが多いようだ。


「ああ、つまりだな。例えばカミキリが祖先の殻人族とカブトムシが祖先の殻人族であれば、当然殻人族の容姿は異なると思わないか? 同じ手足の形、脚跡の鎧クラストアーマーの場所。すべてが同じなのは不思議だとは思わないか?」

「なるほど……!」


 レーカも理解が追いついたようで、目をパチリと開けている。他の生徒も目で理解を示していた。教室を見回して確認すると、ギンヤは握り拳をつくる。


「そうだな。だから今回はこの進化について考えたいと思う!」


 拳を握りしめたまま肘を立てて、ギンヤは授業の説明を始めたのだった。

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