滅びという望み

「俺にはね、この腐りきった世界を滅ぼすという役目があるんだ。何故アトラス、お前は邪魔をするんだ?」


 サタンが突然、動きを止めて尋ねた。


「滅ぼすとかがどうのこうのもそうだけど、一番は……父さんを、奪ったからに決まってるだろ!」


 アトラスは己の怒りを叫ぶ。それに加えて、アトラスは拳を握りしめた。


「少し昔話をしようか。俺はマルスという父親に期待されていなかった。だから俺は魔蟲の記憶から魔蟲を復活させて、父さんを見返したかったんだ……」


 サタンはそう、己の内に秘めていた感情を吐く。最初はそうだった、とサタンは続けた。


「だから俺は、アトラス。お前が愛されていたことが気に食わない」

「……俺も、父さんを奪ったことは絶対に許さない」


 互いに再び甲殻武装を握り直すと、戦いは続行される。


「頼む……俺に力を貸してくれ」


 一度、深呼吸。そして【アトラスパーク】の柄を両手で握り、縦に構えた。脚を蹴り出し、サタンに距離を詰める。


「はぁっ!」


 縦の一閃。それをサタンは斜めに受け止めて、しばらく鍔迫り合いとなった。サタンは脚を前に蹴り上げて、アトラスはバックステップで回避する。

 サタンは勢いそのままに宙返り。そして再び地を蹴った。あっという間にアトラスとの距離を詰め、垂直に【パラサイトダークネス】を振り下ろした。

 アトラスは横ステップで斬撃を避け、サタンの横一文字の追撃を【アトラスパーク】で受け止める。【アトラスパーク】を縦にして受け止めているために体勢としては有利だったが、今のアトラスには【重開放】による疲労が蓄積されていた。

 今も蒼い雷がアトラスの表面を巡っているが、勢いは確実に弱まっている。


「くっ、く……」

「ははははは、やっぱりその【重開放】は負荷が大きいんだね! 最期は自分で自分の首を絞めることになるとはね!!」


 サタンは一言も発さずにアトラスを弾いた。後方へよろめいてもなお、アトラスは甲殻武装を構え続けるが余り力が入っていないようだ。


「──アトラス! 大丈夫!?」


 ヒメカが透明な翅で滑空しながらアトラスの横へ並ぶ。次に、ギンヤ、キマリ、エルファス、ハイネ、ギレファルが集まった。


「……仲間を集めて勝ったつもりか?」


 サタンは純粋な破壊のエネルギーを前方──アトラスたちのもとへ放った。それをアトラスは甲殻武装の力で押し返す。

 その瞬間、纏っていた雷が消失してしまった。

 全身を駆け巡る血流がうねりをあげているだけで、身体が重くなる。


 アトラスは遂に、血流を加速させることもやめた。


 でも、強い意思は潰えない。アトラスは仲間を見渡してから、1度目を閉じる。

 そして、前を見た。


「サタン……いくぞ!!」


 アトラスは一直線に走り、刀を斜めに振り下ろす。サタンは手首のほんの一捻りでアトラスの斬撃を弾き、アトラスを蹴り飛ばす。


「お前の企みは俺たちで止めてやる……!」


 そこへギンヤが槍を突き出し、サタンの甲殻武装の上に乗せた。それからぐるりと回転させ、【パラサイトダークネス】を弾こうとするも、失敗。

 ギンヤは分身を出現させる。そして、本体の回避と同時に分身体をサタン目掛けて走らせた。


「アンタには借りがあるんだよ」


 ファルはそう言いながら、【ラムダブレイカー】をサタンへ振り下ろし、サタンは甲殻武装で受け止める。その瞬間、ファルの能力で【パラサイトダークネス】に亀裂が入った。


「おらぁぁぁぁ!!」


 エルファスは限界まで甲殻武装を振り回した後、前に叩きつける。力場が発生し、サタンを引き寄せた。


「ヒメカ、いくよ」

「ええ、もちろん!」


 ヒメカとキマリが揃って走り、ヒメカの【ローザスヴァイン】の能力を発動させる。蔦を伸ばし、サタンを拘束した。


 そこに一瞬の隙が生じる。


 キマリは斬撃を飛ばし、蔦ごとサタンを切り裂いた。


「調子に、のるなぁぁぁ!!」


 サタンが咆哮し、地面へ向かって破壊の力を使う。地の底に亀裂が入り、ぐらぐらと不安定になる。


「調子に乗っているのは君だろう?」


 ハイネが遠くから鎖のついた杭を発射し、サタンにとりつこうとした。一瞬、サタンが声の主を見てはっとしたような表情になるが、すぐに杭を躱す。

 アトラスがその背後から【アトラスパーク】を振り下ろそうとしたその時、


「ぐ、っ……ぁぁぁぁぁ!!」


 サタンとアトラスの脚元の亀裂が広がり、空洞化した。アトラスとサタンはその穴へ落ちていく。


(くっ……どうして、こんな)


 アトラスは上のほうから名前を呼ぶ仲間の声が聞こえたが、狭い空洞だからか声があまり届かない。


(俺はどうすれば…………)


 そしてこの瞬間を待っていたかのように、何かが砕け散る音がした。

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