それぞれの死闘(後編)
「おらぁぁぁっ!」
エルファスは己の甲殻武装、【グランドバスター】を垂直に振り下ろした。切っ先から力場を発生させて、原生種を引き寄せる。
そしてエルファスは原生種、エレファスゾウカブトの巨躯へ巨大な剣を構えた。エルファスが対峙する原生種はその巨体が武器であり、体重を乗せた一撃が得意と見える。決して移動速度が早いというわけではなさそうだ。
しかし、移動速度はその戦闘において関係ない。なぜなら、距離など意味を成さないほどに巨大であるからだ。
「ここから先は一対一。どんなにお前の図体がデカかろうが、関係ねぇ!」
エルファスは握る手に力を込めて、頭上で円を描くように振り回してから刀身を原生種へ叩きつけた。すぐに甲殻武装の能力が発動し、引き寄せる力場が原生種の動きを止める。しかし、脚の動きまで押さえ込むことは流石に難しく、脚のなぎ払いでエルファスは弾かれてしまった。
後退するエルファスに原生種は太い頭角で突進する。
「ぐっ……」
エルファスは真正面から突進を受け止めた。圧倒的な体躯の差に押される一方で、エルファスの表情には笑みが浮かぶ。その理由は、敵は巨大だが元が小さな原生種であること。サタンの能力で力を受け取り、巨大化してしまったということだ。
エルファスは受け取れきれなかった力が巨大化に使われていると考えた。
──だから、粘っていれば巨体を維持できなくなる。
「そんなら持久戦だ。【根源開放】!!」
エルファスは黄緑色のオーラを纏い、血管を収縮させた。地につけている脚を曲げて、地面を蹴る。そして前進。
原生種の突進を押し返して、原生種を消耗させる。原生種も負けまいと力強く踏ん張った。
「ぐぅぉおぉぉおぉぉ!!」
ドクン、ドクンと一際大きく血管をうねらせて、より多くの血液を巡らせる。エルファスの中を流れる血液が己の意識を揺らす。
長きに渡る全力の押し合いの末、原生種エレファスゾウカブトは力を失い、体躯が小さくなった。
その隙を【グランドバスター】が一刀両断する。
「はぁ、はぁ…………」
流す血流量を元に戻して、エルファスは心地よい疲労感と荒い呼吸を繰り返していた。
***
「ふむ、困ったね……」
空中を飛び回る原生種オオハネカクシに対して甲殻武装を螺旋状に回転させて動きを封じていたものの、隙間を縫うように脱出されてしまった。
再び捕まえようと考えるが、その手はあまり通用しないだろう。ハイネはそのように考えた。
そしてハイネは片手を自由にして、上半身を前に傾ける。
ハイネが一直線に伸ばした【メフィストクロウラー】の鎖部分を片方の手首に引っ掛けると、鎖の先端の杭は大きく軌道を変えた。
杭の噴出口から勢い良く空気を吐き出して、周囲が灰色の霧に包まれる。そして飛翔する原生種、オオハネカクシのもとへ一直線に突き刺さった。
目と目の間に杭が突き刺さり、回転しながら地面へ落下する。
「まあ、こんなもんかな。さて、順調かな……?」
わざとらしく額をぬぐい、サタンとアトラスの激闘を眺める。原生種を仕留めた最後に飛び出したのは、そんな己の懸念だった。
***
ファルは甲殻武装の特徴的なギザギザの刃を原生種ギラファノコギリクワガタの大顎に当てて手首を捻る。大きく湾曲した大顎を掴もうとするが、力は拮抗していた。おまけに見た目の割に顎が太く、折り曲げることは難しい。崩壊の能力で表面から崩していくも、逆に甲殻武装が刃こぼれを起こしていた。
「なに……?」
ファルは原生種の触覚のあたりから攻撃を当てようと横へ回る。すると原生種も旋回してしまう。それならより速く横へ回るのみだと、ファルは加速する。
速く、さらに速く加速して、突然に速度を落とす。キキーッと脚にブレーキをかけて、直ちに目を見開く。
「【根源開放】……そらぁぁぁ!」
脚の血流を加速させ、踏ん張りとともに横薙ぎの一撃を見舞う。そして原生種、ギラファノコギリクワガタは側面からボロボロと崩れ、亡骸となった。
***
「なに? もうお終いなのか?」
そう言いつつサタンは甲殻武装を自在に振り回して、金色の光とともに破壊のエネルギーを放出する。アトラスはそれを【アトラスパーク】で受け止めるが、わざとなのかサタンの攻撃は斜めに弾き飛んだ。
そして遂に、膝をついてしまう。
「くぅ……っ! まだ…………」
アトラスは【重開放】の反動で動きが鈍くなりつつあったのだ。
身体が重い。身体がビリビリと痺れるようだ。疲労が重なり、身体を動かすのが辛い。この窮地にアトラスは憎悪に似た眼差しをサタンへと向けていた。
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