第三章
重開放
景色を見て、何かを思い出したようにアトラスは、
「みんなを集めることって、できないのかな……?」
と、こぼす。
ヒメカにもアトラスの言う『みんな』がレギウスやカレンなどの他の森で出会った仲間を指しているのだと、すぐに理解できた。
「それは……難しいんじゃないかしら?」
「──いいえ。そんなに難しいことではないですよ?」
『っ、え!?』
ヒメカの反応に割り込むかのように、メイスターが話す。
「だから、難しくはないんですよ。以前、崩壊した場所について恐らく心強い味方が助けにきてはくれませんでしたか?」
「…………!」
言われて気がついた。あれは偶然ではなく、レギウスからの応援だったのだと。
アトラスはプッ、っと息を吐き出すように笑って、
「なんだ、そういうことだったのか。ははっ、レギウスは自分が助けに行けなかったから……そうだったのか」
レギウスとギレファル。今は同じ容姿の二人の殻人族。だからレギウスはギレファルのほうに助けに行かせたのだろう。
表情の崩れたアトラスにメイスターは微笑みながら、
「もう、心配はいらなそうね。それじゃあ行ってきなさいっ!!」
それから再度サタンに立ち向かうために、なにができるかを考える。メイスターが見せてくれた景色を後にして、ちょうど街路をヒメカとともに歩く。その中で自分を分析していると、
「血流を加速させることと、さらに身体能力を上げることができればなぁ」
アトラスがサタンに敵わなかったのは『身体能力を維持する能力』が欠けていることであると考えた。だから高い身体能力を維持することができれば、さらに身体能力のギアを上げることも出来るはずだ。
「ねぇ、血流を加速させて身体能力を上げる時、アトラスは身体の反発を感じたりはする……?」
ヒメカが立場を自分に置き換えて、アトラスに質問する。
──内容は【根源開放】の反動。血流を加速させた後に全身を揺さぶられるような反動だ。
「そりゃあ、節々が痛むくらいにあるよ。でもそれが、どうなるんだ?」
「そうね、私……思ったのよ。甲殻武装の能力をアトラスの体内に使えば反応速度もろとも上がるんじゃないかって」
そして、ヒメカは危険を伴う手段を述べた。
「アトラスの【甲殻武装】は前のような炎じゃなくて、雷のエネルギーとして放出することってできる?」
「っ、ああ。たぶんできる……と思う」
アトラスとヒメカは森のはずれまで飛び出すと、
「来てくれ! 【アトラスパーク】!!」
アトラスの甲殻武装を出現させる。それから炎ではなく電気エネルギーを放出した。
「っ!? コントロールが、難しい!」
まっすぐ、思うように放出できない。途中で曲がるか、地面へ焦げ跡とともに落ちてしまうのだ。自然に流れ出してしまう雷のエネルギーをどうにか食い止めて、その場で動きが止まった。
そこでヒメカは身体の各部位に纏わせて必要次第でエネルギーをまわす、と説明する。
「あとはそれを、自分の動きにあわせて動かせばいいと思うわ!」
「なるほど……!」
何度か、試してみる。
コツはなんとなくだが、掴める気がした。しかし、身体にかかる負荷がとてつもなく大きい。
加えて、強制的に身体を反応させる分、判断が追いつくかもわからなかった。
「っ……!!」
どうにも先に身体が動かされるために、アトラスはむしろ逆方向にふんばってしまう。その様子を外から見守っていたヒメカが、助言を口にする。
「アトラス、その負荷……反発をそのまま前に持ってくれば、あとは心の枷を取り外してみてはどう?」
「ああ、やってみる……!!」
アトラスは一歩分の脚幅を空けて、膝を軽く曲げた。
まず、血流を加速させる。
次に、【アトラスパーク】から電撃を発生させて脚に纏わせた。
そして──跳躍。
「う、うおぉぉぉぉぉぉぉおお!?」
「と、飛んでる……あんなに高いとこまで」
ヒメカも驚愕していた。あくまで自分の提案した手段はサタンに勝つためとはいえ、危険なものだ。それでも、アトラスは身につけてしまった。
だからこそ、ヒメカはさらに期待してしまう。
(やっぱりすごいわね、アトラス……!)
今のヒメカは、罪悪感と期待感が心の中で渦を巻いていた。
それがたとえ、アトラスを立ち直らせるために一生懸命考えた結果だとしても。
集落に戻り、アトラスはなんとか形になるよう、【根源開放】と【甲殻武装】の重ねがけをひたすら繰り返していた。
その傍らでヒメカは見守っており、驚きに顔色が次々と変化する。
「っ……! できた!! 名付けて【重開放】……っ!! 身体能力でサタンに、追いつけるかもしれない!」
アトラスは笑いながらヒメカに語りかけた。達成感にアトラスの表情も朗らかなもので、対照的にヒメカは疲れた表情をしている。
つまり、驚き疲れたのだ。
「本当にアトラスは……なんでも出来ちゃうんだから」
疲れた最後に、感嘆の一言だけ発するヒメカ。
「身体を回復させたら、もう一度。サタンと戦うんだ……!」
アトラスと『滅星魔蟲』サタンの地底を賭けた死闘が、いよいよ幕を開けることとなる。
***
アトラスはヒメカ、ギンヤ、キマリ、エルファス、ハイネ、そしてファルを連れて先の戦いの跡地へ歩み出す。そして、再び地底世界への空洞へ飛び込んだ。
「やあ、やっぱり来たんだね。
予期していたかのように目の前にサタンは待ち構えていた。そして直ぐに【甲殻武装】を取り出すと、
「さあ、俺の
下僕として呼び出したのは、サタンが
ヒメカブト、ギンヤンマ、オオカマキリ、エレファスゾウカブト、オオハネカクシ、ギラファノコギリクワガタ。その六体がそれぞれ獲物を見つけたような目で、アトラス以外の六人と戦闘を始める。
「はぁぁぁ!? これが原生種かよ!?」
ギンヤは暗い洞窟の中、高く飛翔しそれを原生種ギンヤンマが追う。ギンヤの分身に翻弄されながらも突進により一体ずつ分身を砕いていた。
ヒメカは甲殻武装から蔦を伸ばし、それを空中で避けながら接近する原生種ヒメカブト。原生種ヒメカブトは頭角ですくい上げるように地面ごとヒメカの足場を崩していく。
キマリは鎌を鋭利に光らせて斬撃を飛ばし、原生種オオカマキリが空間を斬る斬撃を弾き飛ばす。お返しとばかりに原生種は接近し鎌を振り下ろし、キマリは飛び上がって回避。
エルファスは大剣を振り回し、攻撃を溜める。そして一度に振り切って、切っ先の結晶を原生種エレファスゾウカブトへ飛ばした。
ハイネは鎖のついたスパイクを同心円状に回転させ、スパイクの噴出口から空気を噴射する。その動作が上昇気流を生み出し、原生種オオハネカクシの飛翔を自身の頭上で固定させる。
ファルは原生種ギラファノコギリクワガタに真っ向からぶつかり、崩壊の能力を使う。しかし能力が押し返され、【ラムダブレイカー・ボルドゥブル】に罅が入る。
そしてアトラスは、
「俺は身体能力のほかに、その身体能力に上乗せできる反応速度が……必要だったんだ……! 勝負だ、サタン! いくぞ、【重開放】!!」
第一段階、血流を加速させ黄緑色のオーラを纏う。そしてアトラスは【アトラスパーク】を出現させる。
第二段階、【アトラスパーク】から蒼い雷を散らしながら、それを全身に纏う。
「くっ、っ……!!」
全身を襲う負荷に苦しみをこぼす。サタンはその隙を無視するわけもなく、一瞬にして距離を詰めていく。
「一瞬で決着だなぁぁぁ! アトラス!!」
サタンの【甲殻武装】は、空を切った。
「……は?」
サタンは背後から迫る殺気を本能的に回避する。その瞬間、サタンは見た。
「っ……なんだ、それは!?」
アトラスの纏うオーラは白。黄緑色でも深い蒼色でもない。それらが交じりあったような、眩い白。
「……次は外さない!」
アトラスは地を蹴る。と、理解する間もなく姿が見えなくなった。サタンからすれば、足音と風が雑音として感じるくらいだ。その速さを以て、アトラスはヒットアンドアウェイ、一進一退を繰り返す。すれ違い様に一撃ずつ入れていき、サタンの腕や頬から鮮血が滴り落ちる。
「くっ、はははっ! なるほどね、電気で強制的に動かしているわけか! それなら限界が来るのも近いかな?」
サタンは窮地でも尚、嘲笑を崩さない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます