地底の別れ

 アトラスたちは再び移動を開始していた。暗い地の底で、周りを囲む土を頼りに進んでいく。奥へ進むにつれて暗くなるのだから、サタンを見つけ出すのがより困難になる。


「頼む、父さん……! 力を貸してくれ!」


 アトラスは己の甲殻武装を握り、マルスの炎を再現する。すると辺り一帯が焔に照らされて、視界も開けた。


「みんな、進もう!」

『ああ!』


 そしてしばらく進む。その先に、なにか破壊された痕跡のようなものがあった。その跡は丁度、最初に見たサタンの能力と重なる。

 さらに進めば、またしても破壊の跡が目に映った。最初の位置から少しずつ、斜めに進む度に見えるのだ。


「ふぅん、なるほどねぇ……」


 それを見たハイネが呟く。


「多分サタンは斜め後ろの方角にいると思うよ」


 環を描いているのだろうと、一発で見抜いたハイネは皆に説明してみせる。この環の中心で最後に破壊することで地上を崩落させるのだと。


「っ!? それは、まさか……!」

「そう、その通りだ。我々が中心に向かってサタンを倒したとしても、アトラスの言うように甲殻武装が地面に突き刺さってしまえばそこで皆終わってしまう」

「そんな!」

「これは『賢者』としての忠告。一旦引き返すべきだ。おそらくもう時間は残っていない」


 その言葉にアトラスを含め、アトラスに協力する面々が揃って表情を強ばらせた。ハイネはそのように告げるだけで、土の向こう側にある空を見るように顔を上へと向ける。


 そして悩んだ末にアトラスは──撤退という選択をしたのだった。




「これで最後だ……ぶっ壊れてしまぇぇぇぇえ!!」


 サタンは地面に甲殻武装を突き刺した。すると地面に亀裂が入り、亀裂から眩しくなるほどの光が漏れ出す。

 突き刺してから数瞬の間にサタンは上空へ飛び立つ。


「はははははははは!! いやぁ、綺麗な爆発だー!」


 空高く飛び上がって崩壊しゆく地面を見下ろしながら、醜い笑みを浮かべた。突き刺さっていた甲殻武装が爆発に巻き込まれるが、その痛みさえものともしない。


「っ!? なに……?」


 サタンが地上を見下ろしていると、金色の光が蒼く染め上げられる様子に妖しく目を細めていた。



 ***



 アトラスたちは引き返して、急いで来た道を進む。逆に進んでみれば枝分かれの道が丁度逆になるので、決して迷うこともない。


「っ!? こ、これは……! い、急げ!!」


 ある程度進んだところで、アトラスたちを追いかけるように金色の光が走り抜ける。

 アトラス、ヒメカ、ギンヤ、キマリ、エルファス、ハイネ。その全員が迫り来る光から逃げた。


「くっ! 押し返せ、【アトラスパーク】!!」


 アトラスの甲殻武装に蒼い光が灯る。金色の光を押し返すように光がうねりをあげた。

 そしてアトラスは、サタンの広範囲攻撃に拮抗してみせる。


「ぐぅぅうぅぅうぅ──!! 皆……先に逃げて!」


 アトラスは叫ぶ。ギンヤとキマリ、特にヒメカが戸惑いを見せる。


「お、おいアトラス? ここで死ぬとか、そんなんじゃないよな……?」

「ああ! もちろんだ!」

「わかった。先に進んでるぜ、アトラス」


 そのように伝えて、ギンヤは他の面々を強引に引っ張っていく。取り乱していたヒメカもなんとかアトラスを信じようと、背中を向けた。


「アトラス! 必ず追いかけてよね! わかった!?」

「わかった!」


 顔だけ後ろを向けてアトラスは合図をする。すぐに前を向いて、アトラスは叫んだ。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! もっと力を見せてくれ! 【アトラスパーク】!!」


 アトラスはただひたすらに、サタンの攻撃に抗い続ける。


「ぐぅううぅぅうぅぅ──!」


 サタンは全方位に攻撃を広げるのに対して、アトラスは一点でそれを押し返す。アトラスは自分でも限界のようなものがぼんやりと見えていた。


「父さんを殺したあいつは許せないし、俺もまだ父さんのところには行っちゃいけないんだ! っ、根源開放!!」


 アトラスは血流を加速させ、黄緑色のオーラを纏う。すなわち、身体能力の強化を重ねがけしたのだ。その脚力を以て、まずは岩盤に脚を固定する。それから重心を前へ移動させ、脚で岩盤を押し出す。


「ぐっ、これでもかぁぁぁぁぁぁ!!」


 土壁の亀裂からも光が漏れ出して、アトラスが逆に押し返されていく。そしてアトラスは、瞬間的に甲殻武装の形状を変えた。


「はあぁっ!!」


 現れた姿は、ギンヤの甲殻武装に酷似した槍。アトラスは片手で柄の中央を握って回転の勢いを乗せる。

 甲殻武装の能力と、血流の加速。それから物理的な力。そのすべてで遂に、サタンの攻撃を押し返し始めた。


「跳ね返す……ッ!!」


 しかしアトラスが押し返しつつも、常に押されていることには変わりはない。だからアトラスは、


「これで! お前の企みは終わりだ……!」


 脇を締めて、前に槍を押し出していたものを一瞬の間に回転させる。もう一度、槍を前に突き出した。

 蒼の閃光が一直線に突き進み、サタンの金色の光を霧散させる。


「っ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 間一髪。

 サタンの企みもなにもかも、アトラスは退けることに成功したのだった。

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