集う者たち
あらゆる方向からの揺れが援軍を襲う。落下の衝撃に加えてガタガタ、グラグラと揺れている。円盤は木の葉を通り、やがて地面に墜落した。
「ああ、助かった……!」
ギンヤは頭の後ろをさすりながら呟く。
そして円盤のほうを見ると、円盤の側面に突き刺さっていた突起が外れていた。突起についている鎖もタランの森からそのまま伸びているようで、遥か遠くまで線となって続く。
「お、おわっ!?」
生徒の誰かが驚きの声をあげて、ギンヤが振り向けば、
「戻ってる……?」
するすると何かに引っ張られるように、突起は宙を舞い、鎖の続くほうへ巻き戻されていった。
「ということは、ここがマディブの森……ということかしら?」
ヒメカは何かが違うといった表情で首を傾げる。集落地帯にしては木々の手入れがされていない上、背の低い木々が散見された。
「確かに静かすぎるよな……。
ギンヤも違和感を感じ取ったようである。
冷や汗を浮かべギンヤは周囲の気配を探るが、敵の気配は感じられなかった。地理的にはマディブの森で間違いはないはずだが、やはり物音ひとつない。
その代わりにギンヤが一つ感じとれたのは、
「っ、!? 皆さん、気をつけてください! この気流は、おそらく敵の仕業です……っ!」
カレンがそのように声を張った瞬間、風の斬撃が『援軍』目掛けて襲いかかった。
「なるほど。良く気がついたでござるな……! こうも続いて見破られると、自信を失くすでござるよ」
姿を現したのはミーゼン。手に刀を握り、カレンへ一歩一歩迫っていく。
「ひっ……ひうっ!」
《カレン!! 気をしっかりと持て!》
ミーゼンの殺気にあてられたカレンは後ろへ下がることもできない。カレンの中に眠るユシャクが声を発することで、ようやく身の危険を自覚した。
素早く刀が振り下ろされる。
《カレン! 早くしろっ!!》
ユシャクが声をあげても、どのように動けばいいのか分からない。わなわなと脚を震わせて固まっていた。
「諦めるという、その潔さだけは認めるでござるよ……」
そして刃がカレンの頭を、額を、唇を、皮膚を、一刀両断しようとして──
「っ!? なんだと……」
カレンの目の前には、ギンヤがいた。
「大丈夫か? 危ないから下がってろ!」
「え、でも……!」
「いいから、早く下がってくれ。見ていて危なっかしいんだ。俺の知り合いみたいにな」
「…………」
そう言うとギンヤは己の甲殻武装である銀色の槍を握り直す。光沢のある穂先は眩しい。柄を長くして突きの動作へと移った。
「ほう。そう来るでござるか。ならば、受けて立つでござる」
「ござるござるって全く、語尾をどうにかしてくれ」
「そうか、それはすまなかったで御座る」
「そうじゃねぇ!! ……テンション狂うな」
ギンヤは絶叫するも、やがてため息をつく。
「とりあえずお前を倒してからだ! ヒメカ、お前も力を貸してくれ」
大勢の中、たった一人の名前を呼ぶ。ヒメカは顔をむっとさせて、
「なんで私を名指しなのよ。まあいいわ、ゲロの件を含めて貸し二つね?」
「お、おう」
「準備は終わったでござるか?」
「ああ!」「ええ、もちろんよ!」
そうしてヒメカとギンヤは、ミーゼンと激突する。
「お願い! ローザスヴァイン!」
「頼むぜっ! ベクトシルヴァ」
各々の甲殻武装──その名前を叫んだ。
ヒメカは己の甲殻武装から
「なんと。これは困るでござるな。しかし周りの木々はあまりにも細い」
ミーゼンは自分が蔦に絡め取られている状態で後ろへ動く。同時に固定されている木々も無理な方向へと折れまがってしまった。
「っ!? こ、この……っ!」
「無駄にござる。その程度では拙者に敵わないでござるよ」
「うわっ!?」
ミーゼンの引っ張る力に負けてヒメカの身体は浮くように吹き飛ばされた。咄嗟に蔦の束縛を解くとそのまま着地する。
「ふう、危なかった。ギンヤ! 私のダミーをお願い!!」
「おう! 任せろ!」
ギンヤはヒメカの虚像を生み出し、ヒメカの姿が三人に増えた。ヒメカが走り出すと、それに伴って二人分の虚像も動き出す。
「なるほど、所詮は
虚像は動きも全てヒメカと同じように動いているので、先に動き出したものが本体である。ミーゼンはそれをすぐに見破った。
「破ッ!!」
繊細な剣さばきでミーゼンは虚像だけを破壊。唖然としている本物のヒメカに刀を突きつけた。
「拙者には目的がある。今すぐにここを去るのならばお主たちは見逃すでござる。さて、どうするでござるか?」
ヒメカは唇を噛み締めて、地に膝をついている。その表情は絶望、というよりも悔しさが滲み出ていた。するとヒメカは無言で仲間のもとへ戻った。
「この貸しは絶対に返すわ! 覚えてなさいっ!!」
そしてヒメカたちはミーゼンのもとから去っていった。
「手酷くやられたみたい? 大丈夫?」
「だ、大丈夫よ!」
「大丈夫だぜ!」
『援軍』として向かった生徒や、巫女であるカレンは遂にマディブの森の学校へたどり着いた。そこでヒメカとギンヤは、かすり傷程度の傷であってもキマリに心配されて、二人は揃って同じ返答をする。
「ミーゼンは確かに強かった。ディラリス先生もあんな状態だし」
キマリは左手を失ったディラリスのほうへ視線を向けた。
左手が完全に壊死してしまい、最終的には切り落とすこととなってしまったのだ。その断面は綿の包帯に巻かれていて既に止血がなされている。決して血だらけというわけではないが、纏う雰囲気は悲しそうだ。
「それに」
『それに?』
キマリは少しだけ、深呼吸をして、
「アトラスだって負けた」
「え、そんな、嘘っ!?」
「嘘、だろ? アトラスは!? 今どこにいるんだよ!?」
ヒメカとギンヤはアトラスが死んだと思ったのか、キマリを問い詰めようとした。
「あっち」
しかしキマリは即答。指の示す先には地べたで熟睡しているアトラスの姿。
「か、勘違いさせないでよ! 死んだかと思ったじゃない!」
「そ、そうだよな。アトラスはあんなところで死ぬ奴じゃねぇよな!」
ヒメカとギンヤは早口にまくし立てる。とても安心したような表情で、若干疲れているようにも見えた。
「まあとにかく! 無事なら良かったわ」
ヒメカは言葉には力がない。
「とりあえず空も暗いし、一旦休むべきなんじゃないか?」
空はとっくに紺色になっていて、星が瞬いている。木々の葉の隙間から星が見えるこの光景は、とても綺麗だった。
睡眠をとる前に景色を堪能すると、
「そうね」
「ん、わかった」
「おい、アトラスー! ……うん、あれは多分起きないな」
一瞬、ギンヤがジト目になる。大きく口を開けて爆睡をこいているアトラスの無事を確認すると、三人は校舎の中へと入っていった。
「んぅ……」
──地べたで眠ったままの、アトラスを残して。
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