護る力と戦う力

「新しく学校に編入して早々、決闘ですか……?」

「はい。私が担当していた時に入学希望者が二人いたのですが、何やらトラブルがあったようでして……決闘を申し込んだそうです」

「そう……。それなら、仕方ありませんね。この学校は基本、生徒同士のトラブルは生徒たちの自主性に任せていますから、決闘を認めましょうか……!」


 アトラスが手続きをした時の受付の者と、学校長がアトラスの入学早々のトラブルについて話し合っていた。


「それじゃあフォルモス、会場の設置を進めておいてね」


 最後はとても軽い口調で受付──フォルモスに伝える。どうやら、学校長も二人の編入生に興味があるようだ。

 そしてすぐに、決闘が執り行われる。


「ちゃんと来てくれたようね? 来ないのかと心配したわ……」

「知らなかったのは事実だ。それでも俺は故意じゃないことを証明してみせる!」

「そう……。それなら良かったわ」


 編入することとなる、アトラスにとっては学校生活一日目の明朝。アトラスとヒメカは、コロッセオと呼ばれる場所に立っていた。

 これも木の中をくりぬかれて会場になっており、観客席のようなものが木の中に存在している。

 天井はなく、ただただ青い空が見えていて、日差しがコロッセオの中を温める。

 控えめに言って、壮観だった。

 そんな状況の中、アトラスとヒメカは向かい合いながら審判の開始の合図を待つ。


「それでは、決闘を始めます。準備は良いですか?」

「はい」

「俺も大丈夫です。って、あんたは受付の──」

「っ、それでは始めます! 三、二、一……始めっ‼」


 フォルモスはアトラスを無視してカウントを始める。

 アトラスの疑問は水に流されて、戦いの火蓋が切って落とされた。



「来てくれ! 【アトラスパーク】‼」


 横腹の脚跡の鎧クラストアーマーが前に伸びると、刃のない強靭な刀がアトラスの手に現れる。

 それとともに、横腹の脚跡の鎧クラストアーマーは消失した。


「来なさい! 【プリンセスビオ】‼」


 ヒメカの横腹から細く長いレイピアが引き抜かれる。

 そのレイピアは鈍く黒金のような光を灯す。刀身と柄の間には一本の枝があり、そのレイピアは木のような印象も与えていた。


「行くわよ! はぁっ‼」


 正面からの突きがアトラスを襲う。

 ──瞬間、刀身の付け根からが伸びた。

 蔦はうねりをあげて、アトラスへ絡みつこうと、


「はあっ!」


 アトラスは蔦を剣戟で弾き飛ばして、くるっと一回転。そして、反撃。


「くっ……!」


 ヒメカはステップで後方に避けて、再びアトラスを突こうとする。ヒメカの一撃はアトラスの前髪を靡かせるほどに速く、鋭い。

 さらに、ヒメカは素早く地面を蹴ることで速度をさらに上げる。


「いくぜ……! 後悔するなよ!」


 アトラスはその正面からの突きを身体を捻ってかわし、横からヒメカの【プリンセスビオ】をはじく。


「まだまだよ‼ ほらっ!」


 はじかれたレイピアをすぐに手放して、ヒメカは足でアトラスの横腹へ蹴り上げた。


「うぐっ!」


 アトラスが怯んでいるところでヒメカは自分の甲殻武装クラストウェポンを手に持って、蔦を放射状に伸ばした。

 ──アトラスの逃げ場を塞ぐために。

 それと同時にヒメカは突きの動作へと移る。


「これで終わりね。はぁっ!」


 アトラスの【アトラスパーク】を握る手はその突きを受け止めるのに対して不十分。怯んでいたために力があまり入っていなかった。

 ──避ける手段もなければ、逃げ場もない。

 そんなとき、時間なんてものがもとより存在しなかったかのように、一筋の閃光がアトラスの瞳を走り抜けて、


「いや、まだだ! 地上に出ていきなり罪人扱いとか。そんなの絶対に嫌だ……! 見るもの聞くものが全て新しいものなのに、何もできないなんて嫌に決まってる!」


 この瞬間、アトラスは自分の甲殻武装クラストウェポンに宿る能力チカラを悟った。


「なあ、【アトラスパーク】……やっと気がついたよ、お前の能力。刃がないのはなんだろう?」


 アトラスは自分自身の甲殻武装クラストウェポンに語りかける。


「人を傷つけないため……いいや、誰かを護る。そのためなんだろう?」


 すると、【アトラスパーク】が強く発光した。


「今、このときだけは俺を護ってくれ! 【アトラスパーク】‼」


 アトラスの言葉に感応するかのように【アトラスパーク】は激しく明滅を繰り返す。

 明滅がおさまると、アトラスの甲殻武装クラストウェポンは形の存在しないものとなっていた。液体のような、それでも鏡のように光を反射する。

 その見た目はさながら水銀のよう。

 そしてそれが盾となり、ヒメカの突きを防ぐ。


「アトラス……貴方一体、何なのよそれは!?」

「これか? どうやら、これが俺の甲殻武装クラストウェポンの能力みたいだ……!」


 アトラスの顔には強い意思が宿っていた。


「まだ……っ!」


 ヒメカは己の甲殻武装クラストウェポンを一旦手元に引き戻して、くるっと一回転。身体を翻す。

 そして二度目の突きがアトラスを襲う。


「【アトラスパーク】! 刃がなくてもいい! 俺の剣になれ!」


 アトラスはヒメカの攻撃に対して防御ではなく、反撃の姿勢に移る。

 すると、アトラスの甲殻武装クラストウェポンは形を変えて刀の姿に戻った。


「今度はこっちの番だ!」


 アトラスは刀となった【アトラスパーク】を左斜め下から右斜め上へ振り払う。

 ヒメカはそれを【プリンセスビオ】で受け止めるも、そのレイピアは横からの攻撃にめっぽう弱かった。

 斬る──というよりも、叩き折るといった形でヒメカの甲殻武装クラストウェポンは刃の中ほどからぽっきりと折れてしまう。

 そして甲殻武装クラストウェポンが折れたということは、同時に激しい痛みがヒメカを襲うことを意味する。


「う、ぐ……っ‼」


 ヒメカは辛そうなうめき声をあげて、倒れ伏した。


「そこまで!」


 決闘の終わりを告げる審判の声がコロッセオに響き渡り、辺りが歓声に包まれる。


 ──つまり、アトラスの勝利だった。



 ***



「あなたは本当に何も知らなかったようね。まあ、だいたい分かってはいたけれど」

「俺こそ知らなかったとはいえ……は、裸を見てしまったのは間違いないから。ごめんなさい」

「っ……! いちいち言葉にしなくていいわよ‼ 恥ずかしいから!」


 ヒメカは顔を赤くして怒鳴った。

 しかし、すぐに表情は一変することとなる。

 その理由は言うまでもなく、アトラスの甲殻武装クラストウェポンについてだ。

 ヒメカはアトラスに聞きたいことが山ほどあった。聞いたこともない、未知の甲殻武装クラストウェポンについて。


「とっ、ところでアトラス、あなたの甲殻武装クラストウェポン……あれは何なの!? 変形するものなんて、聞いたこともないわ!」

「俺に聞かれてもなぁ……。元々、刃の部分がなくて何度も木の根に斬りつけては壊しての繰り返しだったよ。父さんの教えでこんな風に鍛練してたんだ。でも、そのときは変形なんてしなかった……。能力が使えたのもあの決闘が初めてだし」

「え? 何度も壊す、ですって……!?」

「うん、そうだけど?」


 ヒメカは何か恐ろしいものを見たような表情に変わった。


「何度も壊したって、まるで『日食魔蟲』みたいなことするわね……! 貴方の父親もそうだけれど、どうして『日食魔蟲』のようなことをするのか理解できないわ」


 『日食魔蟲』はかつて、己の甲殻武装クラストウェポンを壊すことで強くなったといわれているらしい。

 その『日食魔蟲』とやり方が似ていることから、恐れられたのだとアトラスは考えた。


甲殻武装クラストウェポンって壊すほどに強靭になるんじゃないの?」

「そんなのとっくの昔に根拠が無いって否定されたわよ……。実際にそれをやったのは『日食魔蟲』ぐらいだったしね。いくらなんでも、知らなすぎるわよ?」

「そうなのかな……」

「その自覚も無さそうね。はあ……」


 ヒメカはため息をついて、呆れたような顔をした。


(そんなに昔の話だったの……? これ……)


 どうやら、壊すほどに強くなるというのは、今は迷信のようだ。とっくの昔に切り捨てられた手段らしい。


「うーん。根拠がないにしては、実際に強くなったのにな……!」


 それでも、アトラスにとってこの事実は、迷信にしてはやけに現実味がありすぎる。それに加えて、父親のマルスも決して嘘をついている表情でもなかった。

 マルスは普段、おちゃらけた気分屋のような一面がある。

 それでも、あのときのマルスは自分自身の経験からものを言っているようにしかアトラスには見えなかったのだ。


「その顔は本当に迷信を信じていたようね……」

「え、えっと……はい」

「はあ、アトラスはとんだ世間知らずね……」


 アトラスは力なく頷いた。

 すると、思わずヒメカの口から更にため息がこぼれてしまう。


「昔は父さんたちと地中で暮らしてたから『森』にはかなり疎いんだと思う」

「はいはい、もうその冗談は聞き飽きたわ」

「いや、別に冗談を言ってる訳じゃ……」

「そんなことより、そろそろ校舎に戻るわよ! ほら!」


 そう言ってヒメカは己の右手を差し出した。

 アトラスは流されるままに、その手を握った。


「それじゃあ行こう!」

「っ!? どうして手を繋がなくちゃいけないのよ!? 握手よ、握手‼」

「え、ああ! ごめん!」

「ま、まあいいわ……。早く戻りましょ」


 ヒメカは早口にまくし立てて、校舎へ。アトラスもヒメカについて行くように、小走りで後を追う。


 ──記念すべき学校生活の第一歩は、ヒメカと仲良くなることだった。

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